2 Good tea time
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PCの前で涙を流しそうになりましt((
これからもよろしくお願いします^^
よく見ればこの人の来ている服は白スーツと言う一番近づきたくない服装だ。可愛い女の人がいたら声をかけそうな、欲情した男の人の模範のような恰好じゃないか。
思わず一歩後退すると、変態は一歩近づいてくる。ちりん、と音がして彼の、ワイシャツのボタンが二、三個外された首元を見ると、鈴のついた茶色い首輪が付いていた。
何なんだこの人。まるで私の飼っていた猫のダイナにそっくりじゃない。
思わず眉を顰めた時、猫のようなその人が自分を指さし名乗った。
「俺は『チェシャ猫』。チェシャ猫のエシル。よろしく、アリス」
「猫?」
「そう、俺可愛い猫なのー。にゃん」
手を丸め顔の横に持ってきて、猫のポーズをする変態。
やばい、本気で吐き気が……。
青い顔で口に手を当てた私を見て、「どうしたの、大丈夫ー?」とあのポーズのままで聞かれる。予想以上に顔が近づいたので、思わずばっと離れる。
「離れろ変態ストーカー猫野郎」
「わあ色々詰め込んだ悪口言われたよ。結構傷ついた」
そう言って、胸に手を当て倒れ込む。
こいつの存在はもうスルーでいいかな。
勝手にそう思い込み、スカートをひらりと翻してその場を去ろうとする。しかし。
「あ、この位置見える。アリスって以外な色」
倒れ込んだ彼の位置からは、私のスカートの中が見えたらしい。にやにやとシニカルな笑みを浮かべて事実を伝えようとするその口めがけ、満面の笑みで、
「一回どころか百回ぐらい死んでこい、変態――――っ!」
記憶を無くさせる勢いで拳を落としました。ですが。
「……っわっと! まったくもう、今回のアリスは本当に危険なんだから」
素早くその場でくるりと寝返りをうって危険を回避する。そのついでに、地面に激突すると思った私の、勢いのついた女子とは思えない拳を大きな手でふわりと包みこんだ。
「野蛮な『アリス』って聞いたことないんだけど……貴女、本当にアリスだよね」
「私が聞きたいわよ。えーっと、名前何だっけ」
「酷いなぁ、もう。チェシャ猫だよ、チェシャ猫。なんなら『ダーリン』って呼んでくれてもいいけど」
「ゴメンそれ言ったら死ぬから無理。……だから、チェシャ猫じゃなくて貴方の名前! チェシャ猫はキャラクター名でしょ。私が聞きたいのは名前なの、貴方自身の」
前半部分の私の言葉を無視し、彼は目を丸く見開く。元々大きな目がもっと大きくなり、猫のような瞳が動揺で渦巻いた。
「……本当に、可笑しな人だ、貴女は」
瞬きをし、瞳の動揺を隠して笑った。その行動にピエロのような仮面をつけていることが一瞬垣間見える。
「もう一度言うよ、俺の名前はエシル。気まぐれで『アリス』に懐いて、そして――殺す。そんな役割を持ったチェシャ猫だよ」
……待て待て。殺す……?
「ねえ、エシル。殺すって聞こえたんだけど、一体何?」
「え? アリス、聞かされてないの?」
手に持った飴を再び、ぺろぺろと真っ赤な舌で舐めながら聞き返す。
「もうその飴あげるわよ……食べれるものじゃなくなったわ……」
「えー酷い。ほら、飴屋のおじさんが変な目で見てるよ」
言われて気が付く。今までこいつの変態行動に気を取られて忘れていた。おじさんが近くにいたんだっけ。
好奇の目で私たちを見ているおじさんにエシルはちっと小さく舌打ちをして、飴を口にくわえる。それからそっと私の腰に手を回す。
「見た目通りだね。細くもないし太くもな、」
「それ以上言ったら殺す。……それより、何この状態。変態に腰抱かれてるか弱き乙女? あ、警察沙汰?」
「この国に警察なんていないよ。それよりアリス、ちゃんとつかまっててね? 落ちちゃうから」
ぱちりと吐き気のする……いや、ミーハーな女子は黄色い声を上げるウインクをして、私の体は再びふわりとした感覚に襲われる。
デジャヴ。そうこれはなんというデジャヴ。
「高い高い高い落ちる落ちる落ちる、殺すぞ変態ストーカー白スーツロン毛ナルシ猫ーっ!」
ぴょん、と私を抱いたまま軽々しく近くの屋根にに飛び移り、そのまま猫のようなしなやかな動きでその上を疾走する。
目の前の景色が息をつく暇もなく背後に流れる。耳元で風を切る音が止まることなく聞こえる。
「速いーっ! あんたは一体何なんだっ!」
「えー? 猫。それより、これから帽子屋敷に行くからちょっと静かにしてね。あの人、五月蠅い人嫌いだから」
だったらあんたが世界一嫌いなんじゃない? と皮肉を投げかけると、よく分かったねー! と言う悲しい答えが返ってきた。
……きっと友達いないんだろうな……。
「アリス、今俺の悪口思ったでしょ」
「え? 何で分かったの」
「同情するようなカオしてたから。それに、俺にも友達くらい――、」
いたよ、と呟いた彼の声が風の音に混じって聞こえた。
珍しく感情のこもっていないその呟きに、思わず彼の顔を覗くが、ふい、と逸らされた。
「今の俺、『チェシャ猫』じゃないから見ないで。それに――、着いたよ、帽子屋敷」
赤い屋根から大きめの木に飛び移り、華麗に着地。
「どうだった? 俺すごい?」
「うん、すごく私の中の常識を否定した走りだったわ。帽子屋敷まで運んでくれてありがとう、これからは街で見かけても声をかけないでね」
「酷い、俺これでも頑張ったのに!」
「頑張りの度合いが違うのよ! 何故に屋根の上を全力疾走する」
「それは俺の中の猫精神が」
「黙れ」
「……何をしている」
軽く口喧嘩になっていた私たちの間に、黒光りのステッキが素早く入り込んだ。その先端はエシルの喉を確実に狙っている。
そのステッキを外そうともせずに、降参と言って手を挙げた彼は、目の前の男性に笑顔で挨拶をした。
「Good tea time、アット。――いや、帽子屋」