2 デート? 全力で首を振りましょう
忘れていたけど、こいつは猫だ。街なんて、全速力で走れば一瞬でついてしまった。くそう、逃げるタイミングを逃した……。
未だ降ろす気配のないエシルに担がれながら、楽しそうな笑い声が溢れる街をきょろきょろと見回す。まだ朝早いのに、随分と人が多いな。
「何でこんなに人が多いの?」
「買い物できる場所と言ったらここしかないもん。普通の人はこの町に住んでるし。この町から外れた所に住んでる人は、お金持ちか、俺らみたいな重要なキャラクターの人たちだけだよ」
私と同じように、金色の瞳をきらきらと輝かせながら答える。プレゼントをもらった子供のようなその表情に、いつもの仮面のような笑顔はない。初めて見る素の笑顔に、こちらも顔が綻ぶ。
「基本的にキャラクターの重要度は『アリス』との接触時間に寄るんだ。だから、どんなにお金を持っていても『アリス』と接触しなければ特に名の知れた人ではないんだ。……逆に言うと、『アリス』と関係を持ったキャラクターは名前が瞬く間に広がるってわけ。という訳で、何が言いたいと言うとね」
そしてそのまま、ふわりと優しく降ろされる。ずっと担いだままだと思っていたので、安心。にしても話の続きはどうした。首を傾げならエシルの顔を見ると、さっきまでのわくわくした表情は消えている。口の端が僅かに上がっているだけだ。
「エシル、どうした、」
「アリスしゃがんで!」
私の言葉をかき消して、怒鳴る。え、と固まった私を思い切り突き飛ばし、胸ポケットから黒塗りの拳銃を取り出した。
それを確認する前に、私の目の前を一筋の黒い線が目にもとまらぬ速さで通り過ぎる。背後の壁にめり込んだものを見てから、それが銃弾だと分かった。音がしなかったのは消音機能があるからか、サイレンサーをつけているからか。どっちにしろ、そんなもの暗殺専用みたいで怖い。
……って、さ、さっきの場所にいたら確実に死んでた……!
ぽかんとして拳銃を構えているエシルの視線をたどると、煉瓦の建物の上から、十歳前後の男の子が拳銃を向けていた。使い古しているのか、その拳銃は塗料が所々はがれていて、汚れが付いている。……まさか、血じゃないよね。
「って言うか、何で私が狙われるの? エシルならわかるけど」
「反論できないのが悲しいよね。……って、『アリス』だもん、狙われるに決まってるよ。今の時期、今回の『アリス』の顔とか見た目は出回ってると思うしね」
「だから、何で私が狙われてるの!?」
それはね、と説明しようとしたエシルに向かって、男の子が発砲。見た所消音機能付きの拳銃の様だ。昨日アルクに見せてもらったやつ。
「……おっとぉ。あっぶないなぁ」
ひょい、と小さく顔を動かし避ける。その反射能力が今、無性にほしい……。
「で? 説明してよ!」
「うーん、今は無理かな。ほら、あのクソガキが仲間連れてきちゃったみたいだし」
言われて気が付くと、例の男の子の他に、十歳を少し過ぎたくらいの女の子と、その子たちより一回り大きい男の子の姿が見える。勿論、全員武器付き。
「あんな遠いし、俺接近戦の方が好きだから不利かも。それに、そろそろムカついてあの子たちに当てちゃうよ」
ぱんぱん、と鼓膜の破れる様な破裂音をさせて、彼らの近くの壁に銃弾を撃ち込む。流石のエシルも、子供に撃つのは気が引けるのか。
そんな彼の優しさとは裏腹に、声変わりのしていない音階で「この国最強とか言ってる割に、『チェシャ猫』も案外弱いものだな!」と怒鳴る。
……あれ? 隣で何か切れる音が……。
「エシル、とりあえず逃げよう……って、あれ?」
忽然と消えている。まさか、と思って男の子たちがいる建物の近くのお店の屋根に、軽快なリズムで走る青年の姿。……ああ、ピンクの耳の人ってこの世界に一人だけなのかな……?
いつもとは違う服に戸惑ってはいるものの、軽く常識離れしている運動神経(と言うかあいつ猫か)は相変わらずだ。壁を渡って、高くジャンプして、気が付いたら目的地に。
「……せっかくのデートを……、邪魔しないでくれるかなぁ……?」
おいアイツ殺気背負ってるぞ。って言うかデートじゃなーい! 無駄な誤解されるからやめろーっ!
周りの人たちがちろちろと好奇の目を向けてくる。うん、今武器を持ってたら確実にエシルを狙える自信がある。
久しぶりのギャグです
タイトルからしてカオスです
そういえば、どぅゆありも残す所半分と言うところまで行きましたー!
いやあ、ここまで長かった……
嘘です約一か月しか経っていません←
このお話、かくのが無性に楽しいんですよね(ただしギャグと残酷描写に限る
……私の趣味だ←
明日は塾の為、更新できないかもです
そして干し梅うまうま




