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48 分類

「それは、私たちが臨界者の特質に基づいて行っている分類だよ。特質っていうのは、要するに風の力をどう使うか、その方法の違いのこと。」


「じゃあ、僕は聞き手ってこと? 導き手とは、何が違うんだ?」


 そう問われて、フレイヤは一度言葉を選ぶように思考を整えてから、ゆっくりと説明を始めた。


「導き手はね、想像の技術を磨き続けることで、風を操る術を身につけていく。前に風域でやったでしょ?強風を細い糸に分解するって想像。あれは、その中でもいちばん基礎にあたる技術なんだ。」


 少し間を置き、彼女は続ける。


「普通、基礎段階では大半の人の想像に大きな差はない。でも、より強い風を操ろうとすると、導き手ごとに想像の方向性がはっきり分かれてくる。


 たとえば私なら、風で木を切り倒したいとき、鋭い大剣を思い浮かべる。その刃を一閃して、幹を真っ二つにするイメージだ。でも、この想像が他の導き手にも通用するとは限らない。」


 フレイヤは肩をすくめ、軽く例を挙げる。


「仮にイヴが同じことをしようとしたら、きっと何十本もの斧が同時に木へ叩きつける光景を思い描くはず。


 だからね、導き手にとっていちばん大切なのは、自分に合った想像を見つけて、それを心から信じ切ることなんだ。」


「想像を……信じる?」


「そう。最初から『正解の想像』がわかる導き手なんていない。だから多くの人は、ある想像を試して何度か失敗すると、『これは自分には合わない』って決めつけてしまう。


 でも実際はね、頭に最初に浮かんだ光景を疑わず、全力で信じたほうが、うまくいくことのほうが多いんだよ。」


「うーん……じゃあ、聞き手は?」


「私が知る限りだけど、聞き手は想像よりも、風との対話や祈りに近い形で力を使うらしい。具体的なやり方までは、正直よくわからない。」


「君が導き手だから?」


「その通り。もっとも、無理に分類するなら、臨界者の大半は導き手だよ。聞き手はせいぜい四分の一ほどしかいない。」


「どうして?導き手か聞き手かって、生まれつき決まってるものなのか?」


 その問いに、フレイヤは首を横に振った。


「先天的な要素が影響することはあるけど、生まれた瞬間に一生の適性が決まる人はほんの一握り。


 正確に言えば、純粋な聞き手と純粋な導き手として続いてきた家系は、たった二つしかないんだ。


 それ以外の、ほとんどの臨界者は最終的にどちらになるかは、自分自身の選択次第ってこと。」


「ってことは、大半の人は想像で風を操る道を選ぶ?」


「うん。入門から中級までは、想像を使うほうが圧倒的に扱いやすいからね。多くの導き手は、高位の風の術を学ぶ段階になって、ようやく壁にぶつかる。


 でも、その壁を越えるのはとても難しい。そこが、想像力の限界だから。」


「もちろん、そこで別の方法に頼ろうとする人もいる。でも、今まで成功した話は聞いたことがないよ。いったん想像で風を操ることに慣れてしまうと、聞き手みたいな使い方には、ほとんど戻れなくなる。」


 ウィンデルは困惑したように、首を傾げた。


「……どうしてそんなことになるんだ?」


「聞き手は、対話や祈りを通して風の力を借りる。しかも、毎回必ず成功するわけじゃない。でも導き手は、適切な想像さえできれば、確実に風を操れる。」


 フレイヤは、少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「たとえ話をしよう。導き手が王様で、想像が権力だとしたら……風の力は、何だと思う?」


 ウィンデルは、彼女の言いたいことを察した。


「……王に支配される、臣民?」


 フレイヤは皮肉めいた笑みを深める。


「正解。権力で臣民を支配することに慣れた王が、目の前にその権力を置きながら、わざわざ手放して臣民の声に耳を傾けると思う?」


「……難しい、だろうな。」


「難しいどころか、人である以上、ほとんど不可能だよ。」


「じゃあ、聞き手にとっては、高位の風の術を学ぶほうが楽ってこと?」


「間違いとは言わないけど、正確でもない。山登りに例えるなら、導き手はふもとから山頂を目指して登る感じだ。高くなるほど難度は増して、特に最後の登頂がいちばんきつい。


 一方、聞き手は最初から最後まで、ずっと山の尾根を歩くようなもの。最初がいちばん辛い。空気は薄いし、寒さにも慣れていないからね。


 でも、体が順応してくれば、相変わらず厳しくはあるけど、最初ほど耐えがたいものじゃなくなる。」


 登山の例えを聞いて、幼い頃から高地で暮らしてきたウィンデルは、すぐに腑に落ちた。


「なるほど……最初は、風の術って生まれつきの力だと思ってたけど、こんなに体系的な違いがあるなんて。」


「やっと理解できたみたいだね。正直に言うと、純粋な聞き手は本当に珍しい。君がそうだと知ったときは、私もちょっと驚いたよ。」


 気づけば、二人は前後ではなく、肩を並べて歩いていた。


 木立のあいだから、そっと風が吹き抜ける。葉擦れの音がさざ波のように広がり、森の奥へと溶け込み、やがてまた、軽やかに戻ってくる。


 初春の、ひんやりと心地よい空気の中で、ウィンデルはどこか酔いが回ったような感覚を覚えた。


 横目で見ると、フレイヤも淡い金色の長い髪を下ろし、目を細め、両手を背中に回して軽やかな足取りで歩いている。


 その表情から、今の彼女がずいぶんと気楽で、機嫌もいいことが一目でわかった。


 風に揺れる金髪。林間を貫く古い小径。そして、音ひとつ立てずに佇む森。


 それらが合わさり、絵のような光景を形作っていた。


 この小道は、まるで時空を分かつ境界みたいだ。


 ウィンデルは、ふとそんなことを考える。


 片側は理想郷のような秘境。もう片側は、強風にさらされ、人の気配すらない荒れ果てた大地。実際にこの目で見るまでは、世界にこんな場所があるなんて、到底信じられなかっただろう。


「何を考えてるの?」


 フレイヤの一言に、ウィンデルは現実へ引き戻された。胸中の思いをそのまま口にすると、フレイヤはしばらく遠くを見るように黙り込み、やがて小さく息をついた。


「理想郷、か……そうだったら、よかったんだけどね。」


「そうは思わないのか?」


 フレイヤは答えず、数歩進んだところで、ふいに歌い始めた。


「♪~

 高くそびえる木々は身をかがめ


 かつて青い渓流の上で


 茶と緑のトンネルを織り成す


 緑深き古の小径よ


 わずかな涼風が


 そっと吹き抜け


 止まることを知らぬ時さえも


 ここでは思わず足を止め 戯れる


 あるいは


 外の世界で千年が過ぎようとも


 この地だけは変わらぬままなのだろうか


 時を凍らせる魔法は


 この場所で ひそやかに息づいている~♪」


 歌声は林の中へ溶け、やがて風の吐息へと変わっていった。


 ウィンデルとフレイヤは、示し合わせたように足を止める。落ち葉を踏むかすかな音すら、胸に残る余韻を壊してしまいそうだったからだ。


 長い沈黙のあと、ウィンデルがようやく口を開いた。


「……今の歌詞、即興か?」


「この歌はね、母に教わったの。たぶん、母の作じゃないと思うけど。」


「そうなんだ……」


 そう言って、二人は再び歩き出す。


 山沿いの小径を進み、折れ曲がった先から下り坂に差しかかった、そのときだった。前方から、どこか懐かしさを覚える強風が吹きつけてくる。


 目を凝らすと、小径の終わりがすでに見えていた。


 その向こうには、風域の灰色の大地と、立ち上る土煙さえも、うっすらと姿を現している。そのとき、フレイヤがぽつりと言った。


「でもね、私から見れば、風の都は決して理想郷なんかじゃない。強いて言うなら……風域のほうが、まだマシなくらいだよ。」


 ウィンデルは一瞬きょとんとし、彼女が先ほどの話を引き継いでいるのだと気づいた。


「風域のほうがマシ?どういう意味だ?」


「だって、風域には人が住んでないでしょ。」


「人が住んでるかどうかと、関係あるのか?」


「あるよ。人がいれば、必ず欲望が生まれる。欲望は、結局争いしか生まない。争いがあれば、世界は醜くなる。だから、風の都だろうと、外の世界だろうと、同じなの。」


 自分に言い聞かせるように、フレイヤは語気を強め、もう一度言った。


「どこに行っても、結局は同じだよ。」


 ◇ ◇ ◇


 森を抜けた途端、二人の耳に弾んだ声が飛び込んできた。


「フレイヤ!やっぱりあなたでした!」


 振り向くと、小径の終点近くの木陰から、ナイヴが勢いよく飛び出し、こちらへ駆け寄ってくるところだった。


 近づいてきた彼女に、フレイヤは不思議そうに首をかしげる。


「どうして『やっぱり』なの?来るって予想してた?」


「まさか。さっき、あなたの歌声が聞こえたの。聞き間違いかなって思ってたら、ちょうど二人が出てきたんだよ。」


「なるほど。」


 ナイヴは視線をウィンデルへ向け、少しだけためらってから、意を決したように声をかけた。


「えっと……ウィンデル、だよね?」


「ああ。」


「こうして話すの、これで三回目だね。」


 そう言われて、ウィンデルは首をかしげた。


「三回目?ミラージ村で一度会っただけじゃないのか?」


 ナイヴは人差し指を立てて、左右に振る。


「違う違う。三回目だよ。二回目は、あなたが起きてなかっただけ。」


「あ……フレイヤに連れられて、風の都に入ったときか?」


「正解!」


 ナイヴは笑顔でうなずいた。その屈託のない笑みに、ウィンデルも自然と微笑み返す。


 その様子を見て、ナイヴはさらに嬉しそうに笑い、手を差し出してきた。


「最初に会ったとき、ちょっと失礼だったよね。ごめんね。」


 ウィンデルは気にしていないと首を振り、彼女の手を取ろうとした――


 その瞬間、後ろから聞き慣れない声が割って入った。


「ナイヴ、そんなに丁寧に接する必要はない。どうせそいつは、素性の知れない余所者なんだからな。」


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