9 ショッキングピンク
「……ここ、何処?」
エシルに連れてこられたのは森の奥。正に見渡す限り木々。最早木以外のものが見つからない。来るまでは丁度良かった気温が急に低くなり、半そでの服から出た私の腕が寒さで鳥肌。
何でこんな所に連れて来たんだと反論すると、曖昧な笑顔を浮かべる。
「ん、ちょっとね」
それから悲しそうな表情になり、一輪の紅い花の所まで歩いていく。
「…………何してんの?」
「うん」
そこの近くでしゃがみ込み、きゅっと目を強く瞑って手を合わせたエシル。その後ろ姿に向かって声をかける。
少しの間そのままの状態で、ようやく気が済んだのか目を開けてゆっくり立ち上がる。
「ついて来てくれてありがとう。でももう、ここにも来ないかな」
「……エシル?」
「ここね、夫人の墓なんだ。ほら、この世界命が軽いでしょ? だから立派な墓なんて作れなかったんだけど。……この小さなものでも、彼女はきっと笑ってくれるから」
そう言って、近くにある花を愛おしそうに見る。
「……今迄、ここでずっと懺悔してたんだ。馬鹿みたいに毎日。少しでも俺のしたことを赦してもらえるようにって。でも貴女に会って、こんなこと意味がないかもとか思い始めたんだ。ほら、今は今、過去は過去って。綺麗さっぱり忘れ去る事なんてできない。でも、一生ここに縋りついて泣くこともできない。だったら、前を見てみようと思って」
へへへ、と頬を掻いたエシルは、私の目を見て続けた。
「ありがとう」
「……別に、感謝されることなんてなぁんにもやってないわよ、私」
「それでもいいんだ。俺が楽になったからね。ちゃんとエシルも『チェシャ猫』も肯定する。……出来る気がするんだよ」
金色の瞳は純粋に輝いている。なんの色も交じっていない、黄金に。
「アビに自殺止められたとき、正直言って嬉しかった。……それを気づかせてくれたのはアリス何だよ」
……きっと、彼はもう大丈夫だ。過去から離れて、それでも後悔をして、そして――アビと仲直りできる。
私はほっと胸をなでおろした。自分の事でもないのに嬉しい。エシルに頼られたのが嬉しい。……あれ?
さっきなんて思った? ん? んん? ちょっと待って、エシルに頼られたのが嬉しい? …………あれぇぇぇっ?
「な、なななな、何思って……」
ば、馬鹿じゃないの私ぃ! 恋をしたら死ぬのよ! って言うかその前に目の前のこいつは変態で変人でストーカー野郎で白スーツで人殺しでピンクの猫じゃない! あり得ないあり得ない……。
「何やってるのアリス。新しい遊び?」
「ばばば馬鹿じゃないのエシル! 木の幹に頭ぶつけてなんかないわよ!」
「……俺何も言ってないんだけど」
「ああそう!」
……おかしいよ私、何か狂ってる! そうか、ここの住人達に頭の色が染められたのね。見事なショッキングピンクに!
「…………やっぱおかしいって、貴女」
ふわり。
私の前髪をあげて、エシルが額に手を置く。普通の人より高めの体温が直接当たり、その熱が一気に全身に行き渡る。顔が熱い。卵焼きできるんじゃないかと思うほどの温度だ。
「……? 熱でもあるんじゃない?」
どぅゆありももう少しで終わります
……あくまでも予定ですが←
自作も多分アリスモチーフです
ホラー色が濃いやつ書きたいです




