3 久しぶり!
「ディー、ダム!」
声を上げたとたんに抱きついてきた二人の勢いに負けて、ぼふっと三人でベッドに倒れこむ。背中に当たるふわふわの枕が妙に心地よい。
「よかった、本当によかった! ね、ディー」
「そうだねぇっ。僕達すっごく心配したんだよね、ダム」
「そうだよそうだよ。後でイグも呼んでこようね、ディー」
「イグも心配してたんだよね、ダム」
「……あのねぇ、アリスの上で会話しないでくれるっ?」
乱暴に怒鳴って、エシルが私の上のディーダムをべりっと効果音がつきそうな勢いで剥がす。気のせいだろうか、額には青筋。
ぴくぴくと耳を動かし、未だ引っ付こうとしてくる二人に向けて、エシルは何かを投げつけた。白くて小さい、正方形のもの。……これってまさか……。
「アットのサンドウィッチ……」
呟いたとたん、二人の顔から色素がなくなった。顔は恐怖のせいか固まり、微動だにしない。
「そーれっ」
変な掛け声とともにサンドウィッチを二人めがけて投げつける。そこではっと意識を取り戻したのか、ディーが隣で未だにぼうっとしているダムを引っ張り、慌ててサンドウィッチから避ける。エシルの投げたそれは、ぺしゃ、と音を立てて床にダイブ。
……味はともかく、これってアットがココロをこめて作ってくれたものよね……こんなことしていいのかしら……。
アットに悪いと思い、とりあえず二個目を構えているエシルの腕をつかみ、止める。
「ちょっ、アットがかわいそうだってこんなの、」
「……この惨事は一体何なんだ?」
私の声と、不機嫌そうな低い男性の声が重なった。聞き覚えのあるその声に思わず振り向くと、相変わらず燕尾服をぴっちりと着た、悪趣味な帽子の青年の姿。
「アット!」
「おはようアリス。目が覚めてよかった。……ところで、これは何だ?」
漆黒の瞳を殺意でぎらりと光らせ、背後に黒いオーラを背負ったアットは、黒いステッキで荒々しく床をたたく。がつん、と大きな音がしたのは気のせいだろうか……。
その音でびくりと肩を震わせたエシルとディーとダムは、窓に向かって走る。……うわあ、人(約一名猫)ってこんなに早く走れるんだ……。
「逃がさないぞ。アルク」
「いえっさ!」
三人(二人と一匹?)が逃げようとした窓から、にょっこりとカフェオレ色のウサ耳と同時に、暗い金髪が姿を現した。
「あ、久しぶりアリス。でもオレ、今やることあるんだよなぁ……」
しゅぼん、と耳を残念そうに垂らしてから、アルクはにいっと嗤った。
「でも、すぐ終わらせるから大丈夫だぜ!」
窓の冊子に手をつき、懐から手榴弾を取り出したダムに向かってまずは蹴りを繰り出す。お腹にもろで喰らい、腰を折ったダムを見て、横で「ダムっ!」と悲鳴を上げたディーに向けてナイフを投げる。金色の線は真っ直ぐディーに向かう。
「ちょっと、俺最近運動不足なんだからやめてよね」
きん、と音を立てて、エシルがそのナイフを叩き落した。床に落ちた小型のナイフは、丁寧で細かいウサギが彫られていた。
「……運動不足?」
何だよ、お前毎晩暗殺の仕事引き受けてるくせに、と呟いたアルクは、少し考え込んでから「ああ!」と手をたたいた。ふわふわの耳がぴんと立つ。
「アリス寝ずに看病してたもんな! 一日の睡眠時間三十分だってアビから聴いたぞ!」
その瞬間、エシルの笑顔がぴきりと凍りついた。……いや、空気自体が凍りついた。そのことに気がついていないアルクは、未だ独り言をぽつぽつと言っている。
「あのー……」
本人は気がついていないかもしれないが、今のエシルはさっきのアットと同じくらい怖い。どのくらい怖いかと言うと、あいつの顔が直視できないくらいだ。
「……アルク」
どうでも良いですが、星野はペンタブを買うことになりましたV(^-^)V
と言うわけで、浮き足立っています
わーいわーい(゜∇゜)




