10 最期の頼み
ウィンデルはとても長い夢を見た。
夢の中で、彼は子供時代に戻っていた。もうすぐ九歳になる数日前、父は黒い髪と深い瞳を持つ男を連れて家に帰ってきた。その男の体を覆うマントも全身真っ黒で、まるで物語の中の死神のように見えた。
その男の名はホーンだった。
その後の数日間、三人は深い山中である場所を探しながら過ごした。暇つぶしに、ホーンはよくウィンデルに物語を語った。ホーンの話す物語はいつも、大陸を旅する少女のことだった。
少女は世の中のすべての必然を見通す力を持ち、適切な時に手を差し伸べ、世界が正しい軌道を進むように導く。さらに少女は幾つかの宝物を探しており、そのうち一つの所在こそ、ホーンが探している場所だった。
そしてついに、ウィンデルの誕生日に、三人はその場所を見つける。最初に見つけたのは、森の中で父とはぐれてしまったウィンデルだった。彼は偶然、風の中に奇妙な声を聞き、その声に導かれて林間の空き地にたどり着く。そこで氷のように青い風に出会い、好奇心から指を伸ばしてその風に触れた瞬間、ウィンデルは目を覚ました。
彼は戸惑いながら目を開け、ぼんやりとしばらく天井を見つめ、やっと自分が夢を見ていたことに気づく。まるで彼の記憶をそのまま再現したかのような、極めて鮮明な夢だった。しかしウィンデルが現実と夢の境界を徐々に見分けるにつれ、昨日起きた出来事と、クリストが去る前に残した最後の言葉を思い出す。
「あなたに十日間の猶予を与える。その間に答えを用意し、私が人を遣わして聞きに行く。」
ウィンデルは起き上がって外の空を見た。もう昼近くになっていた。腹の虫がゴロゴロと鳴るのを聞き、まずは何か食べることにした。倉庫から漬物とベーコンを取り出し、鍋でスープを作りながら、手際よく食材を一口大に切った。
「腹減ったな……」
ウィンデルはつぶやきながら調理を続けた。しかし、やっと煮込み料理ができあがった時には、なぜか食欲がなくなり、熱々の料理をテーブルに置いたまま、布団に潜り込んだ。
一日、二日、三日……時間はどれだけ過ぎたのだろうか。正直なところ、ウィンデル自身も分からなかった。彼はただ朦朧と日々を過ごし、鮮明な夢とぼんやりした現実の間を彷徨っていた。
その間、何度か頑固なノックや誰かの呼ぶ声が聞こえた。うるさいと思いつつも、ウィンデルは聞こえないふりをして、寝たり起きたりの生活を続けた。
どれだけ経ったのか分からないある朝、突然「ガン」という大きな音と共に、誰かが容赦なく布団をめくり、彼の襟をつかんでベッドから引きずり出した。
「ガキ、早く服を着ろ!山に行くぞ!」
その粗い声を聞き、ウィンデルはジョアンだと分かった。しかし目も開けず、ただぼそりと返事した。
「うるせえ、寝かせろ……」
「もう十分寝ただろう!さあ自分で選べ、恥をかいて抱えられて山に行くか、自分の足で歩くかだ!」
そう言ってもウィンデルが動かないので、ジョアンは彼の服を乱暴に投げつけた。
「まだ動かないなら俺が着せるぞ!」
成人男性としての恥ずかしさから、ウィンデルは渋々服を着た。次にジョアンは彼の両手と口に干し肉を詰め込み、強引に彼を山へと引っ張った。抵抗する気もなく、ウィンデルはただゾンビのようにジョアンの後をついていった。
本来、伐採区域に向かうのだと思ったが、途中で地形が急に険しくなると、彼が普段風を聴きに行くあの山を登っていることに気づいた。ジョアンの意図が分かると、ウィンデルは皮肉っぽく乾いた笑いを漏らした。
「隊長、俺が何日も天気予測手伝わなかったから、我慢できなくなった?」
「……ガキ、舐めるな。黙ってついてこい。」
ジョアンの声に含まれる怒りを聞き、ウィンデルはふと不快な感覚を覚えた。
「くそ、伐採隊長が偉いってか?俺は帰る、自分で登れ!」
しかし振り向き下山しようとすると、背後から声がかかった。
「また逃げようとしてるのか?」
ウィンデルは一瞬立ち止まり、数秒後に振り返ってジョアンを睨みつけた。
「……どういう意味だ?」
「文字通りだ。お前はずっと逃げてるだろう?」
「何も逃げてねえよ!」
「議論しても無駄だ。心の中で一番分かってるだろう。本当に逃げてないと思うなら、勝手に帰ればいい。私は止めない。」
ウィンデルは返す言葉が見つからなかった。二人は数秒睨み合った後、ジョアンが先に登り始めた。ウィンデルはその背をしばらく見つめ、呟いてから追いかけた。
礫や氷が混じる尾根道で、二人は慎重に一歩ずつ進み、数百メートルの断崖から落ちないよう注意した。凛とした風の中、寒さに耐えながら登り、ついに峰に辿り着いた。峰の空間は狭く、大人の背丈ほどの大きな岩が地面の大部分を占め、残りのスペースには四、五人の大人がやっと立てるほどだった。
峰に足を踏み入れると、耳をつんざくような風の咆哮が響き、雲が四方に散り、圧倒的な景観がウィンデルの目の前に広がった。群峰に囲まれ、東西に連なる山脈の頂に立ち、この白と青だけの世界を見下ろす。空は言葉にできないほどの青、大地は純白で、すべてを洗い流したかのようだった。
「来たのか」
久しぶりの風のささやきに、ウィンデルは衝動に駆られ、思わず力いっぱい叫んだ。
「ああ――――!」
自分の叫びが谷間に反響し、万の風の声と混ざっていくのを聞き、ウィンデルは涙を流しながら大声で泣き出した。ジョアンは何も言わず、傍らに座って静かに待った。
ウィンデルは、ただただ泣き続けていた。まるでこれまで十数年の孤独を、一気に吐き出そうとしているかのように。頬を伝う涙は止まることなく、地面に落ちるより早く、吹きつける寒風によって白い霜へと変わっていく。
どれほど泣いただろう。
ようやく呼吸が落ち着いたころ、黙って見守っていたジョアンが、ゆっくりと口を開いた。
「初めて天気を予測して成功した時のこと、覚えてるか?あの吹雪の時だ。」
「うん。」
「その時、お前は俺に何と言ったって覚えてる?」
「覚えてない。」
当時の様子を思い出し、ジョアンは微笑む。
「伐採隊に入ったばかりのあんた、泣きそうな顔でそう言ったんだ。『もし皆を早く下山させるつもりがないなら、俺が先に自分で帰る!勝手にここで死ね!』ってな、ぷははは!」
思い出せなくても、ウィンデルは少し恥ずかしさを感じた。
「なんで急にその話を?」
「それがお前を初めてちゃんと知った瞬間だからだ。臆病で心優しいガキ。」
「……俺は臆病じゃないし、心も優しくない。」
ジョアンは笑って首を振った。
「臆病じゃなければ、泣きそうな顔にならない。心が優しくなければ、説得しようとせずに自分で下山しているはずだ。だからお前の性格が分かったからこそ、なぜいつも人付き合いを避けるか理解できる。」
「……ただ他人の顔色なんかいちいち伺うのが面倒なだけだ。」
ジョアンは再び首を振るが、今度は少し表情が厳しい。
「子供の頃、クリフ兄弟と仲が良かったよな?でもあのくだらない噂が村で広まり、周囲が異様な目で見るようになった後、お前は他人との関係を断つことにしたんだろう。理解できる。子供にとって、大人の見解は変えられない。そもそも、人は信じたいものしか信じないんだ。」
「……」
「他人と関係を築けば、彼らの見解を認めたことになる。そうなると、貴族の私生児扱いされ、ザグの息子ではなくなる。さらに、『父が家にいないのは、気にかけていないからだ』と自分を説得することになる。だからお前は逆の選択をした。」
ウィンデルが黙ったままなので、ジョアンは話を続けた。
「問題は、それでも、おまえはあいつらの言うことが真実なんじゃないかって怯えてるところだ。一年のうち数日しか家に帰らない父親に、いつか本当に捨てられるんじゃないかってな……違うか?」
ウィンデルはしばらく沈黙した後、冷たく言った。
「つまらない話だけなら、俺はもう帰る。」
ジョアンは仕方なくため息をついた。
「ここに連れてきたのは、二つ伝えたいことがあるからだ。まず一つ、ザグはお前を軽視したことはない。頻繁に家を空けるのは、他に重要な用事があるからだ。」
「用事?」
「聞くな。詳しくは知らない。以前、一緒に飲んだ時に聞いただけだ。」
「......じゃあ二つ目は?」
ジョアンは懐から細長い物を取り出し、ウィンデルの手に押し込んだ。
「これはザグが数年前に託した物だ。三年連続で帰らなかったり、死んだ場合にはお前に渡すよう言われた。」




