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生活魔法って便利ですね!  作者: K
第2章 リリアガルド編

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第16話 闇夜の捜索と底知れぬ悪意〜そして炸裂する結の怒りの一撃〜

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

第16話をお届けします。


依頼が終わったはずのソフィが帰ってこない。

不穏な予感を胸に、圭たちは夜のリリアガルドを駆け抜けます。

レベル3に上がった圭の『エリアマップ』が、物語を大きく動かします……!



 深夜の城郭都市(じょうかくとし)リリアガルド。

 昼間の喧騒が嘘のように静まり返った石畳の道を、数つの影が激しく駆け抜けていく。

 街灯として設置された魔石灯の淡い青白い光が、走る三人の横顔を断続的に照らし出していた。


「……っ、こっちよ! 急ぐわよ!」


 先頭を走るのは、十七歳の少女の姿となった結だ。

 かつての教え子たちを率いる教師としての顔。その凛とした瞳には、鋭い理知と、それ以上に深い焦燥が宿っていた。

 背後には、八歳の少年の姿になった圭、そして必死な形相で走るギルドマスターのココが続く。


 三人が目指したのは、街の西側に位置する治癒院(ちゆいん)だった。

 ソフィが今日一日手伝いに行くと話していた場所だ。


 たどり着いた治癒院(ちゆいん)の扉を勢いよく開けると、そこには深夜とは思えないほどの混沌が広がっていた。


「くそっ、止血を急げ! 魔力ポーションが足りないぞ!」

「こっちの冒険者、傷口が腐食し始めてる! 解毒魔法を使える者はいないか!?」


 鼻を突くのは、独特の薬草の匂いと、生々しい鉄の香――血の匂いだ。

 広間には簡易的なベッドが並べられ、そこには負傷した冒険者たちが溢れかえっていた。

 白衣を纏った職員たちが右往左往し、呻き声と怒号が入り混じる。


「あ、あの! すみません!」


 結は、血の付いた包帯を抱えて走る職員の一人を引き留めた。

 普段の彼女なら、忙しく働く相手への配慮を忘れない。だが、今は一分一秒さえも惜しかった。


「な、なんだいお嬢ちゃん! 見ての通り戦場なんだ、用がないなら――」

「ここに手伝いに来ていた、ソフィ……いえ、ソフィアンヌという少女はいませんか!?」


 結の気迫に押されたのか、職員は一瞬足を止め、記憶を辿るように視線を泳がせた。


「あ……ああ、ソフィちゃんね。彼女なら、いつもの時間に仕事を切り上げて帰ったよ」


 職員の言葉を聞いた瞬間、隣にいたココの顔から血の気が引くのが分かった。

 いつもの時間に治癒院(ちゆいん)を出たのなら、拠点である『星屑のエトワール・ルイーユ』までは、子供の足でも三十分とかからない。それなのに、彼女は戻っていない。


 結は奥歯を噛み締めた。

 不吉な予測が形を成していく。彼女は足を止め、隣のココに向き直った。


「ココ、一つ確認させて。この世界で――公報念話(ギルド・テレパス)が繋がらない時っていうのは、具体的にどんな状況が考えられるの?」


 ココは混乱した頭を必死に働かせ、指を折りながら答えた。


「えっと……まずは距離が離れすぎている時。リリアガルドの中にいるなら届くはずだけど、街の外へ数キロ以上離れちゃうと厳しいわ。……あとは、王宮などの物理的に魔力が遮断されている場所にいる時。それから、魔力を何らかの手段で遮断されている時。そして……」


 ココの声が、微かに震える。


「……その本人に、意識がない時、かな」


 リリアガルドは強固な城壁に囲まれた街だ。

 夜間に門を抜けるのは厳重な手続きが必要であり、ソフィが自らの意思で街の外へ出たとは考えにくい。王宮のような魔力遮断環境も、平民である彼女には縁のない場所だ。

 となると、消去法で行くと、何らかの方法でソフィの魔力が遮断されているか、あるいは彼女に意識がないということになる。どちらにしても、只事ではない。


「……急いだ方が良さそうね。手分けして探すわよ!」


 結の言葉に、圭とココが力強く頷く。

 三人は弾かれたように、夜の闇へと散っていった。


 * * *


「ソフィーー! ソフィアンヌーー!」


 ココはソフィの名前を叫びながら、商店街の方を探していた。

 昼間は数多くの露店で賑わっているこの通りも、この時間になると閑散としていた。

 焦燥に駆られる彼女の前に、カシャリと甲冑の擦れる音が近づいてくる。


「お、ココちゃんじゃないか。こんな時間にどうしたんだ? そんなに血相を変えて」


 現れたのは、見回りをしていた二人組の衛兵だった。

 ココは二日に一回、街の見回りの依頼を受注している。その際に何度か顔を合わせ、気さくに声を掛け合うようになった知り合いの衛兵たちだ。

 ココは縋り付くように事情を説明した。


「そりゃ大変だ。よし! 持ち場の連中にも声をかけて一緒に探してやるから、ココちゃんも頑張るんだぞ!」

「うん、ありがとう!」


 普段なら「自分のギルドの問題だから」と遠慮するのだが、流石にココも緊急事態だというのは察知していた。

 今は一刻も早く、一人でも多くの目が必要だ。ココは衛兵たちの厚意に甘えることにし、再び夜の街へ駆け出した。


 * * *


 一方、結は一度拠点へと戻ってきていた。

 暗い室内で、彼女は灯りも点けずに一人考え事をしていた。


(拠点の周辺の路地を特に念入りに探したけど、見つからなかったわ。争った形跡もなければ、遺留品もない。……あまりにも鮮やかすぎる失踪ね)


 結の瞳に、冷徹な理知の光が宿る。

 今日、自分たちはある大きな問題を解決し、結果として多額の利益を誰かから奪う形になった。その「誰か」が、最も効果的な報復として、一番小さいソフィを狙ったのではないか。


(まさかとは思うけど……一応、準備だけはしておいた方が良さそうね)


 結は静かに立ち上がり、幾つかの「備え」を整え始めた。

 教育者として暴力は避けたいが、大切な生徒――いえ、家族を傷つけようとする害虫には、相応の報いを受けてもらわなければならない。


 準備を終えた結は、窓から夜の街を見上げた。

 その視線の先にあるのは、石造りの高い壁に囲まれた富裕層のエリア。


(圭、ココ。……今すぐ、北側の高級住宅街に来て!)


 結は、二人の仲間に向けて鋭い公報念話(ギルド・テレパス)を飛ばした。


ーーーーーーーーーー


 石造りの高い壁がそびえ立つ高級住宅街(エリート・エリア)

 深夜の静寂に包まれたその入り口に、二つの小さな影がそわそわと立っていた。


「二人とも、お待たせ」


 背後からかけられた凛とした声に、圭とココが弾かれたように振り返る。


「結姉ぇ!」

「こっちよ。急ぐわよ」


 合流した結は、迷いのない足取りで二人を先導し始めた。

 整然と並ぶ邸宅の数々を通り抜け、やがて一行は、ひときわ巨大で成金趣味な装飾が施された屋敷の前にたどり着いた。


「ここ……バッカスの家だよね?」


 圭が確認するように問いかける。今日の昼間、ココの借金を完済するために訪れたばかりの、記憶に新しい場所だ。

 ココは、見上げるような大邸宅を前に、苦々しい表情を浮かべた。


「すごい豪邸ね……。これだけの建物を維持するために、陰でどれだけの人が泣かされてきたのかしら」


 彼女にとってバッカスは、ギルドを、そして自分たち姉妹を地獄へ突き落とそうとした張本人だ。毎月の返済は労働地区にある支店で行っていたため、この邸宅を直接見るのは初めてだったが、その豪華さが余計に彼女の心を逆なでしていた。


「圭、ここで『エリアマップ(エリアマップ)』を使ってみて」


 結の指示に、圭は即座に意図を理解した。

 昼間、この家を訪れた際に圭はバッカスを『鑑定(アプレイザル)』していた。彼のギフトはC級の奴隷商人(スレイブ・ディーラー)

 この世界において奴隷契約そのものは違法ではない。だが、借金を盾に少女を売り飛ばそうとしていた彼の本性を考えれば、真っ当な手段で商売をしているとは到底思えなかった。


(ソフィがここに連れ去られたなら、必ずどこかに反応があるはずだ)


 圭は神経を集中させ、自身のスキルを解き放つ。


「『エリアマップ(エリアマップ)』!」


 圭の脳内に、周囲の三次元地図が鮮明に浮かび上がった。

 同時に、パーティー(パーティー)メンバーの位置を示す光の点が灯る。

 自分のすぐ隣にある二つの点は、結とココだ。そして――。


「……いた!」


 結の予想は見事に的中していた。広大な邸宅の敷地内、その奥まった場所に、はっきりと一つの光る点が静止していた。

 現在、圭のパーティー(パーティー)は圭、結、ココ、そしてソフィの四人。この反応は間違いなくソフィのものだ。


「えっと、結姉ぇ、どうしよう? 見つけたのはいいけど、中には護衛もいるだろうし……」


 圭の不安な問いに、結は冷静にポーチから一枚の白い紙とペンを取り出した。


「落ち着いて、圭。まずはこの紙に、脳内の地図を書き写してちょうだい。できるだけ詳細な間取りをね」


「これ……紙?」

「試しに『錬成(れんせい)』で作ってみたの」


 圭は渡された紙の質感に驚いた。この世界で一般的に流通しているのは、分厚くて書きにくい羊皮紙だ。だが、結が『錬成(れんせい)』で作り出したこの紙は、現代社会のノートのように滑らかで、ペン先が吸い付くように文字を刻める。


 圭は集中し、エリアマップから得た情報を紙に落とし込んでいく。


「ソフィの居場所は……この階段の下。地下室(ベースメント)だね」


 書き上げた間取り図を指差し、圭が説明する。

 それを見たココが、屋敷の正面で威圧的に立っている二人の門番に目を向けた。


「問題は、あの門番よね……。真正面から突っ込んだら、間違いなく止められるよね」


「どうしよう、結姉ぇ」


 二人の視線を受け、結はふっと口角を上げた。その瞳には、教師がいたずらっ子を諭す時のような、底知れない光が宿っている。


「……ここは私に任せて。二人は影に隠れていなさい」


 結はそう言い残すと、悠然とした足取りで門番の方へと歩き出した。


 * * *


「ちょっと、そこのお兄さんたち。少しいいかしら?」


 結は門番の前に立つと、少し甘ったるい声を出した。

 そして、着ているシャツの裾を少しだけ捲り上げ、月光に照らされた白く透き通るような肌を覗かせる。さらには、かつて高校の文化祭で見せたような、茶目っ気のあるウィンクを投げかけた。


 物陰からその様子を見ていた圭とココは、文字通り顎が外れんばかりに驚愕した。


「ま、まさかの色仕掛け……!?」

「ユイも、なりふり構っていられないのね……。でも、あの美貌ならいけるかも」


 二人の門番は、突然現れた美少女の誘惑に、鼻の下を伸ばしてニヤニヤと下卑た笑いを浮かべた。彼らは結を上から下まで、品定めするように舐めるように見回す。


「へへっ、夜中にいい女が迷い込んできたじゃねえか。……顔は上等だな」


「ああ、だが――胸が絶望的に小さいな。子供かよ」


「まったくだ。俺もやっぱり、女はもっとこう、ボインとした大きい方が好みだぜ。まな板じゃあ、抱き心地が悪そうだ」


 門番たちは、結が最も触れられたくない禁忌に、土足で踏み込んだ。


 その瞬間。

 周囲の空気が一気に凍りついた。

 圭とココは、結の背中から立ち上る、どす黒いオーラを目撃して、真っ青な顔で目と耳を塞いだ。


「……あら、そう。だーれーがー、胸が小さくてまな板ですってぇぇぇぇぇ!!」


 氷点下を超え、もはや絶対零度まで冷え切った怒声。

 眉間に巨大な青筋を浮かべた結の拳が、爆発的な勢いで門番の鳩尾に突き刺さった。


 ――ドォォン!!


 呻き声すら上げる暇もなく、屈強な男二人がくの字に折れ曲がって地面に沈む。

 結は、気絶した門番たちの腰から鍵の束をひったくると、何事もなかったかのような優雅な動作で髪をかき上げた。


「圭、ココ。今のうちにいくわよ!」


「「……はい」」


 唖然と立ち尽くす二人は、もはや逆らうことなど考えもしなかった。

 怒らせた時の結姉ぇは、バッカスよりも、どんな魔物よりも恐ろしい。

 二人は心の中で、哀れな門番(と、これからお仕置きを受けるであろうバッカス)のために、静かに祈りを捧げるのだった。


第16話をお読みいただき、ありがとうございました。


結の捨て身の色仕掛け(?)も虚しく、門番たちの不用意な一言が最悪の結果を招いてしまいましたね。

……女性のコンプレックスを揶揄してはいけない。アステリアの門番たちが身をもって証明してくれました(合掌)。


無事にソフィの居場所を突き止めた圭たちは、果たして救出できるのか。

物語がいよいよ加速していきます。


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、

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よろしくお願いいたします。


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