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プロローグ

 死は何色なのか。

 フレイヤ・ミスリにとって、その答えは「白」だった。


 父は神殿広場の白い石畳の上で死に、母は白い雪に覆われた湖の小島で息を引き取った。そして、彼女が一番守りたかった人も、ついさっき、白いローブを着た自分の腕の中で死んでしまった。


 だから、死は白い。

 今のフレイヤの頭の中も、真っ白だった。


 ……これは夢、だよね?


 現実をどうしても受け止められない彼女は、そんな逃げの考えを浮かべる。だが、ぼんやりと周りを見れば、石段の下には矢を構えた兵士が何百人も並び、空には巨大な渦がゆっくり回っている。どう見ても、これは本物の現実だった。


「フレイヤ。最後にもう一度だけ言う。今すぐ『シルシ』を渡せ。」


 冷たい声が石段の下から響くと、胸の奥から悲しみがせり上がった。


「未来を変えられないなら……予言なんて、意味ないじゃない……」


 噛みしめるように呟き、フレイヤは愛する人の衣に手を差し込み、首飾りを探る。

 すぐに、四つの大きな珠がついたネックレスが指先に触れた。

 若草、炎の赤、琥珀、そして氷の青。

 それらを見た瞬間、たくさんの大切な思い出がよみがえってきた。


 だけど――大切だからこそ、手放さなければならない。


 フレイヤは愛する人の冷たい体を地面にそっと寝かせ、石段の下に立つ男を見つめた。視線がぶつかった瞬間、彼女は左手の親指を口に運び、皮が裂けるほど強く噛んだ。男はそれを見て青ざめ、怒鳴った。


「全員、放て!」


 次の瞬間、何百本もの矢が一斉にフレイヤへ飛んでいった。だがすべて、琥珀色の半透明の壁にぶつかり、カランと音を立てて落ちていく。


「なっ……!何をしている、続けて撃て!」


 兵士たちは慌ててもう一度矢を放つが、流れる霧のようなその壁はどんな攻撃も跳ね返した。フレイヤは外の騒ぎを気にせず、四つの珠に順番に血のついた親指を押し当てていく。真っ赤な跡が残っていき、最後に、ずっと大事にしていた透明の珠を取り出した。数秒迷った末、そこにも血を塗りつける。


「フレイヤ!」


 怒りに満ちた叫び声が響く。彼女は聞くと、小さく皮肉な笑みを浮かべた。笑った相手は男ではない。自分自身だ。

 後悔しないと決めたはずなのに、結局またやり直す道を選んでしまう自分を。


 世界そのものが震えるような鼓動が空気に広がる中、フレイヤはそっと目を閉じた少年を見た。彼はまるで後悔なんて何一つないように、口元に小さな笑みを残している。


「こんな選択をしたって知ったら……きっと、すごく怒るよね……」


 語りかけるように、少年の手を握ったまま、サファイアのような左目と、黒い宝石のような右目を閉じた。


「でも、私は後悔しないわ。あの未来に行けるのなら……」


 強い振動が体を通り抜け、意識がどんどん薄れていく。それでも倒れる直前まで、フレイヤは自分の決意だけははっきり覚えていた。


 あの未来が叶うなら……


 たとえ百万回やり直すことになっても、私は後悔しない。


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