プロローグ
シーツの上でぱちりと瞼を開く。眠っていたのはどれくらいの時間だろう。
僕の頭の下にはセデュの右腕があって、左腕のほうは、僕の掌をぎゅっと握り締めている。
親からはぐれまいとしがみ付く、子供みたいだ。瞼を閉じた長いまつげと下りた前髪、嫌味なくらい整った顔の彼は、今眠りの淵にいる。風の音のような寝息が規則的に僕の耳元にかかり、穏やかで、静かな寝室は、ついさっきまでの嵐が嘘だったみたいだ。
僕はついに、セデュと寝た! いつもいつも僕が痛がるとセデュは途中でやめてしまって、「急がなくていい」とか「ゆっくりでいい」とか言ってくれてたのだけど、僕はそれじゃあ満足できなかったんだ。
痛くてもいいからセデュとひとつになりたかったんだ!
それで、今夜、思い切って誘ってみて、それで、オイルとか、他にもいろいろ使って、なんとかかんとか、最後まで、することができたんだ。
やったあ、やったよー、ここまで長かったよー。再会してから、1年以上もかかったよお。
マチウとかバロットとかダイアナとかにも報告して回りたい。しないけどね! 恥ずかしいから! 僕は暗闇でガッツポーズをとる。ぐいと身体を伸ばすと湿ったシーツが足に触れて、それで僕はどきりとする。
さっきまでの、嵐みたいな、本能に任せて絡み合う獣みたいな、狂騒を思い出す。
思い出すともう、顔から火が出そうだ。なんか、めちゃめちゃに凄かった。誰かとセックスするのは、僕にとっては9年ぶりで、セデュにとっては、…。
比較するのは、女の子たちにシツレイだけど、付き合った子たちとは、盛り上がって、入れて、出して、終わりの性行為ばかり経験してきた僕にとって、なんか、その、男同士のあれそれは、カルチャーショックって感じだ。過激なプレイの経験はあるけど、それはその、遊びと割り切った相手としかしてなかったし。好きな相手から、あんなふうに扱われるのは、初めてだったというか、なんというか…。
僕はセデュに身体中、それこそ脇の下とか、足指の間まで舐め回されて、こねくられ、裏返され、めちゃくちゃにされて、どろどろ、汗と一緒にチョコレートみたいに溶かされて、液状になったみたいだった。
セデュの身体の中の炎を、移されたみたいに熱くて、苦しくて、胸がいっぱいで。
僕たちは一杯一杯で、感無量で、互いにぼろぼろ泣きながら抱き合ってた。今まで感じたことがないくらい、きもちがよかった。
快感、というよりは、安心感かな。誰よりも僕がいちばん、一番に、セデュの近くにいられるんだって安心感。それと、やっと彼のものになれたんだっていう、嬉しさとか。
唇がしびれるくらいキスして、時間も忘れて抱き合って、ごろごろして、ぐちゃぐちゃになって、くらくらして、気を失うみたいに眠って、それで今だ。
セデュはまだ起きない。たぶん僕より後に寝たせいだろう。
無防備な頬を摘まんでぷにぷに引っ張ってやる。肉の薄い彼は、摘まめるところもあんまりなくて、手を離すと痛めつけられたみたいな赤い跡になる。
悪戯心を起こしてちゅ、と長いまつ毛にキスする。びっしりと生え揃った黒いまつ毛は、エキゾチックな女の人みたいだ。きれいだなあと、改めて見惚れる。
ちゅ、ちゅ、と鼻筋や頬に、赤ちゃんにするみたいにキスしていたら、低く呻った彼がぱちりと目を覚ます。
「ルー、…?」
「んん、ふふ、ぼくだよお」
なんだか声が嗄れていて、ちょっと恥ずかしい。こほん、と軽く咳払いしてからセデュを改めてのぞき込むと、ぱちぱちと夢の中みたいに、彼は瞬いた。
「…」
「…」
「…えへへ、なんか、てれるね」
「…うん」
口調まで子供に戻ったみたいに、セデュが頷く。ますます僕は彼がかわいくなって、いとおしくなって、がばりと抱き着くと、暖かい掌が背中を撫でる。
「からだは。だいじょうぶか」
「ん。へーき…」
「起きられるようなら、シャワーを浴びるか」
「だいじょうぶ。ちゃんとゴムもつけてたし…君の体温が、まだからだのなかに残ってる感じがするから、」
「…」
「しばらく、このままがいいな…」
「……」
抱き合った胸からどくどくと早まる鼓動を感じて、僕は微笑む。
こいつのこと、好きだなあと、思う。何度目かわからないけど。
「朝まで、こうしていよ? いいでしょう? セデュ」
「…朝が来てほしくないな…」
「えー? えへへ…」
ふにゃふにゃに、骨抜きにされた僕は笑って、また彼を抱きしめた。




