3 飼い猫だから
「………………、」
そして視界は一つの道を映した。真っ白な道。幅は一メートルほど。その周りは真っ黒な世界が広がっていて、暗いはずなのに道だけが嘲笑うように見える。
「……ここは……」
兎に角前に進んでみようと思い一歩踏み出す。かつん、と革靴の乾いた音が辺りに響いた。
かつん、かつん。
暫く自分の靴の音だけが響いていたが、突然音程が微妙に違う一つの靴音が重なった。先の見えない前を向いても誰もいない。だったら――、
ぐるん、とナイフを構えながら後ろを振り向くと、顔ににたりと笑った仮面を張り付けた様な、自分によく似た青年が歩いてくる。その歪んだ口の角度も、少し長めの前髪に半分隠された濁った金の瞳も、棒のように動かして前に進む足も、愉しそうにぴくぴくと動く耳も、そっくり自分に似ている。と言うか自分ではないのか。
「…………誰だ」
警戒した音色を含ませた俺の声と、何処か他人の事のように面白がっている目の前の青年の声が重なった。ディーとダムのように少しも違いのないはずのその声なのに、どちらが俺の発した声なのか分かった。
「俺か? 俺はお前だよ。『チェシャ猫』だからな」
くくく、と含み笑いを混ぜた答えが返ってくる。お腹を押さえて小さく折り曲げるその仕草は、俺が普段やっているものとそっくりだ。――いや、違う。俺が『チェシャ猫』としてやっている仕草。
自然に、違うと言葉が零れた。頭が割れそうに痛い。彼――『チェシャ猫』の声が頭に直接入り込んで、脳味噌を揺らす。俺はお前はエシルは貴方は、『チェシャ猫』だ、と。
「……っ、」
思わずしゃがみ込んだ俺の横にすっと移動し、耳に向かって大切なことをこっそりと教えるかのように囁く。その少し低めな声も、紛れない俺の声。
「『侯爵夫人』にちょっかい出してたから、アリスが嫉妬でもしたんだと思うぜ?」
違う、あれはちょっかいで片づけられる感情ではなくて、もっと儚く、脆く、簡単に壊れてしまうもので。
そんなものでさえも彼は否定すると言うのか。『アリス』を愛し、『侯爵夫人』を想ってはいけないと言うのか。
「だってさ、分かってないと思うけどお前は『チェシャ猫』だぜ? お前が愛するのは『アリス』であって『侯爵夫人』ではないんだ。……ただ『アリス』を盲目的に愛し、時に惑わし、そして壊す。決してアリス自身に恋もしてはいけない」
異性でもうっとりするような甘い声。ホイップクリームのように蕩け、砂糖のように惚ける。そんな声で、彼は俺を惑わす。
「それに、お前はこのゲームから逃げたいがために罪のない『侯爵夫人』達を手にかけて来たじゃないか。それが今回はどうだ。まったく嫌悪の表情を見せずに、恨んだような瞳すら隠し、彼女を慕い、敬い、気を惹かせる。……どんな風の吹き回しだ」
無理やり頭痛を押さえつけて上を向くと、黄金の濁った瞳と火花が散った。改めてみるとその色は暗く、どんやりと他のの色も交じっている。
「……兎に角、お前はもう逃げられない」
本当に愉しそうな、からかう様な一言を言って、一歩進む。俺の進もうとしていた道を、先の見えない道をかつん、かつんと進む。
「誰も愛してはいけない。――それが『チェシャ猫』の性だ。……どうしてだと思う?」
ポケットに手を突っ込み、浮浪人のようにただ何となく歩きながら、彼が質問をしてきた。
「……〝飼い猫だから〟」
キャラクターの声で。俺自身の顔で。
皮肉交じりに怒鳴りつけたその答えに、小さく肩を竦めた彼の後姿を見る。そして、視界が暗転した。
塾なのに更新しましたー!
凄い私、褒めて褒めt((
約十五分で書き終わりましたが何か←
エシルと『チェシャ猫』さんの夢の競演!
にしてもエシル……現代で役者やったら上手そう((
役に入り込んで人殺しの役だったら本当に……(やめれ
怖い怖い←
さて、総合ポイントが60超えましたー!
いえーいぱちぱちー!
目指せ100、と言う事でこれからもよろしくお願いします^^
星野は常に邁進していきたいと思います^^b




