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11 分かれ道

 ウィンデルは下を見て、手の中には、親指の倍ほどの太さがある金属の筒だった。


「これは……何だ?」

「ザグが渡すと言っていたものを、この筒に入れたんだ。わしも中身は見たことない。」


 ウィンデルはそっと筒を揺らしてみた。中で何かがかすかに動く感触が伝わる。筒を注意深く観察し、一方の端が開きそうだと気付く。逆時計回りに回しても動かず、時計回りに数回ひねると蓋がゆるみ開いた。


 中には、巻かれた羊皮紙と、透き通った水晶のような球体が収められていた。ウィンデルは急いで羊皮紙を広げた。そこには明らかに父さんの、乱雑だが力強い筆跡があった。

 ________________________________________

 ウィンデルよ、もしこの手紙を読んでいるのなら、私はもうお前と一緒に暮らしてはいけない。

 申し訳ない。


 考えてみれば、私たちはお前に対して多くのことを謝らなければならない。十分に寄り添えなかったことも、最後に告げず去ったことも、完全な家庭を与えられなかったことも……


 しかし幸いなことに、お前はどうやら自分なりに自由に生きている。孤独を恐れない性格が救ったのか、それとも一人でいることに慣れたからなのか、正直なところ私にも分からない。


 だが、お前が最も知りたいことは、私がなぜこうして去ったのかだろう。残念ながら、それは言えない。私が言いたくないというだけでなく、もしこの手紙を書いたのがお前の母さんなら、きっと同じことをするだろう。


 しかし、これはお前の人生だ。

 あの透明な珠を見たか?真実を知りたいのなら、大切に持っておけ。その珠を携えれば、いつかお前と同じ者に出会う日が来る。その時が、お前の選択の瞬間だ。


 だが、絶対、絶対に慎重に考えるんだ。彼らと関われば、お前は平穏な人生を失うことになる。この時代において、安定な日々は大半の人にとって最も貴重な宝物なのだ。


 要するに、すべてはお前の選択に委ねられている。私の唯一の願いは、お前がその選択を後悔しないことだ。必要なら、ジョアンに相談してもいい。彼は良い飲み友達で、私以外でお前を最も気にかけてくれる人間だ。ここまで読んで、うんざりしているかもしれないが、改めて言う。


 坊や、本当に、申し訳なかった。

 ________________________________________


  手紙を読み終えたウィンデルはジョアンに視線を向けた。相手は好奇心に満ちた表情で、中身を知りたそうにしている。今までジョアンに抱いていた偏見を思い出し、ウィンデルは急に申し訳ない気持ちになった。


「……ありがとうございます。僕のために、こんなことまでしてくれて……」


 ジョアンは手を軽く振り、気にするなと言うように示した後、立ち上がり、ズボンの雪を払った。


「一緒に下山するか?」

「いや、もう少しここにいる。」

「なら先に下りるよ。この歳の老人にはこの山は寒すぎる……あ、そうだ、言い忘れていたことがある。」

「ん?」

「この山の名前、知ってるか?」


 ウィンデルは首をかしげ、なぜ突然そんな話をするのか理解できなかった。


「知らない。名前なんてあるの?」

「もちろん。ここは周辺で一番高い山だ。名前はアルバトルだ。」

「アルバトル?どうしてそんな名前なんだ?」


 ジルパン民族の方言では、アルバトルは「白い大鳥」を意味する。通用語が合衆国内で広く使われるようになった現在でも、雪の山脈の東部では地元民の多くがジルパンの方言を使うことがある。


「これは伝説さ。何百年もの間、この山に非常に巨大な白い鳥が現れたのを何度も人々は目撃したそうだ。しかし不思議なことに、人が近づくとすぐに消えてしまう。だから、鳥の性格はとても臆病だろうと考えられている。」

「なるほど。でもなんで急にこんな話を?」


 ジョアンは笑った。


「お前、この鳥に似てると思わない?」


 そう言い残し、ジョアンは山を下り始めた。背中が遠ざかるのを見て、ウィンデルは思わず叫んだ。


「隊長!」


 遠くからジョアンの返事が聞こえた。


「なんだ?」

「俺、ここを離れる!」


 しばらく間を置いてから、返事が返ってきた。


「勝手にしろ!でも自分の面倒はちゃんと見ろよ!」


 ウィンデルは久しぶりに口元に微笑を浮かべ、南方に広がる大地を見つめながら心を決めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「君は、これまでと同じ日々を故郷で過ごし続けることもできるし、父さんが何のために努力し、この国に抗い続けてきたのか――その理由を知る道を選ぶこともできる。」


 ザグフィが処刑された後、クリストは放心状態のウィンデルを村に連れ帰る途中でこう言った。


「どうするかは、自分で考えなさい。十日間の猶予を与える。その後、私の使者が答えを聞きに行く。現状維持を望まないなら、使者に従え。ところで自己紹介がまだだったな。私はクリスト・ミスリ。臨界者のリーダーだ。」


 気づけば、クリストの言った十日間はあっという間に過ぎていた。新年は訪れ去ったが、ウィンデルは祝いに出かけず、家の整理と旅の準備に追われていた。翌日、ほぼ正午、ウィンデルの家の扉をノックする音が響いた。


 ついに来た。


 そう思いながら、ウィンデルは駆け足で扉を開けた。外には白いローブを纏った少女が立っていた。氷の彫刻のように精緻な顔立ち、黒真珠のような瞳が彼を見つめている。


 目を合わせ、ウィンデルは思わず息を呑んだ。少女は細身の美しい体、白玉のような肌、淡い金褐色の長髪。無表情で冷たい空気を纏い、その姿はまるで雪山に咲く永遠の氷の花のようだった。


 しかし、ウィンデルはすぐに、この少女が丘で出会ったあの少女であることを確信した。面紗の下の顔は見えなかったが、気品は初対面と変わらない。さらに、なぜかどこか見覚えがある気がした。


 少女も、扉の向こうにウィンデルがいることに少し驚いた様子を見せたが、二人とも大げさに動揺する性格ではなかった。しばらく見つめ合ったあと、ウィンデルは先に口を開いた。


「やはり君か。今度こそ名前を教えてくれるだろう?」


 少女は冷たく一瞥し、氷雪の気質に似合う声で答えた。


「フレイヤ・ミスリ。」


 ウィンデルが何か言おうとした瞬間、彼女は無表情で遮った。


「名前は覚えています。余計な言葉はいいです。で、決断は?」


 待ち望んでいた問いに、ウィンデルは迷いなく答えた。


「全てを知りたい。」


 少し驚いたようにフレイヤは目を見開き、しばらく見つめた後、氷が溶けるかのように口元がわずかに上がった。


「では行きましょう。荷物を持って。」


 フレイヤはそう言い、すぐに外へ歩き出した。ウィンデルは収めた大きな背負い袋を担ぎ、彼女の後に続いた。ふと振り返り、十余年住んだ家を見つめ、胸に一抹の哀しみが走った。


 人生は無数の分かれ道でできているなら、今、確実に後戻りできない交差点に立っているのだろう。


 この日は、合衆国暦六十八年一月三日。

 そして、ウィンデルは後に知ることになる――これが長く続く嵐の始まりであることを。



明日から新編始まります!

ここまで読んで頂いてありがとうございます!

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