16 きっと、大丈夫。
「え? あ、アリスっ!?」
オア君の慌てたような声を背に受けながら、私は空を切って例のピンク色の猫に向かって落ちる。そのうち奴も私の姿が見えたのか、目を丸くしながら落ちてくる私をぼんやりと見つめ、そして――。
「っぶなぁぁぁぁぁいっ!」
間一髪で腕を開き、三階の踊り場からまっさかさまに落ちた私を苦しそうに抱き留めた。よほど危険だと思ったのか、ふう、と息を吐いて唾を飛ばす勢いの大声を耳元で叫ばれる。
「ったく、貴女ねぇ! どんだけ危ないと思ったか! 三階でしょ。馬鹿なの? 貴女馬鹿なの!?」
耳をピンと立てて説教をし続けるエシルにうんざりした私は、窓から呆然と私を見ているオア君に手を振る。その姿に顔を顰めたエシルは、「何やってるの、アリス」と怪訝そうな顔で私の視線の先を辿る。
「アリス、まさか飛び降りるとは――」
勇気あるなぁ、と呟いたオア君の背後に、ルビーの瞳がきらりと光った。
「っ! オアく、」
ぱあん。
よく響く乾いた銃声が、辺りにびりびりと響き渡った。小さな私の悲鳴は彼の耳に届いたのか分からないが、きょとんと驚いている瞳で倒れ込む。
「…………」
ばたりと音を立てて視界から消えたオア君を、ガラス球のような瞳で一瞥するアビ。
「……嘘……」
小さく呟く。足がすくんで動けない私を、普段のアビと違う事を悟ったエシルが抱え上げ、慌てたように走り出す。耳元で「糞……っ」と聞こえるあたり、彼も相当混乱しているようだ。
遠くなのでよく見えなかったが、確かオア君が撃たれたのは右腕。仕事に多少の支障は出るかもしれないが、あの後アビが止めを刺さない限り大丈夫だろう。
「ううん……。大丈夫大丈夫……。そうよ、獣耳のキャラクターって踏んでも死ななそうだし……。チビチビ言っておけばまたいつもみたいに怒るわよね……」
自分で自分を勇気づけてみるも、先ほどの光景と不安が頭の中でぐるぐると廻り、なかなか消えない。ふと気が付くと手が冷たくなっていたので、頬に挟んで温める。ひんやりとした体温が肌を通って体の芯まで通る。
目の前に次々と現れていっては消えていく木々を睨めながら、私は息を切らして走っているエシルに声をかける。
「ねえエシル。自分で走れるから、降ろしてくれない? エシルだって辛いでしょ? あの……あんなの見ちゃったら……」
「別に、俺は慣れてるよ」
珍しく素直に私を地面に降ろした彼は、胸に手を当てて呼吸を整える。それから寂しそうに長い睫を伏せ、ニコリと軽く笑いながら言った。
「信じてる人に裏切られるなんて、ね。殺し合い何て日常茶番だよ。俺は何回も仕事仲間の血を見てるし、……自分が見せたこともある。仕事が仕事なのかもしれないけど、でも……ありきたりの風景なんだよ。それに……俺は、ネズミちゃんがあんなことで死ぬなんて思ってないから。どうせまた俺の前に姿を現す。……ね? そうでしょ?」
ぽん、と頭に手が乗っかる。私の目線に合わせて少し屈んだエシルの手だと気が付いたときには、顔がゆでだこのように真っ赤になっていた。
「そ、そうだね。オア君は、死なない。……それにしても……」
慌ててエシルに背を向けて、二人の姿を思い浮かべる。
「アットとアルク、どうなったんだろう……」
どうも、星野です
いやぁ、プロットにまっったく書いていない展開になってきました←
これからどうなるのかは私も分かりません
オア君とアットとアルク……死亡フラグ折れるか?
それとも回収してしまうのか?
こうご期待!←




