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ウンディーネは白日に誓う  作者: 咲佐きさ


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第十五話

 きつくひっついて、囁き合う僕らに遅れて川辺に来たチャーリーは、おろおろと視線を彷徨わせる。

「るーしゅみね様、いけませんってえ…カティア母さんにおいらが叱られますってえ…」

「小屋に今、ほかに誰かいる?」

「いないが」

「じゃあチャーリー、見張りしてて! 誰かがこっち来たらノックして!」

「えええええ…るーしゅみね様あ…」

 バタンとチャーリーの面前で扉を閉めて、二人きりになった僕らは噛みつくようなキスをする。吐息を奪い合うような、二匹の獣が戯れあうような、性急で、勢いづいた、めちゃくちゃなキスだ。僕を抱き上げてテーブルに乗せたセデュは僕の形をなぞるように掌を彷徨わせ、僕は息を詰めて彼の舌を甘噛みする。

 掌が腰のところでぴたりと止まって、彼が不意に眉を顰める。

「下着を、つけていないのか…?」

「あ、うん、そういうのは、ぼくには支給されなくて…」

「見てもいいか」

「え? いいけど、なんで? …て、うおっ」

 いきなりがばりとスカート? を捲られてびびる。なになになに? そんなに僕の下半身が恋しかったってのか? …いや下半身だけじゃなくて上半身のほうも愛してくれよな! せっかく会えたばかりなんだから!

「もーやめろよお、やってる時間はないんだから…」

 なんだか緊張感が抜けてしまって、へらへら笑いながら彼の肩を叩くと、青褪めた硬い表情のまま、セデュはスカートを下ろす。

 眉間に深い皺が寄って、なんだか怒っているみたいな仏頂面だ。さっきまでの態度と全然違う。なんだろう、賢者タイムってやつ?

「どしたの? セデュ、おーい…」

「…その手首の痣は」

「え…」

「何か打たれたのか。注射の類を」

 点滴を打たれていた腕のことを言っているのだと気づいた僕は咄嗟にそこを隠す。何度も失敗したのか、右腕の手首は数か所、青黒く変色して痣になってしまっている。

 全然痕が消えてくれなくて、今日まできてしまった。

 セデュに余計な心配はかけたくないので、隠しておこうと、思ってたんだけど。

「な、なんでもないよ。大丈夫だって言っただろう。それより君のほうが心配だ。映画は撮り終わったの? どうしてここに来たのさ」

「映画はクランクアップした。お前はここにいるとファルコの奴に聞かされて…」

「それでノコノコついてきちゃったのか。呑気にもほどがあるねえ」

「…お前には言われたくないな」

「…うん、それはそうだね…」

「…」

 セデュは黙ってしまって、僕の顔にかかる長い前髪を避けて、深刻そうな瞳で僕を見つめる。彼の気遣いを感じて、いたたまれなくて、僕は言葉を探して、それでまた余計なことを言ってしまう。

「…ここ、おんなのひととすんでるの?」

「…いや、」

「おんなのひとがよく来るんでしょ。水車小屋で、機織りのために…」

「日中はほとんど小屋にいないから知らないな。作業に追われてそれどころではないよ」

「…それもそうか。君、肉体労働なんてしたことなさそうだもんな」

「ああ、初めてだ。楽しいとはとても言えないが、…お前の傍にいられるなら、それも耐えられる」

「…」

 僕はまたセデュに、我慢をさせてる。

 辛いことばかり彼に押し付けて、彼を苦しめて、逃げられないところに追い詰めてしまった。

 それなのに、彼に会えて話ができて、こんなにうれしい。

 僕はやっぱりろくでなしだ。自分勝手なガキだ。人間の屑だ。

 ――どうしたら、ここからセデュを救い出せるのだろう。

「るーしゅみね様、限界です! はやく出てきてください、母さんが来ます!」

 ドンドンと荒っぽくドアが叩かれて、チャーリーの焦ったような声が呼ぶ。

 僕はぱっとセデュから飛び退いて口元をごしごし擦り、スカートの裾を直して立ち上がる。

「じゃあ、もう行くね。君はここから出ないで。一緒にいるところを見られたら、また面倒なことになる」

「ルー、」

 扉に手をかけた僕を後ろから抱きしめたセデュは、懇願するように僕を呼んで、

「必ず迎えに行く。二人で、ここから出ていこう」

 決死の覚悟を秘めた声で言った。

 


 小屋から出て、後ろ手にドアをぱたんと閉める。

 いつの間にか、川辺には村人たちが集まってきている。

 ひげもじゃのおじさん、おかみさん風の、恰幅のいいお姉さん、膂力がありあまってるって感じの、ムキムキの青年。若い女の子たちの姿もある。寄り集まって、ひそひそ何か話している。

 僕はそれらの視線の真ん中を、レッドカーペットでも歩くみたいに胸張って進む。

 何もやましいことはしてないって顔で。

 「教祖様」である僕に意見できるやつなんて、この村にはひとりしかいないんだから、へっちゃらだ。

 チャーリーは僕の後ろをちょこちょこついてくる。いまいち頼りない感じの彼は、この村での発言権もあんまりないようだ。

 斜面を登ってしばらく行くと、こちらに駆けてくるカティアとばったり出会った。カティアはあからさまに顔を顰め息を切らし、僕の足先から頭のてっぺんまでじろじろ嘗め回すように見る。

「どうしたの。君が走るなんて珍しいねえ」

「…水車小屋に行っていましたね、教祖様。またあの悪魔が惑わせたのですか。貴方様の神聖な肉体を、あの男がまた穢したのですね」

「べつに、ただ会って話してただけだよ。誰と会って誰と話すかは僕の自由だろう。君たちの言う『神様』だって、そこまで禁じてはおられないだろう?」

「なりません、悪魔と話すのはお耳の穢れ。誘惑は毒です。また、浄化をしなければ…」

「またあれをやるっての? 悪趣味なことだね」

「お身体を調べさせていただきます。あの男の精子一滴でもその身の裡にあるならば、罰を与えなければなりません」

「勝手にどうぞ。何もでてきやしないんだから、かまわないよ。あんな短い時間でできるわけないの、わからないかな? 君ってもしかして経験ないの?」

 果たして、カティアは僕の挑発には乗らず、後ろ手に拘束された僕は地下室に連れ込まれた。

 


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