4 鳥籠の扉を開けて
「あらエシル。お帰りなさい」
このあたりでも大き目の侯爵夫人邸に帰ると、ドアを開いた途端に夫人が出てきた。
買い物にでも行ってきたのか、紙袋を抱えてキッチンに向かっている途中だった。ネイビーのブラウスに黒の、大きなポケットのついたカーディガン。アプリコットグレーの膝丈スカート。頭にはミニハットが乗っかっている。
「いつも思ってたけど、ドレスって着ないの?」
「あんな移動が面倒臭い服、着るわけないじゃない。こっちの方が動きやすくていいの」
それに人のファッションに文句付けないでくれる? と付け足し、近くにいたカエル顔の従者にカーディガンを脱いで渡した。今日の気温は少し高めだ。温かいと言うよりは暑い。
ゆるりとカールのかかった髪を耳にかけ、楽しそうに紙袋を抱えてキッチンに走る。
「何々、何作る気なのー?」
「女王様にクロケーを誘われたから、手土産にスコーンでも作ってみようと思って。私だってやればできるのよ?」
見てなさい、と自信ありげに微笑まれ、呆れたように口の端を上げる。彼女は根っからの不器用だ。この屋敷に来た初日にスープを作ってもらったのだが、湖沼のかけすぎでお世辞にもおいしくはなかった。
彼女にキッチンを使わせるのは危険だと判断した俺は、彼女の後を追った。
「……さてと。まず何をすればいいのかしら」
手に持ったメモを見ながら、はあ、とため息を吐く。材料を買ってみたは良い物の、まず何をすればいいのか分からないようだ。
それから「とりあえず料理と言ったらこれだよね」と言ってシンクの下の引き出しからきらりと光る包丁を取り出した。
ちょっと待て彼女は何をするつもりだ。
「夫人、それで何をするつもりなのさ……。バターでも切るの?」
行き成り登場した俺にびっくりしたのか、包丁を構えながら慌ててこちらを振り向いてくる。泥棒でも入ってきたと思っているのか、この人は。
「……何だ、エシルか……。泥棒かと思ったじゃない。気配は消さないでほしいわ」
一応ここは侯爵夫人「邸」だ。確かに泥棒は入る危険が高いが、普通の一軒家ではない。一体何人の使用人がいると思っているんだ。入ってきた途端不法侵入者と見なされる。
「それで、包丁を使って何を切るの?」
「え、料理と言ったらこれがないと始まらないじゃない。貴方も使う?」
「……あのねえ、スコーンは包丁使わないから。まあバター切るくらいなら使うと思うけど、それ十グラムずつ分けられてるでしょ。幾つ作るのか知らないけど、多分不要だよ」
「そうなの? じゃあ仕方ないわね。包丁はまたの機会にするわ」
「ナイフなら貸してあげるけど。使う?」
そう言って取り出した俺の護身用のナイフを見て、心底驚いた表情を浮かべる夫人。
「……仕舞って」
「何で? 使いたいんでしょ」
「仕舞いなさい!」
初めて声を荒げた彼女に、びくりと肩を竦めた。
「……貴方がそれで何人の人を殺したかは知らないけど、私にそれは必要ない物よ。見るのも嫌だわ」
……それは、いつか俺がこれで貴女を殺すから?
皮肉交じりの一言が喉元まで出てきた。く、と音を立てて飲み込む。俺が『侯爵夫人』を殺し続けていることは知っているはずだ。
「兎に角、私一人じゃ作れそうにもないから、教えてくれるかしら?」
「そういう事なら喜んで。結構スパルタだけどね」
基本、何でもそつなくこなせる。それに、お菓子作りなど数値と手法を完璧にすれば失敗することなんてない。
「じゃあ始めますか」
白い上着を脱ぎ、ワイシャツの腕をめくる。それから、夫人がぼんやりと持っていたメモを奪い取り、やり方を確認。テーブルの上には薄力粉、バター、牛乳、ベーキングパウダーに塩。
材料は忠実に、レシピ通り買って来たみたいだ。
「……にしても、飼い猫に料理を教えてもらえるって皮肉なものね」
半分冗談の交じった声で夫人が笑う。
ああ。またその笑顔だ。
「……そうだね」
その笑顔で揺れる。殺意が皆無の状態になる。そして思うんだ。――この人が、俺を自由にしてくれると。俺はあくまでも『侯爵夫人』の飼い猫。俺は『チェシャ猫』。エシルなんて男性、この世界には存在しない。……それはアビやアット達のキャラクターにも言えることだ。
でも居るんだ。俺は、エシルはここに居る。存在している。『チェシャ猫』を見ないで。この笑顔に惑わされないで。……外だけでいい、身体だけでいい名前だけでいい顔だけでいいなんて言わないで。
――俺を見て。自由にして。
スコーン大好きです
近所のマル○ツに売っていたんですがもうなくなってしまいました……;;
ああ、この話書いてたら食べたくなってきたじゃないですか!(知らん
今度友達に作ってもらおう←
自分では作れません、料理音痴です;;
「『ザックリ混ぜる』と書いてあったのにぐるぐるかき回せててびっくりした」(友達T)
……未だ根に持たれてます、テヘペロ☆(キモ
今回のお話の主役はスコーンです
何と言ってもスコーンです
スコーン万歳! 大好きー!
……はい、冗談は置いておいて……
スコーン作るお話です、続きます、夫人さん大好きな私がたらたら書きます、スコーンの話←
スコーン+夫人、これだけで十話くらい書きたi((
……エシル?
誰それ←




