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生活魔法って便利ですね!  作者: K
第2章 リリアガルド編

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第14話 絶体絶命の奴隷契約と、逆転の上級ポーション

ソフィが襲われ、絶体絶命の危機に陥った一行。

さらに、借金取りのバッカスが非情な足音を響かせて拠点へと現れます。


期限は正午。ココを守るため、結が下したあまりにも過酷な「覚悟」とは――。


 ――ソフィ(そふぃ)が襲われた。

 拠点に飛び込んできたその報せは、圭の心臓を冷たく、激しく揺さぶった。

 犯人の心当たりは、あの肥え太った強欲な男、バッカスしかいない。


「圭、すぐにソフィの所へ行って!」


 結の鋭い声が、呆然としていた圭の意識を強引に現実に引き戻した。その瞳には、かつて中学校の教室で教え子たちを守ろうとした時と同じ、知的で凛とした輝きが宿っている。


「わ、わかった。え、えっと結姉ぇは?」


 圭に異論はなかった。だが、一人で救助に向かう不安から、思わず現在17歳の少女の姿となった恩師を振り返る。


「もうすぐここにバッカスが来るわ。私がここを離れるわけにはいかないの!」


 結の言葉には、揺るぎない覚悟が込められていた。魔法契約に縛られたココ(ここ)を一人にするわけにはいかないし、圭の力ではバッカスやその護衛に対応するのは難しい。

 分断される戦力。襲撃された仲間。拠点を包む空気は、かつてないほどに張り詰めていた。


「あ、圭、ちょっと待って」


 走り出そうとした圭を、結が押しとどめる。彼女は懐から、琥珀色の液体が入った小さなガラス瓶を取り出した。昨日、エディを手伝った際に、礼として譲り受けた初級ポーションだ。


効能上昇(ポテンシャル・アップ)


 結がスキルを発動すると、彼女の手のひらから柔らかな光が溢れ、瓶を包み込んだ。瞬く間に液体の色が深まり、輝きが増していく。

 圭が驚いて『鑑定』を行うと、その表示は中級ポーションへと書き換わっていた。体力を30%回復させる、高価な代物だ。


「もう一度……! 効能上昇(ポテンシャル・アップ)!」


 結は額に汗を浮かべ、残る魔力のすべてを絞り出すようにさらに重ねがけを行う。光が収まったとき、そこにあったのは神秘的な蒼光を放つ上級ポーションだった。


「……はあ、はあ……。私の今のMPじゃ、これが限界ね。……圭、これを持って行って!」


 『鑑定』の結果は「体力60%回復」。初級ポーションが本来の何倍もの価値を持つ上級ポーションへと昇華されていた。

 圭は結の手から、熱を帯びた瓶をしっかりと受け取った。


「わかった、すぐに向かうよ!」


 恩師の想い、そして仲間の命を預かった少年の背中は、拠点を飛び出し、スラムの暗がりへと消えていった。


 圭が拠点を出てから、およそ30分が経過した頃だった。


 バタンッ!


 ノックすらなく、粗暴な音を立てて拠点の薄汚れたドアが蹴り開けられた。

 ビクッと肩を跳ねさせたココ(ここ)と結の前に現れたのは、でっぷりと肥え太った醜悪な男、バッカスだった。背後には、柄の悪そうな護衛の男を二人従えている。


「さてココ君。支払いの期日だが、お金は用意できてるんだろうな?」


 バッカスはいかにも成金といった嫌らしい手つきで、極太の葉巻をふかしながらねっとりと言い放った。


「え、えっと、それは……」


 青ざめた顔で口ごもるココ。その怯えた様子を見て、バッカスは口角を歪めてニヤリと笑う。


「まさか、お金をスられたとか、暴行されて奪われたとか言うんじゃないだろうな?」

「あなた、なぜそれを……ッ!」


 結は咄嗟に声を荒らげた。

 間違いない。ソフィ(そふぃ)が暴行を受けたのも、昨日圭がお金を失くしたのも、すべてはこの男の差し金だったのだ。

 だが、結の鋭い視線を受け止めても、バッカスは悪びれるどころか愉快そうに肩を揺らした。


「ただ、なんとなくそんな気がしただけだ。……でお金は用意できてないのか? それならココ君を連れて行き、この拠点も手放してもらうことになるが、いいかな?」


 まるで最初からそれが目的だったと言わんばかりの態勢に、結の堪忍袋の緒が切れた。


「待ちなさい!」


 結はココを背に庇うように立ち塞がり、バッカスを真っ直ぐに睨みつける。


「奴隷として連れて行くなら、私を連れて行きなさい。そんなガキより、成熟した私の方がいいでしょ!?」

「なっ……! だ、だめだよ、ユイ!」


 ココが必死に結の服の裾を掴んで止める。

 

「いいのよ、ココ。元はと言えば、圭がお金を失くしたのが原因なんだから。教え子の不始末は、先生の私が責任を取るわ」


現在17歳の少女の姿になっているとはいえ、中身は26歳の元中学校教師だ。教え子である圭の不始末は、自分が責任を取る。その覚悟は揺るがなかった。


 その悲壮なまでの決意を聞いたバッカスは、「ほう」と感心したような声を漏らし、舐め回すような視線で結の全身を見極めるように目を細めた。


「服を全部脱いでもらおうか。商品としての価値を確かめないといけないのでな」

「……わかったわ」


 拒否権はない。

 結は屈辱に唇を噛み締めながら、震える手でシャツを脱ぎ捨てた。下着は着けていないため、彼女が密かに強いコンプレックスを抱いている慎ましやかな胸元が、冷たい空気に晒される。

 ズボンも脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿となった結。その華奢で白い肌を、バッカスと護衛たちは下卑た笑みを浮かべながら嘗め回すように見つめた。


「いいだろう、今月はこれで勘弁してやる。おい、奴隷契約書を!」


 バッカスの合図で、護衛の一人が羊皮紙をテーブルに広げた。そこには禍々しい魔法陣が描かれている。


「これに血を一滴垂らすんだ」


 渡された小さなナイフ。これを使えば、結の自由は永遠に奪われる。

 結は震える刃を自身の指先に当て、スッと引いた。ツリッとした痛みを伴い、鮮やかな赤い血が滴り落ちる。

 その血の雫が、契約書の魔法陣へ落ちようとした、まさにその時だった。


 バァンッ!!


 壊れるほどの勢いでドアが弾け飛ぶように開き、一人の少年が転がり込んできた。

 ひどく息を切らし、全身を汗と泥で汚した圭だ。


「はぁっ……はぁっ……!」


 圭は鋭い眼光でバッカスを睨みつけると、そのまま足早にテーブルへ近づき、ドンッ!と3枚の硬貨を叩きつけた。

 金貨(きんか)3枚。1枚1万アデナ(あでな)の価値を持つそれは、合計で3万アデナ(あでな)――要求された期日分の支払いに足る額だ。


「これで……いいだろ!」


 圭の怒声に、バッカスの顔が引き攣った。舌打ちをしながら乱暴に金貨をひったくると、忌々しげに圭を睨み下ろす。


「……まぁいい。まだまだ借金はあるんだ。いつまで持つかな!」


 捨て台詞を残し、バッカスと護衛たちは足早に拠点を去っていった。


 静寂が戻った室内。

 極限の緊張の糸が切れた瞬間、結の目から大粒の涙が溢れ出した。


「圭っ……!」


 結は恐怖と安堵がないまぜになり、我慢できずに圭の小さな体にすがりつくように抱きついた。ガタガタと震えるその体温が、圭に直接伝わってくる。


「え、えっと、結姉ぇ……ふ、服を……ッ」


 抱きつかれた圭の頭の中は、別の意味で限界を迎えていた。

 現在の圭の肉体は8歳だが、精神年齢は17歳の健康な男子高校生なのだ。いくら胸が小さいと本人が気にしていようが、17歳の美しい少女が一糸纏わぬ姿で、柔らかな肌を直接擦り付けてきているという現実は、あまりにも刺激が強すぎた。圭の顔は瞬く間に茹でダコのように真っ赤に染まる。


「別にいいじゃない。昔、圭が小さい頃は何度も一緒にお風呂に入ったでしょ……っ!」


 涙声で抗議する結だが、圭からすればたまったものではない。あの頃の自分は正真正銘の幼児だったが、今は違うのだから。


「と、とりあえず何か羽織って! 目のやり場がないから!」


 必死の説得の末、ようやく落ち着きを取り戻した結がシャツとズボンを身につける。

 赤面したままそっぽを向く圭に、結は赤く腫れた目で尋ねた。


「……ところで、圭。そのお金はどうしたの?」


ーーーーーーーーーー


 時は少し遡る――。


 拠点を飛び出した(けい)は、息を切らしてスラムの入り組んだ道を走っていた。

(ソフィ、聞こえる? 今どこにいるの?)

 圭は祈るような気持ちで、念話へと呼びかけた。

(あ、圭さん……。わ、私、住宅街に入ってすぐの路地に入ったところです……)

 途切れ途切れだが、すぐにソフィからの返事があった。

 しかし、この世界に来たばかりの圭には土地勘が全くない。ただでさえ迷路のように入り組んだ路地裏だ。圭は焦燥感に駆られながら、手当たり次第にあらゆる路地を探し回った。


 そして、ようやくその姿を発見した。

 薄暗い路地の片隅で、ソフィが力なく倒れていたのだ。


「ソフィ! ソフィ、大丈夫!?」


 圭は慌てて駆け寄り、冷たい石畳の上に倒れるソフィを抱き起こした。衣服は汚れ、痛々しい怪我を負っている。

「だ、大丈夫です。そ、それよりも、お金……ごめんなさい……ッ」

 ソフィは痛みに顔を歪めながらも、圭の顔を見るなりボロボロと涙を流して謝罪した。バッカスたちに襲われ、大金を奪われた悔しさと申し訳なさが、彼女の小さな体を震わせている。

「いいから! 怪我してるじゃないか、まずは治療だよ。(ゆい)姉ぇが上級ポーションを作ってくれたから、これを飲んだらすぐに治るよ!」

 圭は結から託された、蒼く輝く液体の入った小瓶を取り出し、急いで栓を開けようとした。

「ま、待ってください、圭さん。い、今……なんて言いました?」

 朦朧としていたはずのソフィが、圭の腕を力強く掴んで止める。

「え? これを飲んだらすぐに治るって……」

「ち、違います、その前です!」

 ソフィの目の色が、ハッキリと変わった。

「え? 結姉ぇが上級ポーションを作ってくれたってとこ?」

「じ、上級ポーション!? それ、私に使ったらだめです! 魔法道具屋マジックアイテム・ショップに売ったら5万アデナ(あでな)にはなるはずです!」

 怪我の痛みよりも商魂が勝ったソフィの剣幕に、圭は完全に気圧されてしまった。


 結局、圭はソフィに魔法道具屋の場所を教えてもらい、全速力で店へ向かった。ソフィの言う通り、店主は上級ポーションを見るなり驚愕し、ポンと5万アデナ(あでな)で買い取ってくれたのだ。


 ーーーーーーーーーー


「――そういうわけなんだ」


 拠点のテーブルを囲み、圭からの事の顛末を聞き終えた結とココ(ここ)は、ふぅっと深い安堵の息を漏らした。

「ま、まあ結果よければ全てよし、ね」

 結は苦笑しながら、圭の顔を見つめる。

「それに、今後はポーションを作って売ればお金に困ることもないと思うし、借金の件はなんとかなりそうね」

 結の言葉に、ココもパッと表情を明るくした。

 絶体絶命の窮地。それを救ったのは、圭の奔走とソフィの機転、そして結のギフト『工匠(アルティザン)』の力だった。

 こうして圭たち一行は、異世界での最初の大きな壁を、見事に乗り切ることに成功したのだった。


第14話をお読みいただき、ありがとうございます!


結姉ぇの決死の覚悟、そして圭の全力疾走からの逆転劇……。

エディさんのお手伝いでもらった「初級ポーション」に、結姉ぇが元々持っていたスキル「効能上昇」を重ねがけして価値を跳ね上げる。まさに一行の知恵と勇気がもたらした勝利でしたね!


最後は……17歳の精神年齢を持つ圭にはちょっと刺激が強すぎたかもしれませんが、なんとか窮地を脱することができて一安心です(笑)。


次回からは、このポーションを武器にした新しい展開が始まる予感……!?

「続きが気になる!」と思ってくださったら、ぜひ下の方にある【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります!


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