1 曖昧、あいまい、I my
昨日更新できなくてごめんなさい……;;
そして今回、ふざけているのかと言われてもいいほど短いです;;
ああ、ワードでは一ページ超えたのにぃぃ……!
「チェシャ猫さん」
ハートの城の門の前。双子たちとイグをからかって遊んでいると、近くの茂みからきらりと金髪が光った。
続いて、赤を基調とされたエプロンドレスの端が視界に入り、俺の体温はすう、と爪先から逃げて行った。
本能で上がる手を無理やり押さえつけ、すう、と口で呼吸をした。
「あ、アリスだね、ディー」
「僕達と遊びに来たのかな、ダム」
「そうだといいね、ディー」
「遊びたいもんね、ダム」
わくわくと瞳を輝かせる双子に、見えない尻尾をふるふると振って歓迎するイグ。その様子を見て、『チェシャ猫』は無理やり笑う。
「こんにちは、アリス」
目を糸のように細く、口を三日月型に歪ませろ。笑え、笑え笑え笑え笑え嗤え。
俺は、『チェシャ猫』だから。
「“何しに来たの?”」
――今すぐ帰ってくれ。
表面の仮面が、台詞を紡ぐ。本心でもない言葉が口から出てきたのに、驚きもしない自分が滑稽で仕方がない。
「うーん、なんとなくチェシャ猫さんに会いたいな、と思って」
「“わあ、嬉しいなー”」
――アビはどうしたんだよ。
……ねえ、俺は上手く『チェシャ猫』に成り切れてる? アリス、ほら楽しそうに笑ってよ。裏の俺なんて気にしないで、何も気が付いていないような表情を浮かべて、ほら。
「ねえ、これから街に遊びに行かない?」
「えー、俺達とも遊ぼうよ」
「それに、もうすぐ日が暮れちゃうよ?」
「……仕方ないですよディーダム。今日は諦めましょうか」
「じゃあ行きましょう? チェシャ猫さん」
――黙れ。
「……“うん”」
嗚呼、俺が消えていく。この女といると『チェシャ猫』の青年しかいなくなる。俺はエシル。――じゃあ『チェシャ猫』は?
彼も、俺。……否、彼が、――俺。
心の中のエシルの叫びは、『チェシャ猫』には届かない。いつから俺は『チェシャ猫』で、いつからエシルではなくなったのだろう。
「……チェシャ猫さん?」
心配そうにアリスが顔を覗きこんできた。ぱちぱちと長い、金色のまつげを揺らして心配そうに瞬き。
アビはどうしたんだよ、何て言える関係じゃない。アビとは少しだけ喋るだけで、『白ウサギ』と特別仲がいいなんて言うルールは聞いたことはない。
だから――、だからこう言ってしまったのだろうか。
「……じゃあ、早く行こうか」
タイムマシンがあるとしたら、戻りたいのはこの時。彼女の手を引いて、優雅にエスコートして、街に爪先を向けたその時。
初めて後悔と言う感情が植えついた、この時――。
――死んでも戻りたい、何て言ったら、君は嗤うだろうか。銀色の髪を小さく揺らして、何処かほっとするような毒舌を吐きながら。
……そんな事、切り出せる関係だったら良かったのに。




