8 嫌いにならないで
……『白ウサギ』が『アリス』を問答無用で愛する……? あれ、『白ウサギ』って『アリス』を殺すんじゃなかったっけ? なんだか矛盾してない?
心の中で呟いたつもりだったが、思わず呟いていたらしい。アビが顔を顰めてゆっくりと答えた。
「それが目的なんじゃないですか? 殺さなくてはならない相手を愛してしまう。この世界を作った奴は妙な趣味を持っていたようですね」
ふうん。変な趣味だこと。……ん? 待てよ?
「だったら、アビは今『アリス』のことが好きって事?」
「そういうことになりますね」
こくりと小さく頷く。さらり、と彼のウサ耳が揺れた。
「だから、今僕は貴女にものすごくときめいています」
真顔で少女マンガの台詞のような言葉を言うアビ。なんというか、似合わない。それに、何だ「ときめいている」って。今、こいつの恋愛経験が垣間見えた気がする。
未だ熱っぽい緯線をこちらに向けているアビからぎこちなく逃げて、私も苦笑いを浮かべる。ちょっ、二度目のキスの予感がするんだけど……。
「貴女に謝らなくてはいけませんね」
突然ふ、と目を伏せて小さく言った。再び風が吹いて、私の金髪と彼の銀髪をふわりと浮き上がらせて、逃げていく。
「これから僕は貴女にいろいろなことをするかもしれません。その中にはきっと、告白も混じっているでしょう。……でもそれは、『白ウサギ』の気持ちで、僕の気持ちではないと思います」
申し訳なさそうにフードを荒くかぶったアビは、自分の手のひらをじっと見つめた。その視線は遠くのものを見ているかのように何も写していない。
「だから、惑わされないでください。僕は貴女を見ます。『白ウサギ』は『アリス』を見ます。でも――、『白ウサギ』が貴女を見る時だってあるんです。そのときは、そうですねぇ……」
うーん、と考え出したアビは、数秒後に「ああ、」と小さく声を上げて顔を上げた。何かいい解決策が浮かんだようだ。
「平手打ちでもしてください」
「ごめん、たぶん無理」
こいつの運動神経だったら、私が手を振り上げた途端に噛み付きそうだ。目隠しでもしておくか。それか睡眠薬で眠らせるとか。
どっちにしろ無理な香りのする考えをまとめていると、アビが「そういえば」と声を上げた。何かに気がついたようだ。
「僕達の過去のことですね。すっかり忘れていました、すみません」
ぺこりと御丁寧に頭まで下げられると、逆にどんな反応をしていいのかわからない。「え、別に」と動揺しながら頭を上げるように促すと、あっさり上がる。……よかった、何時間も下げたままだと思ってた。
少し険しい表情で顔を上げたアビは、次の言葉を待つ私をよそに、黙り込む。しばらく待っていると、ようやく決心がついたのか、がばりと顔を上げた。
「……それではお話します。でも、その前に……」
語尾を濁した彼は、エシルの消えていった木の間をにらみつけた。ルビーの瞳が細くなり、向けられているわけではないのに背中がぶるりと震える。
「彼のまねをしているわけではありませんが……。貴女も、僕のことを嫌いにならないでください。それが条件です」
昨日はお祭りで更新できませんでしたー すみません><
と言うわけで、ようやくアビさんがアリスに過去のことを話そうとしていますが……
勿論、エシルの一人称で語られていたものの続きの出来事です
アビによって語られるので残酷描写はない……はず←
きっとないです、信じて下さい←
さて、明日はプールです
更新不可能かもです……




