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Do you love Alice?   作者: _(:D ゆあ 」∠)_
Ⅰ――Alice 白ウサギに連れられて
2/67

1 おはようアリス、気分はどう?

「……ドコ、ここ…………」


 さんさんと木漏れ日が突き刺さる森の中。気が付いたらそんな危ない所にいた私は、呆然と目を見開きながら言葉を吐き出した。

 木々の間から見える空の色はグレー。単に白と黒を混ぜただけの原色。その空から守る様に生えている木の幹には所々苔が生えていて、年期が入っているんだと分かる。そこまでは普通にいいんだけど、なぜか地面には土が敷いてなく、黒と白のタイルが順番に規則正しく並べられていた。そして苔のついた大きな木にかけられた、「Welcome to wonderland」と汚い字で書かれた看板。


「……気味悪いなあ、もう……」


 寒気がしたので腕をさすると、ふわりと、レースが手に触れた。

 こんなレースのついている服持っていたっけ? と思い見てみると、明らかにコスプレ好きの人しか着そうにない洋服を着ていた。

 青と白の膝丈のエプロンドレスに横縞のソックス、黒い靴。胸のあたりまで垂れてくる髪の毛は自分で言うのもなんだけど、鮮やかな栗色。頭に違和感を感じて触ってみると、ピンと立ったリボン付きのカチューシャ。


「……痛い痛い、この格好はさすがに痛い」


 いったいどうしてこんな恰好をしているんだと記憶を探ったりひっくり返してみるが、何一つ出てこない。ここに来た経路も、理由も、自分が誰なのかも。


「……何が起こってるんだろう……」


 とりあえず歩いてみようと思い、スカートを揺らしながら一歩前へ歩く。……すると。


「アリス」


 凛とした、まだ幼さが残るテノールの声がした。

 この場にそぐ合わない落ち着いた声に眉を顰めながら振り向くと、灰色のフードを被った青年がニッコリと優しそうな笑みを浮かべながら立っていた。

 被ったフードからちらりと見える前髪の色は綺麗な銀色。左右に細くのびた瞳はルビーのように透明感のある赤で、ウサギの形のしたビーズがぶら下がる可愛らしい灰色のフードにはあまり合わない。

 第一印象は好青年。怪しそうな感じはしないが、一体アリスとは誰の事だ。


「……アリスって……貴方の名前ですか?」

「は? ……ふははっ、可笑しなことを言う人ですね、アリスとは貴女の名前です、アリス」


お腹を抱え笑うフードの青年に、私は首をかしげた。


「……ええ、じゃあ私の名前は『貴方が言うにはアリス』でいいわ。……それで、貴方の名前は?」

「『貴方が言うにはアリス』、ですか。可笑しな人ですね。それに僕の名前を聞くと来た。一体今回の『アリス』はどうなっているんでしょうか」


 くすくすと口に手を当て優雅に笑う目の前の青年に、私は不快感を覚える。第一印象は当てにならない。

 私の機嫌が悪くなったのを察したのか、慌てて話題を変える。


「あ、すみません僕の名前でしたね。……僕の名前はアビ、です。――『白ウサギ』のアビです」

「……はあ? し、『白ウサギ』?」


 ウサギの要素が全くない青年――アビに、私は聞き返した。「はい」とニコリと笑いながら一歩近づいてくる。

 彼の端正な顔が目の前に広がり、強めの風がぴゅうっ、と吹く。その時、彼のフードがはらりと外れ、そこから出てきたのは、


「…………う、う、ウサ……、」

「……ああ、取れちゃいましたねフード。被り直した方が良いですか?」


 さらりと毛並みのいい真っ白な、頭から垂れたウサギの耳を抓みながら聞いてくるアビに、私はつい思ったことを吐き出していた。


「変態コスプレウサ耳男!」


 その瞬間彼の機嫌が悪くなったのだろうか、顔を歪め乱暴に言葉を放った。


「失礼な、いつから『アリス』はそんな野蛮な言葉を放つ女の人になってしまったんですか?」


 ほろりと涙を拭うふりをして、今すぐダッシュでその場を逃げようとする私の腕を鋭い目で睨みながら、ぎゅっと掴む。


「それにこの様子だと、城に連れて行くのに暴れそうですね。……じゃあ背負っていきますか」

「……は? 何々背負っていくって! って言うか城? 何城って何処、何するつもりなの、ってきゃぁぁっ!」


 フードを被り直す様子もなく私を俵担ぎしたアビは、たん、と地面を蹴る。

 ひゅん、と耳元を空気が通過して私たちは宙に浮く。

 さすがウサギ、ジャンプ力はあるとか、普通そこはお姫様抱っこだろとかじゃなくって……、


「ど、どこ連れてくんだ変態誘拐犯! 降ろせ噛みつくぞウサギ野郎――――っ!」

「ったく耳元でぎゃんぎゃん五月蠅いですね。本当に降ろしてもいいんですか?」


 意外と物わかり良いじゃん、と一言言って下を向くと、目の前に広がる木、木、木。

 一体こんな高度、どうやったら飛べるんだとツッコみたくなるその高さに、くらりと眩暈がする。

 どうやらウサギと言う可愛らしいジャンプ力じゃなかった様です。


「たっ、たっ、高いんだよ馬鹿ぁーっ! 常識を手放さすなぁ――――っ!」


 涙交じりににそう叫んで、私の視界はブラックアウトしました。



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