1 私は思う
アリスの姿を見送ってから、この屋敷の主人――アットは深くため息をつき、シルクハットを被り直した。目の前にいる人物はいったい何をしているのか、目を細めながら探る。元々人が好きではない性格なので、心の中にある感情は読み取れない。
ちっと小さく舌打ちをして、手に持った仕込みステッキを握り直した。自分が戦闘を好まず、口だけで相手を抑え込んできたと言うのはばれている。運動神経もそうだが、どうも人の感情と言うものを読むのが苦手なのが主な理由だろう。今でも人との会話が成立せずに、話し相手と言うものはオアか、アルクか、エシル――は一方的にからかわれているだけだが――位しかいない。小さいころからアビの事は知っていたが、ほぼ基本的なデータだけだ。仲がいい、と言えばうそになるのかもしれない。
そんな彼だが、アビがアリス関連でいつか壊れるかもしれない、と言うのは昔から悟っていた。珍しく自分で読み取ったその情報は、ここ数年で信憑性が薄れてきたが、まさか今回とは。前回ならまだわかる。愛する女性が男癖の悪い悪女だったのだから。しかし彼はそのことを知らずに、彼女は亡くなってしまった。そんな時ワンクッションおいて登場したのがアリスだ。前回と全くの正反対。しかもお人好しと来る。まったくの正反対なタイプ。
……きっと、ここで崩れたんだろうな。
彼女を非難するわけではない。だかこうなったのは一体誰のせいだと怒鳴りたい。この部屋に穴をあけたのがただの泥棒なら、自分一人で解決できる自信がある。だが、ダムとディー、イグよりは少ないが、何回も死を潜り抜けてきたスペシャリストときたら……。
ちらりと、隣で拳銃を構えている部下の一人、と同時にお互い信頼し合っている仲間のアルクを見る。頬に一筋、冷や汗が垂れた彼の顔は、今迄で見たことのないような瞳をしていた。
……大事な戦力を、一つか二つ、失うことになる。
別に、アリスを守るようなキャラクターではない。そもそも『帽子屋』は中立な立場だ。ハートの城が青になろうが、アリスの両手両足がなくなろうが、無関係な存在。何故かこの屋敷は良く壊れるようで、毎回建っている所を変えるのだが……。今回は全壊どころが焼け野原になりそうだ。
簡潔に言えば『白ウサギ』バーサス『チェシャ猫』。……いや、アビバーサスエシル……だろうか。それにしても二人とも馬鹿だ、とひそかにアットは口角を数ミリあげた。
二人ともアリスに好意を持っているのはバレバレだ。……素直じゃないのかなんなのか知らないが、どうも自分の気持ちに気が付いていないようだが……。
はあ、とため息をついた途端前方から銃弾が飛んできた。間一髪でしゃがみ避けたが、頭を狙っていたらしいその弾は頭上のシルクハットを貫いて窓へ飛んで行った。
「……ああ、帽子が」
顔を顰めて穴の開いた所に触れる。それから溜息をつき、ステッキをアビに向ける。
「……死ね」
それがゴーサインのように、アルクが拳銃を三発、発砲する。定規で引いた黒い線のように一直線でアビの方に飛んで行ったそれは、彼が避けたせいで壁を貫いた。
邪魔ですね、貴方。と呟くように言ったアビは、左手にもう一丁拳銃を握る。
非力なため、引き金を引くのに一苦労なアットは純粋に頭にくる。畜生、こいつの左手欲しい。
「お前もう武器出すなよ」
頭に来るから、と静かにつけたし、ステッキを相手の首に向けて振り落す。きらりと光ったそれは、確実にとらえたと思いきや、拳銃の無機質な口がアットの右目を捕えた。
やばいと思った時には、彼の細く白い指が引き金を静かに引こうとしていた。
私のブログで、おまけ絵のようなものを乗せています
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