その優しさが辛いの
「え?言っていることが矛盾してるよ?」
「矛盾してはいない。理にかなっている」
「荒木の言っていることの意味が分からないんだけど」
だってこの流れから「付き合いましょう」ってなるのが普通だと思うんですが。
「だから、お前のことが好きだから付き合えないの。分かるか?」
「何言っているの?」
荒木はじっとこちらを見つめてきた。
その目を見つめるのは怖くてたまらない。
だけど、私は逃げたくないので見つめ返した。
答えられなかった。というか考えたくなかった。
「お前が俺の死で苦しむのも嫌だ」
「そうだけど・・・」
「俺、将来やりたいことあって。それって結構危険なことでさ。もし俺に何かあったら…って考えたら、お前には普通の人と幸せになってほしいなぁって思って」
「………」
荒木が私のことを好いていてくれることもすごく分かるし、
大切に想っていてくれることも分かる。
ネックレスをくれた時のことを思い出した。あの時は優しくしてもらって嬉しかった。
今も優しくしてもらっている。だけどなんでこんなに辛いのだろう。
―――優しさって残酷だ
いつの間にか頬に涙がつたっていた。
「ごめん・・・」
声が震える。
タオルをバックからだして必死に目を押さえるが止まらない。
「俺さ、いますぐお前のことを慰めてやりたい」
「…慰めてよ」
「でも俺が優しくしすぎたらお前、後で辛くなるだろ?だからもうこれ以上優しくしないから。お前はきっと俺よりいい人に巡り会える。だから俺のことは忘れろ。・・・いきなり言われても難しいだろうが」
私はただ泣く事しかできなかった。
それから1時間私は椅子に腰掛けてずっと泣いた。
荒木は無言で私のそばにいてくれた。
夕日が沈むころになって荒木が口を開いた。
「落ち着いたか?」
「ちょっとだけ」
泣きすぎてかすれた、小さな声しかでない。
「ごめんな。今更何を言っているんだろうな、俺」
そして顔を伏せた。
なんでこんなヘタレで自分勝手なバカ男にホレたんだろう、私。
でも、後悔はしない。
「そんなことないよ。頑張ってその夢を実現してね」
せいいっぱいの笑顔を作ろうとしたけど顔がこわばってしまってできない
「・・・おう」
私は立ち上がってバックを持ち
「バイバイ」
小さく手を振ってそして
「ありがとう、大好き」
って言って出て行った。