5 男の娘の生態は予習しておいた方が良いらしいです
アビは残念ながらウサギ鍋にできず、そのままたどり着いたのはハートの城。丁寧な装飾が施されている門の前では、心配そうな顔のディーダムが大きな斧を弄んでいた。
「おーい、ディー、ダム!」
担がれながらも何とか手を振る。こちらに気が付いた二人はぱあっと表情を明るくし、こちらにどたどたと走ってきた。え、ちょ、勢い。勢い良すぎじゃない?
「アリスーっ!」
「良かったー!」
どん、とこちらに体当たりをしてきた二人は、そのまま体制を崩した私にぎゅうっと抱き着いてきた。私の下のアビが苦しそう。
「心配したんだよ、アリスっ!」
「僕達ほら、逃げて来たみたいだったから」
「そのまま猫に殺されたとばっかり思ってて!」
「でも違った。よかった」
嬉しそうに頬ずりしてくる二人。……まあそれはいいんだけど、アビの安否が気になる。
「えっと……分かったから、あの、アビ?」
「……大丈夫です、生きています」
二人を無理やりべりっと引きはがしたアビは、こめかみに青筋を浮かべて答える。それから私をゆっくりおろし、二人が投げだした斧を手にしてぶん、と一回降る。いい音がしたねェ……。
不機嫌そうに頬をふくらましている二人に向かって、アビは軽々しくもう一度斧を振り下ろす。どうやら冗談ではないらしい。口元には笑みが浮かんでいるものの、目は笑っていない。
「……僕はウェーン様にアリスを連れて来いと言われたんです。こんな所で道草を食っている場合ではないんですよ」
ですから、と続けたアビは二人に斧を投げつけ、
「さっさと仕事に戻ってください。……ったく、イグは何処にいるんですか」
ひょい、とまた私を担いだアビは、背後でブーイングをしている二人にちっと舌打ちして、お城の大きな扉を開けた。
……私、まさかお城に向かってる? え、待ってさっきアビが何か言ってたよね、確か『ウェーン様にアリスを連れて来いと言われたんです』とかなんとか……。
「いや、私まさかウェーン様に会う?」
おずおず聞くと、当たり前と言うような顔で頷くアビ。何か不思議なことはあるんですか? と逆に聞き返された。
……いや、一応私、ウェーン様とかアビとかに命狙われてるんだけど……。忘れてるのかな……。
「あの、それって結構危険じゃない? 命の保証とか、そのー……」
「…………だったら今、貴女はすでに死んでますよ」
「ですよねー……」
まったく安心できない要素の言葉を言われ、アビはどこかのドアに手をかけた。半透明の赤いハートの硝子が目立つ。銀色のドアノブを捻ると、ふわりと薔薇の香りが鼻を突いた。
帽子屋敷のお茶会用の庭に似ているようだけど、違う。帽子屋敷の方はお茶会をするためにテーブルセットを中心として薔薇が植えられていたけど、ここは観賞用だ。薔薇のアーチが贅沢に沢山建てられていて、豪奢だ。
そして、そんな薔薇にも負けず劣らない華奢で豪奢な人物が一人。黒のストライブワイシャツに黒のスラックス。体は細めで短めの茶髪がなければ女性だと間違えると思う。
「……って、誰?」
思っていたことがつい口をついて出てしまった。しまったと思うがその人物にはばっちり聞こえていたらしい。ゆっくりと振り返ると、中世的な顔に二つ付いた、赤……よりも少し薄めの瞳がきらりと私を捕える。
「……お連れしましたよ」
アビが私をふわりと地面におろし、ぺこりと小さく会釈。……ん? お連れしました、と言う事は……。
「久しぶりだなアリス。こんな恰好で済まない。……僕は勿論ウェーンだが?」
「……っえ、ウェーン様っ!?」
遂にポイント100行きましたーっ!
パソコン壊れて更新できなかったのにほんっっとうにありがとうございます!
これからは星野復活です!
……とは宿題がたまっているので言えませんが←
兎に角これからもよろしくです!




