7 負けないで
「……なんだか気になるなぁ……」
「それはどういう意味ですか?」
「……うひゃぁっ?」
行き成り耳元で声がして、思わず肩が飛びあがる。喉の奥から間抜けな声が出てしまった。
驚いてバクバクな心臓を服の上から押さえつけて振り向くと、慌てているように手を上下にバタバタさせているイグの姿があった。暗めの照明のせいで、彼の綺麗な白髪は暗く染められている。
「……イグかぁ……もう、驚かせないでよ……」
額に浮かんだ冷や汗を額でそっとふき取り、息を吐きながら怒る。理不尽な怒りを向けられたくせに、しゅん、と肩と見えないしっぽを下げた。
「すみません。……でも、どうしても気になってしまって」
「別に、さっきの言葉に特別な意味なんてないわよ」
ここに長居するわけにもいかないので、ゆっくりと歩きながら答える。私が進んだせいで開いた距離を縮めようと、早歩きでイグも後に付く。
静寂。私の答えに何も反応しないせいで、妙に心地悪い空気が流れる。その空気を振り切ろうと、一歩を大きくしていると、イグがおずおず、と言ったように切り出した。
「……アリスは、毎回『アリス』がどのようにこの世界から抜けているか知っていますか?」
「……抜けているって……つまり、Endを迎えるってこと?」
はい、と頷いたイグ。彼の、スカイブルーの瞳をじっと見据え私は首を縦に振った。つい先ほど、ウェーン様から教えてもらった。
「毎回Bad Endなんでしょ。聞いたわ」
「……そうなんです。特に一番多いのが『白ウサギ』と『チェシャ猫』なんですよ」
アビとエシル?
「え、どうして?」
「……僕はそこまで『アリス』に執着していませんが、彼らは特にしているようで。さらに、悪い意味で素直じゃないですか。……だから」
そりゃそうだ。あの端正な顔に追い詰められてドギマギしない女性が何処にいるか。……ここに居るか……。
「特に『チェシャ猫』は抜群に誑かしていますね。見事にルールの通りに。……でも、この世界から抜け出そうと『侯爵夫人』と言うキャラクターを消させましたし、……いまいち掴めませんね、彼」
ルールに従い、何人もの『アリス』を殺しながらも、一方で反発し『侯爵夫人』を消す。それは矛盾しているんじゃないか。
「でも今回の『アリス』は――、貴女は、どこか違う感じがするんです。大きな穴に落ちたら重力に従って下に、下に堕ちていく。でもアリスはそれさえも抵抗し、何とか地上を目指そうとする」
気が付くとお城の門を出ていた。ディーとダムがいないのはサボっているからだろう。
ここまでで大丈夫よ、と言おうとしたところ、庭の方から紅いコートを着て、胸に8と数字の入った兵隊らしき人がこちらに走ってきた。そのままイグに耳打ちをし、何かを伝える。
「……らしいです」
「分かりました。直ぐに現場に向かいます。……アリス」
私には関係のない事だろうと思い、適当に風景を眺めていると声がかかった。なんだろうと首を傾げながら返事をすると、ぎゅ、と手を握られた。
「…………イグ?」
ザラザラとした皮手袋の感触。
「……どうか、貴女だけはとらわれないでください。記憶を取り戻して元の世界に帰ってください。いろんな人の誘惑を掻い潜って、『白ウサギ』からも逃げて、この理不尽な世界に勝ってください。……応援しています」
最後にふわりと笑いかけられ、手が離れる。腰に付いた長剣を強く握りながら、紅いコートの兵隊さんの後に続く。
それを見送って、私は頭を抱えた。
「……何だよ、もう……」
ここまで言われたら、頑張るしかないじゃない、と口の中で呟いた。
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……と言う、業務的な報告でした
退散っ!




