1 双子の悪戯
「離せ変態ぃぃーっ!」
「え、それってチェシャ猫に言った言葉ですよね、じゃあ降ろします。長いですが歩いてくださいね」
そう言ってふわりと優しく降ろされる。今まで出会ったやつらがやつらだったのかもしれないけど、何て紳士。何てナイト。
「ここからお城は一本道ですから」と言われて適当に作られた道を進む。……にしても、この世界の地面は何故規則正しく並べられたダイヤ型のタイルなんだろう……。
「移動中に説明をしておきますが、僕は『白の騎士』のイグです。イグ、と気軽にお呼びください。そしてこれから行くのが最初に言ったお城、ハートの城です。女王様がいて白ウサギさんがいる、この世界の政治を動かす重要な建物です。当然不法に侵入した者たちがいるので、そのものを退治するのが僕と、『双子の門番』のトウィードル=ダムとトウィードル=ディーです」
「門番……?」
「はい、門番です。ハートの城の門を守る門番。でも安心してください」
不安そうに聞き返した私を安心させるように、ニコリと笑顔で答えた。
「彼らは『アリス』に懐きます。決して危害を加えません。……多少の悪戯はするかもしれませんが……」
苦笑した彼の様子から、トウィードル双子を要注意人物に位置付ける。何をされるか分かったもんじゃないわよ。
思わず身構えた時、「つきましたよ」と声がかかった。ハートと赤と薔薇がふんだんにあしらわれた、豪奢でファンシーな建物。その白の前を見ると、ハートがモチーフされた重そうな門と、その近くに大きな斧を持った黒と紫の人物二人。きっとそれが例の双子なんだろう。
そういえば、初めてここに来たときは気絶してたんだっけ、私。街に向かう時も後ろ何て振り向かなかったし。
「ディーとダム。仕事お疲れ様で、」
「遅い!」
「そこで道草喰ってたんだよ、アリス連れてくるだけだったのに!」
二人が懐から楕円形の何かを取り出し、その上についていた紐を引っ張り、こちらに投げつけて耳を塞ぐ。
冷静にそれらを観察していると、イグが素早く剣で薙ぎ払い数メートル遠くに落とす。
「伏せてください!」
ぐいっと頭を押されて思わずその場に伏せると、その楕円形のものが落ちた所で大きな爆発が起きた。
耳を塞いだ手を割って入ってくる爆音と、髪を揺らす爆風に呆然とぱちぱち瞬きをしていると、近くの木を飲み込んでごうごうと火が上がる。
「手榴弾攻撃しっぱーい」
「残念だね、ダム」
「そうだねー、ディー」
肩を落とし心底残念そうにする彼らに、私は涙目で反論する。
「不意打ちすな、馬鹿ぁーっ!」
「えー。俺はイグに投げたつもりなのにー」
オレンジ色の火を無邪気な目で見上げながら言う黒髪、紫色のイグと同じ形のコートを着た男の子に、「コラ、ダム!」と怒ったところ、彼がダムでその隣の紫色の髪、黒色のコートの男の子がディーだろう。
「楽しいことをしなきゃさ、」
「僕ら毎日楽しくないからー」
顔を見合わせきゃっきゃと笑う彼らは、見た目からしてまだ十三、四位だろう。そんな幼い男の子が自分の身長ほどある長い大きな斧を片手で持っている。
「……重くないの? それ」
「重くないよー。持ってみる? あ、ディーのがいい?」
「いやいや、ダムの方がいいよ」
「でもディーのが」
「いや、ダムのが」
「ああもう分かったわよ! 斧は持たないわ。その代わり、どっちが兄でどっちが弟か教えてくれる?」
止まりそうになかった口論の間に入り止めて、慌てて話題を変える。しかし。
「……どっちが兄……?」
「ダムじゃなかったっけ」
「いやいや、俺はディーの気がするけど」
「えー? じゃあ僕なのかなぁ?」
「でも俺の気もするー」
「もう分かんない」
話し合いの結果、「どっちも兄じゃなくて、弟でもない」と教えてくれた。……頭が痛くなってきた……。
助けを求めてイグの方を見つめると、「ダムが兄です」と教えてくれる。
「……そう。じゃあ改めてよろしくね、トウィードル=ダム君と、トウィードル=ディー君」
握手を求めて両手を差し出すと、二人とも無邪気な笑顔で手を握り返してくれた。うん、弟ができた気分。
「それにしても……」




