7 気絶と騎士様
長めです……?
今回の章は結構長かったですねー←
「いつもお茶会は中庭でやるから」とアルクに言われ、眠くて歩けないオアを引きずりながらたどり着いたのは一つのドアだった。
小さめのそのドアは秘密基地の入り口のようにファンシーな出来。黄緑色の板に水色のみずたまが描かれている。そして例のごとく掛けられたプレートは『中庭 茶会以外立ち入り禁止』と書いてある。
「アットが来る前にドアの周りの帽子端に寄せてくれよー」
言いつつあアルクが足で帽子を蹴散らす。慣れた様子なのでいつもやっているのだろう。……と言う事は少し時間が開いただけで帽子が散らかると言う事……? そのうち足でも生えるんじゃないのか。
「これくらいでいいか」
腰に手を当て頷くと、小さいドアをきいっと開けた。
その瞬間、辺りに広がる薔薇の香り。
「……わあっ」
一面薔薇。右に行くほど色が濃くなり、見たことのない色の薔薇が生えている。……黄緑の薔薇なんて見たことがないわよ……?
薔薇に気を取られていると、アルクが庭の中心部分にある小さなテーブルに向かって歩き出す。そこでお茶会を開くのだろうか、テーブルの上には色とりどりのマカロンやクッキー、プチケーキにスコーンが並べられている。
「美味しそう……!」
思わず駆け寄ると、オア君がむくりと起き上がり、のそのそと椅子に座りクッキーを銜え、そのまま寝落ち。
「……え? 食べてるのか寝てるのかどっちなの?」
「どっちも。オレもお菓子だけ食べよう」
「何それアルク、私そんな器用なこと聞いてないよ?」
「まあまあアリス。俺も今ちょうどスコーン食べたかったんだよねー。ジャム何?」
「……ストロベリーと、……ぐー……」
会話の途中で寝てしまったオア君の代わりに、私がラベルを見る。
ルビーのようなジャムが入った瓶は「strawberry」、アメジストより少し濃いくらいのジャムのビンには「blueberry」。隣にはクロデットクリームと無糖のホイップクリーム。
「凄い……。本格的」
「だよなー! いただきまーす」
嬉しそうにビスケットを頬張るアルクに癒される。
じいっと見ていると、自然に視線が可愛らしい耳に行ってしまったのを感じたのか、彼が自分の耳を片手で持ち隠す。
「……アリス、何でいつもこれ見てる訳? こんな長いのいらないよな。色も微妙だし」
「何言ってんのよ!」
だん、とテーブルを叩き拳を握る。こいつは自分の可愛さを全然わかってない!
私を包むオーラの変化に気が付いたのか、オア君は早速テーブルの下に避難、エシルも小皿にスコーンとブルーベリージャムを乗せてそっと席を立つ。
「その色も可愛いのよ! そう、例えるとしたら――」
その瞬間、鼻歌交じりにアットが紅茶を持ってきた。よほどティータイムが好きなのか、その足は地面についていない。
注意がそちらに言ったので私の言葉は途中で途切れたけど、まだ終わってないわよ。
「例えるとしたら、カフェオレ! まろやかでミルクたっぷりな、蕩ける様な優しい飲み物、」
がっしゃぁぁーん。
力説をしていた私の言葉が、食器類が落下する音で遮られた。そちらの方向を向くと、蒼い顔をして倒れるアットと、彼の手から離れ重力に従って落下したカップの中身が服に飛び散ったエシルの姿。
「………………え……?」
ぽかーんとしてその場を見ると、わなわなと体を震わせるエシルが丁寧に説明をしてくれた。
「……アリス……。アットは紅茶が好きでコーヒーが大っ嫌い。見るのも聞くのも嫌らしくて、それだけで気絶をする」
成る程、だからこんな惨事に。って待て、仮にもこの国の偉大なる権力者様がそんな弱点あっていいのか!?
「それよりさ……。今はこの状況に目を向けようよ」
紅茶がかかった上着を脱ぎながら、エシルがこめかみに青筋を浮かべて訊いてくる。
何だか嫌な予感がして、私は逃げようと一歩後退する。
「どうやって謝ってもらおうかな……」
にやりと笑いながらこちらに一歩地近づく。猫のようなしなやかな動きに一瞬見とれてしまったが、自分の置かれている危機に気が付き、冷や汗が垂れる。
「ご、ごめんなさい、これでいいでしょうかーっ」
「良いわけないじゃん」
言いつつ手首をつかまれ、テーブルに押し倒された。あの、アルクとオア君はこちらから目を逸らさないで頂きたい。
「どーしよっかなぁー」
「離せ変態、謝っただろっ!」
「だから、それだけじゃ物足りないんだよね」
ぐい、とエシルの顔がズームで映る。彼の金色の瞳に映った自分が見える距離にまで達して、思わずぎゅっと目を閉じた、その時。
「あああ、アリスを離してくださいチェシャ猫っ……!」
気弱そうな声がして、ずんっとテーブルに何かが突き刺さるような音がした。
手首の手の感触が消えて、荒々しい彼の声が聞こえる。
「何度も何度も何度も俺の邪魔しないでくれないかなぁ、白っ!」
「ぼ、僕は白って名前じゃないです! ちゃんと『白の騎士』のイグって名前があるんですっ!」
危険は過ぎ去ったので目を開けると、エシルと誰かが口論をしていた。会話からすると『白の騎士』のイグと言うらしい。
「って白っ!」
雪のように純粋な白い髪に、マリンブルーの瞳、白いコート。そして――、テーブルに突き刺さった白と銀色の長剣。
弱気そうに垂れ下がった眉に、捨て犬を連想させられる。
「君マジで目障りだから。何しに来たか知らないけど、とにかく俺の邪魔をしないでくれると君を殺さなくて済むんだよね」
上着を脱いだので丸見えとなった腰についている仕込ナイフを手に取り、一本を白い人……イグに投げる。
慌てて抜き取った長剣でナイフを受け止め、弱弱しく反論。
「チェシャ猫からアリスを助けるのが白の騎士の役目ですから……。という訳で、彼女は僕が預かりますね」
呆然と突っ立っている私のお腹に手を回し、ひょいっと担ぐ。少しよろけたのは気のせいだろう。
「ってちょっと待ってーっ! 私、これからどこに連れて行かれるのーっ!」
「ハートの城です。あ、でも心配しないでください、今日と明日は仕事で女王様も白ウサギさんもいない予定ですし、ディーとダムは基本『アリス』に懐くんで」
この世界に来てから三度目の俵担ぎされた景色に、私はぐったりと抵抗する気もなくなった。
「アリス、迎えに行くからねーっ!」
「分かったからナイフ投げんな、危ないだろーっ!」
二章目終わりましたー
キャラがいっぱい出てきてますが、これから少し増えます(おい
まず反省。おいシリアス何処行った、出てこい
エ○ルがいるとギャグになります(怒
存在自体がギャグなんですよ、あいつ←
それから帽子屋とゆかいな仲間たち、ナンダコレハ。こんなやつらになる予定だったか!?
兎に角次は頑張ってシリアスにします、大人な雰囲気も匂わせたいです←




