表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Do you love Alice?   作者: _(:D ゆあ 」∠)_
Ⅶ――Alice おもいだす
53/67

11 寒い、熱い

 行き成り腕を引かれ、前に倒れる。地面にぶつかると思い目を閉じると、すぐに鼻先に柔らかいものが当たった。


「……っ、」


 恐る恐る目を開けると、黒色のネクタイ。薄い灰色のワイシャツも見え、少ししてからそれがエシルのスーツだと分かった。……と言う事は。

 上を見上げると、私の頭に顔をうずめるエシルの姿。栗色の髪の間から見える彼の顔は、気のせいか少し赤いように見える。


「……え、ちょ、何々これ」


 しばらく硬直したのち、一向に動こうとしないエシルに訊いてみる。一体何をしようとしているんだこいつは。

 首を少し揺らすとようやく顔をあげ、にやりといつものようにシニカルな笑みを浮かべて答える。


「俺がアリスに抱き着いています」

「それくらいわかるわボケ」


 間髪入れずに反論すると、むう、と唇を尖らせられる。……別に可愛くもなんとも思っていないんですが。


「ところで、いつ離れてくれるんですか」

「いつか」

「具体的に」

「……三日はこの体制でいける」


 無言で鳩尾を蹴る。ぐき、と言う鈍い音が辺りに響き、どんよりとした空に消える。


「……痛い」


 でしょうね。

 うんうんと頷いた私は、なんとなく空を見上げた。あの一撃が決まっても離さない所を見ると、どうやら相当の覚悟がおありの様だ。


「雨、止まないね」


 空から止めどなく落ちてくる透明な雫は、止まることを知らずに、コップの水をこぼしたように大粒だ。……止む気配がないことも考えると、コップの水ではなく最早ホースだ。このままじゃしばらく屋敷に戻れない。五日間も気を失っていたこの身体はすでに重く、一刻も早くふかふかのベッドで眠りたい。

 ああ、こんなこと一回思ったら体は素直だ。足からだんだん震えてきて、私は思わず呟いてしまった。


「…………さむ」


 小さく呟いただけのつもりだったが、どうやらその一言は拾われていたようだ。ピンク色の耳をぴん、と立てて、身体を少し離して金色の瞳が顔を覗いてきた。


「寒いの?」

「う、寒くなんかない」


 ふうん、と意味深に頷き、エシルはまた体を密着してきた。

 こ、これ、言い方はいいけど結構苦しい……。

 息が止まりそうな勢いで体にギュッと抱き着いてくるエシル。私との距離をゼロにしたいのか何なのか。


「ちょ、エシル待って苦しい……」


 その前に心臓が持たない! ……両方の意味で。

 苦しそうに息を吐いた私を見て「わわ、ゴメン!」と慌てて力を緩める。


「えっと、別に下心は……ちょっとはあったけど、アリスをあっためようと思っただけで! ほら、俺体温高いじゃん?」

「ありがたいけど……限度があるわよ限度が!」


 とりあえず反論はしたものの、いつの間にか体の震えは収まってきた。手で半そでから出た腕をさすると、さっきまであった冷たい肌は跡形もなく消えていて、代わりにほんのり温かい健康的な腕になっていた。


「……ありがと」

「ん? 何聞こえなかった」


 目線をわざわざ逸らして呟いたお礼の言葉は、にやにや笑いのエシルには聞こえなかった――いや、明らかに聞こえているけどわざと聞こえないふり。

 ぷつん、と頭の中で何かが切れたので、反論。


「ああそうですかもういいませんよ」

「酷い、何それ俺ただの出来心! 許してよ!」


 ふん、とそっぽを向くと、雨が止んで活動を開始した太陽がきんきんに輝いていた。この気候の変わりようは、流石とでも言うべきか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ