苦味
───曰く、それは砂の王と呼ばれた。
かつて銀河そのものを滅ぼす厄災として凡そ全ての運命の敵として、苛烈な傷を数多の星々に振りまいた。
虫害。其はまさしく知性を持たぬ蟲として、繁殖の運命に忠実に、そして本能の呻くままに自身の分体を夥しいほど生み出した。
それらがとめどなく沸き出てくる。
殺しても、殺しても、殺しても、無限にも思えるほどの蟲が銀河の半数以上を埋め尽くす。
抗う術を持たぬものが、等しく淘汰されていく。宇宙に存在する無機、有機を問わぬ生命体単位の憂慮は、輪郭を色濃くしていきやがて終末は目前に迫っていた。
×××
「それって、記憶喪失ってこと?」
星穹列車のパーティ車両に招集した開拓の運命を歩む面々は、一様にその青年の事を気にかけていた。
そんな中、桃色の髪をトレードマークとする少女「三月なのか」は沈黙を破り青年に聞く。
それに応じて、青年は答える。
「…小規模な恒星の調査中に、脳の記憶域をフレアに焼かれたようで…所々思い出せない箇所があるんだ。」
青年が返答した後、黒髪の少年「丹恒」は続けた。
「フレアの影響を受けて尚且つ、意識も覚束無い生身の人間が星外宙域に放り出されて、数システム時間存命する事など有り得るのだろうか?」
灰色の髪の少女は、丹恒の発した疑問に対して口を開いた。
「純美の騎士や、銀河打者クラスならそのくらいは出来て当然だからね。丹恒ももう少し見識を広げるといいよ。」
バットを構えた少女の発言をよそに、赤髪のオペレーター「姫子」は件の経緯を整理するために、青年にこう告げた。
「広大な銀河では、不思議な縁によって出会う人達がいる。この場にいる皆も、出自は違えどこうして『開拓』の運命を起点として集まった仲間。だからアンタが望むなら、出自に関わらずこの列車の乗客として歓迎するわ。」
なのかは、姫子に続いてその言葉に賛同した。
「宇宙を漂流してたって所はウチと同じだしね。長い付き合いになりそうな予感!」
一同が新たな乗客に関して、歓迎ムードを放つ中で青年は、数刻前に出された姫子手製の淹れたてコーヒーを飲み干した。
「苦味。今は名前が思い出せないので便宜上、俺のことはその様に呼んでくれると助かる。」
こうして、星穹列車は新たな仲間を迎えた。
それが幸か不幸かは、彼らはまだ知る由もない。




