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「仲間との絆を力に変える!」と魔王に宣言してから10年経った

作者: 佐々木 青
掲載日:2026/01/18

「どうやらここまでのようだな、勇者」

 

 毅然とした態度で、魔王はこちらを見つめる。


「……いや、まだだ!まだっ……!」

 

 目の前の男を睨みながら、俺は皆のことを思い出す。

 化物から助けてくれたエリシア、親友だったアレン、俺を庇って死んだカミラ。他にもたくさんの人が俺の旅路にはいた。

 皆、大切な仲間だった。


「ふん、往生際の悪い……。」

 

 小馬鹿にしたような視線に歯ぎしりをする。お前のせいで、お前みたいなやつのせいで、皆いなくなったっていうのに。

 拳を突き上げる。こいつに勝って、皆の仇を取るのが俺に残された最後の役目だった。


「今こそ……あいつらとの絆を力に変えるッ!!」


 俺の最後の武器。俺が最後に縋れるのはあいつらとの思い出だけだった。

 突き上げた拳が光を放つ。

 ああ、良かった。これでこいつを倒せる。

 そう安堵し、俺は拳を構え、魔王に向かって飛び込んだ。


  










「……いい加減、諦めないか?」

「…いやだ」


 不貞腐れた様子の勇者と呆れた様子の魔王。

 それを扉の外から、メイドは申し訳なさそうにと伺っていた。

 このやりとりは数にして3289回。返答に頭を抱える魔王の姿も、この城ではもはや日常茶飯事になりつつあった。


「わがまま言うなよ!お前の負けはどう考えても、誰がどう見ても確定だろうが!八年前から言ってるだろ!!」

「認めてたまるか!俺が負けたら誰が仇を取るんだよ!」

「だーかーら!仇とか必要ないだろ!お前、死にたがりなの!?」


 その言葉に勇者は黙る。魔王が勇者を黙らせるのは約八か月ぶりだった。

 それを見た魔王は少し気まずそうな顔で、勇者を説得しようと試みる。


「……お前もそろそろいい齢なんだしさ。こんなところにいてないで、さっさと家に帰ったらどうなんだよ」

 お前だってこれ以上俺と一緒にいるのも嫌だろ?と魔王が精いっぱいの笑顔を見せる。


 彼としてあるまじき行為だ、とメイドは頬を赤く染めた。


「魔王がこんなこと言うのもおかしいけど、ここで十年間お前と色々やってきた身としては、お前には死んでほしくないよ」


 さながら長年連れ添った友人のように、優しい声で魔王は勇者を諭す。

 十年という期間は、それほどまでに魔王を変えた。

 その言葉にも勇者は黙っていたので、いよいよ魔王としてはすることがなくなってしまった。

 沈黙の時間が続き、勇者はようやく口を開いた。


「……俺には帰る場所がない」

「…え?」

「言っただろ、さっき。家に帰れって。」

「……」

「お前とは関係ないことだったから言わなかったが、うちの家族はずっと昔に死んだんだ」


 その言葉は、魔王に衝撃を与えた。なぜならそれが彼にとって()()の情報だったからだ。


「俺にとっては、あいつらが俺の全部だった。あいつらが俺の唯一の居場所だったんだよ」


 絶望した表情の勇者に、魔王はかける言葉を見つけられなかった。

 自分の優しさでやった行動が、勇者を深く傷つけていた。その事実は魔王の心をも抉る。

 いつの間にか扉の外にはメイド以外も集まっていた。いかにも顔面蒼白と言わんばかりの表情をした各々を見て、魔王はため息をつく。


 そして、ようやくそれを伝える決心がついた。


「……俺はさ、お前と初めて会ったとき、ものすごく弱っちい奴だと思ったんだ。エリシアに守られてばかりで、こんなのが勇者かよって正直思ってた。」


 唐突の語りに勇者は首を傾げる。

 魔王がエリシアを知っているはずがなかった。魔王の前に来る頃には、エリシアは死んでいたはずだ。


「でもな、お前と話すにつれて、だんだん考えが変わっていったんだ。昔、なぜ勇者になりたいのか訊いたことがあったよな。」


 勇者は昔、それを訊いてきた男のことを思い出す。そんな質問をしてきたのは勇者の生涯でただ一人だけだった。


「俺、あのときの答えがずっと忘れられなくてさ。お前に会うたびにそれを思い出しちまう。それで、殺したくねーなとか思うんだよ。」


 勇者の中で答えはもう出ていた。目の前の男が何者なのか、勇者は理解してしまった。


「アレン……なのか?」


 震える声でなんとか勇者はその名前を口にする。魔王はそれに眉を下げながら頷いた。

 親友が魔王だったことの衝撃、魔王と戦う前に命を散らした親友が生きていたことへの喜び。

 勇者にはその感情を言葉にするのは困難だった。


「俺だけじゃない。エリシアも、カミラも、皆ここにいる。」


 魔王、いやアレンが後ろを指さす。扉の向こうには見知った面々が勇者を見つめている。


「俺たちは、お前には何も伝えないことが正解だと思ってた。何も知らないまま、お前が勇者として家族のもとに帰るのが一番いいことだと思ってた。」


 勇者はこれまでを思い出す。

 彼らは皆、勇者の仲間として接してくれていたが、深いところまでは踏み込んでこなかった。

 それはいつかのための、彼らなりの思いやりだったのだ。


「帰る場所がないって言ってたな。俺たちがお前の唯一の居場所だったとも。」


 魔王はまっすぐに勇者を見据え、手を差し伸べる。


「なら、我ら魔王軍がお前の帰るべき場所となろう。俺たちがもう一度お前の居場所になってやる。」


 魔王として、アレンとして。


「……それを、これまでのお前への手向けとする」

 そしてなにより仲間として。彼は最後の言葉を告げた。 


 盟友との再会、戦い、旅の終わり。そのすべてが勇者に流れ込む。


 それを受け止め、勇者は魔王に力強く頷いた。










「仲間との絆を力にする!」と魔王に宣言してから10年経ったので、魔王軍で絆を力にしようと思います

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