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Do you love Alice?   作者: _(:D ゆあ 」∠)_
Ⅱ――Alice 猫とMad Tea-Party
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1 欲情変態猫登場

 

 乱暴に作られた道を進んでいくと、また下手な文字で『町はこちら』と書かれた看板が現われた。


「……これ、そのうち壊すと思うわ」


 まるで危機感のないその看板を蹴り倒さないように怒りを押し殺して進む。すると少しして。


「あはははっ!」

「風船頂戴、いくら?」

「コラ、走るな!」

「そこのお嬢ちゃん、飴はいるかい?」


 街が見えた。


「……わあ……!」


 こう、と小さな風が巻き上がるごとに舞い上がる、ピンク色の花びらに包まれた街。

 左右に建てられたお店には何処も人が集まっており、笑顔が詰まっている。ゆったりとした雰囲気のカフェに、うっとりするようなドレスがガラスケースに収まっている洋服屋、仲のよさそうな家族が食事をしているレストラン。

 その前では、可憐なスカートをふわりと揺らし走り回る子供に、慌ててその後を追いかける母親らしきマダム。黒光りするステッキを片手にさっそうと歩く男性。

 ピンクの花びらをきゃっきゃと集めている街の人々の様子に、私は思わずにっこりと笑った。


「おいおい嬢ちゃん、見かけない顔だね」


 小さな売店で飴を売っている、髭を生やした大らかなおじさんが話しかけてきた。小ぶりで可愛らしいオレンジ色の売店の看板には、ファンシーな文字で『小さな飴工場』と書かれている。

 手に持った棒付飴を差し出され上機嫌になるも、その形が猫で少しだけ眉間にしわを寄せた。

 アビの言っていた「欲情した変態の猫」に絶対に会わずに帽子屋敷に行かなくてはならないのだ。急に不安が込み上げてくる。


「どうした? 猫が嫌ならウサギもあるが」


 ウサギとはあれか、あの私にナイフを向けたフードの可愛らしくないウサギの事か。


「いえ、これ貰います」

「そうか。……ところで、嬢ちゃんは本当に誰なんだい?」


 ぱくりと飴を口に含んだとき、おずおずとおじさんに聞かれる。

 ……別にアリスってこと隠さなくてもいいよね。このおじさん親切だし。

 そう思って、飴を口に含みながら「アリスです」と名乗るも、口に飴を含んでいるのできちんと言葉を話せない。


「……なに? ちゃんと言ってくれ」


 案の定、耳に手を当てておじさんに聞き返される。

 私は口から取り出して、溶けて少し形の崩れた猫を見ながらもう一度ちゃんと名乗ろうとした、その時――。


「わあ美味しそうな飴だね。食べていい?」


 背後から低めの男性の声がして、くいっと飴を持っている手首を引っ張られる。

 逆光で顔や容姿は良く見えないが、私より確実に高い位置にある顔を見ると、いたずらっ子のような笑顔を浮かべていた。頭には帽子をかぶっている。


「……は?」


 おじさんと私の声が見事に重なった瞬間に、背後にいる謎の男性は飴に口を近づけ、


「あ、美味しいねこれ」


 食べた。

 呆気にとられているおじさんは、私に「知り合い? それとも彼氏?」と訊いてくるが、「……信じらんない…………」とフリーズしている私の様子を見てただの痴漢と認識したようだ。


「おいお兄さん、何やってんだよ!」


 小さな売店からどすどすと出てきて、大きな声で痴漢に向かって怒鳴る。


「んー……? 愛情表現。ほら俺、ストーカーだからさー、彼女の」


 さらりと首を傾げ、可愛らしく顎に人差し指を当てる。

 うん、これは必殺技の出番だね、語尾に星っ。


「変態ぃぃっ――――っ!」


 渾身の力と声を上げて繰り出した回し蹴りは、見事に変態痴漢ストーカー野郎の鳩尾にヒットし、ごりっといい音を立てる。

 あ、やばいかもこれ。あばら行ったか?

 青い顔をしてしゃがみ込む変態を一応心配して、顔を覗きこむ。


「……あの、すみません大丈夫ですか?」

「あー……、駄目かも」


 言いつつ手に持った飴を口に含む。

 今度はグーで殴ろうかと振り上げた腕を、がしりと強い力で掴まれた。


「うーん、こんな乱暴者なはずないんだけど……『アリス』は」


 考え込むようにして顎に手を当てた彼は、ぽかんと口を開けている、自分で言うのもなんだけど間抜け面の私の顔を見て、ぷっと噴出した。


「……ひっど、笑うな! ってか、あんた誰?」

「わあ酷い言い方。まあいいや」


 本気でイライラしてきた私の頬を突きながら、ゆっくりと帽子を取った。

 その瞬間、ふわりと薔薇の匂いをまとって堕ちるピンク色の髪。時折紫が交じっているのは太陽の光加減という訳でもないだろう。

 少なくとも頭に残っている私の常識では、こんなド派手な髪の色の人なんていないぞ。

 そう反論しようと、意外と端正な彼の顔を見上げた時、それは目に入った。


「猫、耳……?」

「あ、気が付いたー? 可愛いよねこれ」


 人形のように整った顔立ちに、黄色と言うよりは金の瞳、それにピンクの髪だけでミスマッチなのだが……、なぜか彼の頭にはぴょこりと揺れる、二つの猫耳。


『欲情した変態の猫』


 悲鳴を上げようと口を開けた時、アビの一言が脳裏に浮かんだ。




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