8 レッツゴー?
それに、元々死ぬ気なんてないしね。恋をして死ぬなんてバカみたいなこと、やられるものですか。
ぐ、と拳を作り、気合を入れる。こうなったら何が何でも記憶を取り戻してやろうじゃないの!
「そうと決まれば…………どうすればいいんだ?」
うう、まったくわからない。今思い出せるのは私のお姉さんらしき人物に、ひざに乗った猫、そして暖炉のある裕福そうな家のリビング……。
そして、私が言った謎の言葉と、感情。
『……止めて。きえちゃいや。消えないでよ。ここにいて。貴方は一人、私も一人。貴方が消えたら誰もいないの。……何が……? 何でいないの……? いや、嫌だ姉さん。何でそんな事言うの』
『全部全部、貴女のせいだと思いながら』
「……一体何なんだよ……もう……」
「何がー?」
「うわっ!?」
背後で行き成り声がして、私はびくりと飛び上がった。その行動に背後の人物は心底驚いたらしく、「へっ? あ、ゴメン」と謝ってきた。
「……本当にゴメン、アリス。別に驚かすつもりはなかったんだよ?」
「……はあ、またあんたか、エシル……」
楽しそうに細める金色の目を軽く睨みながら、ため息をつく。マイナスイオンを発している森林に不釣合いなピンクと紫の髪がふわりと風で揺れた。
「いやぁ、やっぱり猫だからかなぁー? 懐く人には懐くよ。飽きるの早いけど、」
「あーはいはいそうですか。それじゃあまたね」
「え、ちょっと何その光速の切り上げ! 最後まで聞いてよ俺の言葉ぁ!」
くるりと踵を返して帽子屋に向かった私。その瞬間、首に腕が回された。そのままぐいっと引っ張られる。
「……ぐえっ!」
強い力で首が圧迫される。喉から妙な声が出て、力が抜ける。
「……わ。アリス大丈夫?」
「だ、大丈夫なわけあるかぁ……」
ぱ、と離された腕をつねり上げようとする。……くそう、つねる肉さえないのか、この腕はっ……。
何してるの? と訊かれてようやく諦め、恨みのこもったパンチを繰り出す。見事に鳩尾にめり込んだ。
「……え、何で今までで一番恨みがこもってるの……?」
「いつもこめてるから大丈夫」
「何その元気づけ!」
私が殴ったところをさすりながら声をあげたエシル。……そういえば、何でここに来たんだろう?
首を傾げながら訊くと、「いや、一緒にどこか行こうかなって思ってー」と帰ってきた。
……うん、無視していいかな。
ニコニコと笑みを浮かべているエシルをシカトし、足を進める。
「えー。行こうよー。楽しいよー?」
「一人で逝って」
「漢字違う! 結構違うっ!」
耳元で叫ばれ、私は頭を掻く。煩い。ものすごく煩い。
「……もう分かったよ。その代わり、少しだけだからね!」




