夢見るものと夢売りの話
〇使用上の注意
こちらは声劇台本となります。使用の際は以下のことにお気をつけくださいまし。
・非商用の場合は連絡不要ですが、一応もし使うときに連絡してくれたら作者が喜びます。
・役の数が結構多めです(つまりは大人数用台本です)。主要人物以外は兼役の数を調整するなどして、うまいことやってください。すいません。
・「夏目」と「夢売り」のセリフ数が尋常じゃないので、もし上演していただける際は章ごとに演者を交代したりするといいかもです(一気にやらないのも一つかな……)。
〇台本について
作者である遠野天安が、初めて作った声劇台本をリメイクしたものになります。探せばネットの海の中に原典版がありそうな気もする。恥ずかしいけど。
表現はつたないと思います……が、今に悩む誰かの心に、少しでも元気を与えられたらいいな、と思っています。
どうぞお付き合いください。
〇登場人物
主要人物(こっちは演者を分けたほうがいいと思います)
・夏目 ……主人公。高校生三年生。
・夢売り ……謎のおっさん。
・森先生 ……夏目の現担任。
・坂口 ……夢見少年。自分の夢の方向性を、はっきりと持つ少年。
・尾崎 ……夢見少女。自分の夢の方向性に、挫折しかけている少女。
・中原 ……夢無し。自分の夢を、あきらめた青年。
・夏目父 ……夏目の父。厳格な人物。
・小泉 ……夏目の親友だった人物。
端役(いい感じに兼ね役してください)
・子供A ……坂口の遊園地にいる子供
・子供B ……坂口の遊園地にいる子供
・子供C ……坂口の遊園地にいる子供
・団長 ……坂口の遊園地にいるサーカス団の団長
・司会 ……尾崎の完成披露試写会の司会
・監督 ……尾崎の完成披露試写会に出る監督
・尾崎母 ……尾崎の母親。家業を重視する。
・編集者 ……中原の作品の担当編集。
・客A ……本屋にいた客。
・客B ……本屋にいた客。
・医者 ……中原の担当医。
・高瀬先生 ……夏目の一年生の頃の担任。
〈Ⅰ〉
森先生「それでは、これでホームルームを終わります。再来週から試験があるから、そこに向けての勉強も忘れないように……。あとそれから、夏目くん。この後ちょっと進路指導室まで。」
夏目 「え、あ、はい。」
ーーー
森先生「呼ばれた理由、わかる?」
夏目 「ちょっとわかんなくて……なんかやらかしてました?」
森先生「そんなに硬くならなくても大丈夫。お説教とかじゃないから。ただ、君に確認したいことがあって。……この進路希望調査について。」
夏目 「……書いた通り大学進学希望なんすけど、なんか不備でもありました?」
森先生 「不備じゃないんだけどね……たまたま君の一年生のころの担任だった高瀬先生が、これを見てびっくりしていたからさ。もともとは、専門学校に進学希望だったんだろう?」
夏目 「……もう二年前の話ですから。そんだけ時間あったら変わるもんですよ。」
森先生 「それは確かにそうなんだけど、君の場合は」
夏目 「あの、すいません、不備じゃないならいいっすか?一応この後塾もあって……。」
森先生 「あ、あぁ、それはすまない……。でも、もし悩むことがあったら僕のところまで来てほしい。待ってるから。」
夏目 「大丈夫です……ありがとうございます。失礼します。」
森先生 「……もしもし?僕です。少し頼みが……。」
ーーー
夏目 「帰ったら、飯食って、風呂入って……あ、宿題も出てるから……何とかうまく終わらせないと……。」
夢売り 「あー、そこの少年、少し良いかな。」
夏目 「うぉ!?」
夢売り 「うぉ!!大きい声出さないでよ!こっちもびっくりするから!」
夏目 「あ、すんません!なんか急に声かけられて、びっくりして。後ろにいるなんて全然気づかなくて。」
夢売り 「まぁだろうねえ。君、前見てるようで、なんも見えてなかったでしょ。」
夏目 「は?いや、まぁ、考え事はしてましたけど……というか、そもそも一体何の用ですか?」
夢売り 「あぁそうだった。君、夏目君だよね?光世高校の。」
夏目 「え、何で知ってるんすか……あんた、誰です?」
夢売り 「そう怖い顔しないの、怪しいもんじゃないから。」
夏目 「夜道で急に声をかけてくる、一方的に名前を知ってる人は、普通怪しい人だと思うんすけど……。」
夢売り 「まぁそれは確かに。否定はしない……あ、ちょっと、スマホ出さないで、110番しないで!とある人に依頼されたんだよ!君に対して仕事をしてほしいって!」
夏目 「とある人……?仕事……?なんのことですか?」
夢売り 「えーっと……とりあえず落ち着いて話をしたいから、カメラ向けないで、しまってもらってもいい……?」
ーーー
夢売り 「ここなら人の眼もあるから大丈夫でしょ。何たのむ?ちなみにここコーヒーメインのお店だけど、紅茶のほうがおいしいよ。」
夏目 「なんか一緒に来ちゃいましたけど、俺そろそろ帰らないといけなくて……。遅くなるなら、せめて親に連絡を入れたいんすけど」
夢売り 「大丈夫大丈夫。“実質的には”十五分もとらせないから。あ、すいませーん、この紅茶とレアチーズケーキのセット二つで。」
夏目 「結局俺の注文も聞いてないじゃないすか……。」
夢売り 「あれ、そうだっけ。まぁいいじゃない。」
夏目 「あの、いい加減にしてくれませんか?さっきから意味の分からないことばっかり。困るんですけど。」
夢売り 「んえー、近頃の若者は余裕がないな……。せっかく僕おすすめのリラックスプレイスに来たというのに。」
夏目 「だから、なんなんですか。こっちは疲れてるところで急に変なおじさんに声かけられて、いい加減イライラしてるんですよ。」
夢売り 「え、おじ……さん……。やっぱりもうおじさんなのかな……。」
夏目 「そこでショック受けないでくれます?え、泣くほど?」
夢売り 「最近歳を感じることが多くて……。仕事柄、自分より若い子たちを相手にすることが多いからさぁ。なんというか、エネルギーが違うよね。」
夏目 「あの、さっきから仕事って言ってますけど……結局、おっさん何者なんです?」
夢売り 「またおっさんって……ンン、まぁいいでしょう。改めて夏目君。僕は『夢売り』という者だ。とある人の依頼を受けて、君に『夢』を売りに来ている。」
夏目 「……すいません、ちょっとよくわからないです。『夢』を売るって、なんすか?宗教勧誘とか、商材の押し売りとかされても、俺が使える金はそんなにないすよ。」
夢売り 「ま、一発でわかってもらえるわけはないよね。実際に体験してもらった方が話は早い。あ、代金はもう依頼主から貰ってるから、そこは心配しなくていい。」
夏目 「依頼主って……?」
夢売り 「そこは守秘義務だから明かせないかな。とりあえず、これから君の時間を少しもらって、君に『夢』を見てもらい、『夢』について考えてもらい、『夢』を持ってもらおうと思う。」
夏目 「……なんか、随分強引に、あやふやな話をしますね。」
夢売り 「いったでしょ、体験してもらった方が話は早いって。ということで、はい、これに注目!」
夏目 「……懐中時計?」
夢売り 「そ。で、この上の部分に、えーっと、あった、この鍵を差して回すと……?」
夏目 「……?あれ、なんか周りが静かに……?って、時計も……人も……全部……止まってる!?」
夢売り 「オーケー、気づいたみたいだね。正確に言うと、“止めた”んじゃなくて“眠らせた”んだ。でも君は起きている。無事にこっちの世界の中に入れたってことだ。」
夏目 「こっちの世界……?なんか、えっと、えぇ……?」
夢売り 「よし!んじゃ、行こうか。」
夏目 「え、行くってどこに?ていうか、こう、今の状況にもう少し説明とか!」
夢売り 「どうせ説明したってわかんないって。いったでしょ、『夢』を見てもらうんだって。ささ、ついてきてちょうだい。」
夏目 「……なんなんだよ、ほんと……。」
〈Ⅱ〉
夢売り 「はい、ということで到着いたしました!こちらが最初の場所となっております。」
夏目 「……あの。」
夢売り 「はい。」
夏目 「ここ、人んち。そこで寝てる子、知らない子。」
夢売り 「まぁ、だろうね。」
坂口 「ん……むにゃ……。」
夏目 「これ、不法侵入じゃ……。」
夢売り 「まぁ、見方によっては。」
夏目 「っ……さっきからずーっと思ってたんだけど……あんたマジなんなんだよ!?法律って知ってるか!?」
夢売り 「やーん、現代のキレやすい若者だー。よくないんだー。ていうかこの超常現象のなかで法律とか気にするの、めっちゃナンセンスじゃない?」
夏目 「そういうことじゃねえんだよおっさん!!」
夢売り 「あーまたおっさんって言った!年上で目上だぞ!もっと敬え若者!」
夏目 「あんたみたいな怪しいナリの怪しいことする怪しいおっさんが偉そうに言ってんじゃねえ!こっちも我慢の限界だわ!!」
夢売り 「怪しいって言いすぎじゃない!?」
夏目 「わけわかんない怪しいことばっかしてる方が悪いだろ!」
夢売り 「しょーがないでしょ、そういう仕事なんだから!第一、こうなった責任は君にもある!!」
夏目 「はぁ!?」
夢売り 「疲れてるのかなんなのか知らないけど、死にそうでーす、もう無理でーす、みたいな顔して歩いててさ、人生楽しいの?」
夏目 「っ……あんたには関係ないだろ。」
夢売り 「関係あるの。君がそんな顔して毎日過ごしてるから、僕のところに依頼が来たの。で、まずは君をここに連れてきたの。この子の『夢』を見てもらうためにさ。」
夏目 「……さっきから言ってる、その『夢』を見るってなんなんだよ。」
夢売り 「何回も言ってるでしょ、見たほうが早い。えーっと、これこれ。」
夏目 「それ、さっき時間止めるときに使った……。」
夢売り 「そう。さっきも使ったこのカギには、『夢』の中に入り込む力がある。これを人にかざすと」
夏目 「うぉ……これ、扉……?」
夢売り 「この扉の向こうは、彼の『夢』の世界になってる。ほら、早速行くよ。」
夏目 「え、ちょ、わわわわああああああ!」
ーーー
夏目 「っ!と、ここは……遊園地?」
夢売り 「そうそう、ここがあの少年の『夢』の中ってわけ。」
夏目 「……なんか、もう信じられないことが多くて、もう、なんだ。」
夢売り 「そのへんはそろそろ割り切ってもらえると。」
夏目 「とりあえず、一旦……いろいろ置いておくことにする。でも、何でこんな『夢』の中に連れてきたんだ?」
夢売り 「はい、それでは問題です。」
夏目 「急だな。」
夢売り 「『夢』という言葉について、特に多く使われる用法を二つ説明せよ。」
夏目 「なんでテスト形式なんだよ……えっと、まずは寝てる最中に見るイメージというか、映像みたいな意味で。もう一つは……将来の夢、とかいったりするときに使う、目標?みたいな意味……だと、思う。」
夢売り 「解答としては微妙だけど内容は正解ですね。次はどもらないようにスッキリ答えましょう。」
夏目 「コロすぞ」
夢売り 「うわこっわ。」
夏目 「で、それがどうしたって。」
夢売り 「僕がこの鍵を使って入れる『夢』の世界は、その二つの特徴を持ち合わせている。要は、将来の『夢』についてその人が抱くイメージを、眠っているときの『夢』のように再現した世界、と思ってくれるといい。」
夏目 「ってことは、この遊園地はあの子の将来の夢を表す場所……?そういえば、あの子、どこにもいないけど。」
夢売り 「では次の問題、あの子は今この遊園地の中のどこかにいます。見つけてみましょう。」
夏目 「そんな急に言われても、こんな広そうなところで簡単に見つかるわけ」
子供A 「あー!ピョンタだ!」
坂口 「みんなこんにちは!僕ピョンタ!今日はいっぱい楽しんでいってね!」
夏目 「あのうさぎの着ぐるみ、遊園地のマスコットか?ピョンタって言ってたけど」
子供A 「ねぇピョンタ、僕にその風船ちょうだい!!」
子供B 「あ、ずるい、僕も!」
子供C 「わ、私も欲しい!」
夏目 「……大人気だな、ピョンタ。」
夢売り 「どこの遊園地でも、マスコットキャラクターってのはスターだよね。大人でも見てると楽しくなってくる。」
夏目 「ちびっ子たちがみんなニコニコして……ピョンタもそれに精一杯応えてる、って感じがする。」
夢売り 「そうだね。で?」
夏目 「で?……って?」
夢売り 「いやさっき問題出したでしょ。あの子どこにいるでしょーかって。」
夏目 「……あ、あのピョンタ?」
夢売り 「ハイ正解!よくできました、花丸です!では、追加でさらに問題。彼の将来の『夢』はなんでしょうか?」
夏目 「そのまま考えるなら、着ぐるみに入る人とか、マスコットになる……こと?」
夢売り 「だと、まだ答えは半分かなぁ。」
夏目 「半分……?」
夢売り 「もう少し正確な解答が欲しいね。ただそれには……」
坂口 「みんなありがとう!たくさん思い出を作っていってね!」
子供A 「ピョンタありがとー!」
夢売り 「うん、ピョンタも……あの子も、これから移動するみたいだ。ちょっとついて行ってみようか。そうすれば、君にも多分正解がわかる。」
ーーー
団長 「レディース、アーンド、ジェントルメーン!今日は私たちの特別なステージへようこそ!」
夏目 「なんか、でけえテントに入っちまったけど……ここ、サーカス?」
夢売り 「ぽいねえ。サーカスなんて、本物を見に行ったのもう何十年も前だったからなぁ。すごいワクワクするよね。ね!!」
夏目 「いい歳した大人がはしゃぐなよ……。その辺の子供より落ち着きないじゃん。」
夢売り 「そんなこといってー、君だってそわそわしてるじゃない。」
夏目 「う、うっせえ!」
夢売り 「いいんだよ、好きなものは好きで、楽しみなものは楽しみでさ。いくつになったって、そんなの変わんないよ。」
夏目 「……そうか……?……そう、かもな。」
夢売り 「……ほら!演目スタートするみたいだよ!」
団長 「さてさて、本日はいつにも増してのスペシャルショーでございます。せっかくですから、こちらの遊園地のビッグスターでもあります、この方に登場していただきましょう!ミスター・アメイズメント!」
夏目 「ミスター・アメイズメント……?って、あれあの子じゃねえか!」
坂口 「お集まりの皆様!当園でのお時間、楽しんでいただけていますでしょうか?私アメイズも、ここにいらっしゃる皆様の大切なお時間を、笑顔のお時間にできるよう、精一杯努めさせていただきます!」
団長 「オーケーアメイズ!気合は十分だね。これ以上待たせるのもお客様に失礼だ、では、……イッツァショータイム!!」
ーーー
夏目 「……すごかったな!間近であんなアクロバット見れるなんて思わなかった!」
夢売り 「あんな大がかりなマジックも久しぶりに見たよ!体が破裂したときはもうどうなることかと……。」
夏目 「でもなにより……あの子自身が、楽しそうだった。」
夢売り 「そうだね。……ね、あそこ。あの屋台。」
夏目 「ん?……あれ、あの子……今度は屋台の店員?」
子供A 「ねーねー、チュロスちょうだい!」
坂口 「はーい、チュロスだね。どうぞ!」
子供A 「わーい、これおいしそう!お兄ちゃんありがとう!」
坂口 「こちらこそ!また来てね~!あ、団長!」
団長 「いやぁお疲れ様!やっぱり骨のある若い子とやると、こっちも気持ちが乗ってくるよ。しかし、さっきの今でよく動くねえ、本当に。」
坂口 「いいんですよ、これ、僕がやりたいことなんです。なんかもう、毎日ワクワクしちゃって。」
団長 「本当に、天性のエンターテイナーだな君は!素晴らしい!」
坂口 「へへ、ありがとうございます!まだまだいろいろやっちゃいますよ!」
夏目 「……なぁ、おっさん。」
夢売り 「ん?」
夏目 「あの子、ずっとさ、笑ってるよな。」
夢売り 「ピョンタの時は見えなかったけどね。」
夏目 「細かいことは良いんだよ。でも、きっと着ぐるみの中でも、笑ってた。」
夢売り 「僕もそう思うよ。……で、わかった?彼の『夢』。」
夏目 「なんか……はっきりと、これがしたい、っていうより……どんな立ち位置でも、誰かの笑顔が見れて、誰かと笑える仕事がしたい、って感じ……だと思う。」
夢売り 「うーん、まぁ、正解でいいでしょう!あいかわらずふわっとしてるけど。」
夏目 「うるせえっての。でも……」
夢売り 「でも?」
夏目 「絶対、なってほしいな。誰かと笑える、そんな人。」
夢売り 「……夏目君、君もさ、」
夏目 「さーてと、そろそろ行こう!このままずーっといても、こっちが疲れちまう。」
夢売り 「……うん、そうだね。次に行こうか。」
〈Ⅲ〉
夢売り 「はい、ということで続いてはこちらの方の『夢』を見ていただきましょう!」
夏目 「……いや、あのさ。おっさんさ。」
夢売り 「なんでしょう?」
夏目 「さすがに……女の子の部屋はまずくない?」
夢売り 「まぁ別に悪いことするわけじゃないし。え、なに、女の子の部屋入ったことなくて緊張する~とかそういう?」
夏目 「ち、ちげえし!てかそこ問題じゃねえし!!」
夢売り 「図星じゃん、意外とピュアだな。口は悪いのに。君絶対童貞でしょ。」
夏目 「やっかましいわ!」
夢売り 「まぁそれはさておき。」
夏目 「さておくなよ。」
夢売り 「いいから。真面目な話なんだけど、君、この場所のこと、どう思う?からかってる意味じゃなくてさ。」
夏目 「……こぎれいな、真面目な、お金持ってそうな感じの部屋だと思う。あの参考書とか、すげえ難しいやつだし、家全体も立派だし……。」
夢売り 「だよね。僕もそう思う。そのことが少し大事になるから、覚えておいて。」
夏目 「……?なんだ、『夢』が……医者とか?」
夢売り 「そう焦らないの。とりあえず、行ってみようか。」
ーーー
司会 「……それでは、主演の尾崎さん。こちらにいらっしゃる皆様に、一言お願いいたします。」
尾崎 「はい。主演を務めました、尾崎香菜です。本日は映画『縁―えにし―』の完成披露試写会にお越しいただき、ありがとうございます。周りのスタッフさん、俳優さん方に、たくさん指導してもらいながら、何とか乗り越えられた撮影でした。それでも全力を出しきって、素晴らしい作品を作り上げられたと思っています!ぜひ劇場でお楽しみください!」
司会 「ありがとうございます。監督からも一言、お願いいたします。」
監督 「はい。えー、皆様お越しいただきありがとうございます。この『縁―えにし―』については、特に尾崎くんに相当な無茶ぶりをしたんですけども。彼女ね、必死に食らいついて、最後まで演じ切ってくれました。まだ若手と呼ばれる年代ですが、実力は確かかと思います。ぜひ楽しんで見ていただければと思いますので。どうぞよろしくお願いいたします。」
司会 「ありがとうございます、それではキャスト、スタッフの皆様に、再度大きな拍手をお願いいたします!」
夏目 「……きれいな子だな。」
夢売り 「なに、あーいう子がタイプ?」
夏目 「ちげえよ!……てか、この『夢』に関してはさっきと違って、随分はっきりしてんな。俳優だろ?」
夢売り 「うん。」
夏目 「さっきの子と同じで、すげえ笑顔だな、って思う。」
夢売り 「うーん、まぁ、そう、なんだけど……彼女に関しては、ちょっと違うんだよね。」
夏目 「違うって?」
夢売り 「……試写会も終わるみたいだし。ちょっと、ついて行ってみようか。」
ーーー
尾崎 「んっふ~!家に帰ったら、お母さんと一緒にお祝い!」
夏目 「やっぱすげえはしゃいでんな。」
夢売り 「そりゃ本気の夢だったんだろうから、叶ったらうれしいでしょ。」
夏目 「だな。きっと、あきらめないで、最後まで頑張って、ここまで来れる、そんな夢だ。」
夢売り 「そうだね……。そうなん、だけどさ。」
夏目 「……?なんだよさっきから。歯切れ悪いな、。」
尾崎 「お母さんただいま!とうとう試写会で挨拶までしてきたよ!やりとげちゃいました!」
尾崎母 「あら、お帰り。試写会ってなんのことかしら?」
尾崎 「え……なにいってるの、お母さん、私、主演で……。」
尾崎母 「あなた、まだそんなこと言ってるの?いい?芸能の世界なんて、限られた一握りの人しか生きていけないの。それよりもあなたは、うちの医者の血筋を絶やさないようにするのが役目でしょう。何回言わせれば気が済むのかしら?」
尾崎 「そんな、私、あれ?だって……」
尾崎母 「いいから、さっさと勉強してきなさい!」
尾崎 「……はい。」
夏目 「……なんか、雲行きが怪しくないか?」
夢売り 「夏目君さ、僕たちが今いる『夢』って、どういう場所だったか覚えてる?」
夏目 「どういうって、将来の夢を、寝てる間の夢みたいに、再現する場所……だよな?」
夢売り 「惜しい。ほぼ正解なんだけど、この場所は将来の夢そのものじゃなくて、夢に対する“イメージ“を再現する場所なんだ。」
夏目 「……何が違うんだ?」
夢売り 「そうだな……。そうだ、彼女、なんかおかしなところない?」
夏目 「おかしなところ……?あれ、そういえばさっきまですごい鮮やかな服だったのに、今は……なんか、野暮ったいというか、地味な服になってる?眼鏡もかけてなかったよな。」
夢売り 「寝てる間の夢ってさ、ふとした拍子になんかが変わったり、いつの間にか変な場所にいたりするだろ?彼女も同じように変わってるのさ。」
夏目 「でも、なんか……正反対に変わりすぎ、じゃないか?遊園地みたいに統一感がないというか。」
夢売り 「その理由は、もう少し見ていればわかる。」
ーーー
尾崎 「……俳優に、なりたい。けど……。」
夏目 「……さっきまで、あんなに立派に挨拶してたの、まるで覚えてないみたいだ。」
尾崎 「私、やっぱりなれないのかな。お母さんの言うこと聞かないと、ダメなのかな……。医者の家だし、医者に……。でも、この人みたいに……でも……。」
夏目 「あのスマホに映ってるの、最近売り出し中の俳優の……」
夢売り 「僕はその辺疎いけど、なんか見たことある。」
尾崎 「無理、なのかな。諦めたほうが……正しい……怖い、迷いたくない……こんな……こんなもの!!」
夏目 「あ、おい!」
夢売り 「あーあ、スマホの画面もバキバキになっちゃった。」
尾崎 「うぁ……あぁ……。わぁあああ……!」
夏目 「……おい、おっさん、あれ、なんとか、できないのか!?」
夢売り 「いや、無理だね。僕らはどうにもできない。」
夏目 「なんだよ、そんな、あっさりと。」
夢売り 「そういう君は、逆に随分つらそうな顔だ。」
夏目 「当たり前だろ、こんなの見せられたら、誰だって……」
夢売り 「本当に、それだけかい?」
夏目 「……!」
夢売り 「……まぁ、いいさ。ここから出よう。」
夏目 「お、おい、あの子、このまんまかよ!?」
夢売り 「だから、申し訳ないけど、どうにもできない。あの子自身に何かきっかけがない限り、この『夢』は、このまま終わらないんだ。……行くよ。」
夏目 「っ……。ごめんな……。」
ーーー
夢売り 「ということで戻ってきたけど。さっき言った『夢』の意味、分かった?」
夏目 「……あの子にとって、俳優になりたいっていう『夢』は、ただ楽しいものじゃなくて、親に否定されたっていう、悲しさや、苦しさも含んでる……。」
夢売り 「そう。そしてそれが、あの『夢』に反映されてしまった。だから夢そのものじゃなくて、イメージって言い方をする。」
夏目 「だったらこの部屋も……ずっと自分の夢を、否定する場所……。」
夢売り 「まるで呪いの監獄だね。なりたいものを否定するものしか、目に入らないなんて。」
夏目 「……苦しい、な。」
夢売り 「……ここを出ようか。」
〈Ⅳ〉
夢売り 「さてと、次で三人目だけど……大丈夫?」
夏目 「正直言うと……あんまり。」
夢売り 「だよね、さっきのを見てから、ずっと具合悪そう。」
夏目 「……なぁ、おっさんさ。なんで、あんなの俺に見せたんだ?」
夢売り 「目的は最初のお店で言った通り。『夢』を見て、『夢』について考えてもらい、『夢』を持ってもらうこと。言い方はあれだけど……負の面、ちゃんと見せて、考えてもらうのも、僕の仕事のうちなんだ。」
夏目 「……もう、わけわかんねえよ。早く家に帰してくれ。」
夢売り 「まぁ、もう一人だ。次は……この家の人。」
ーーー
中原 「ん……くっ……うぅ……。」
夏目 「……この人どっかで……。……あ、小説家の、中原先生?」
夢売り 「よくわかったね。」
夏目 「もともと、ファンだったんだ。緻密に組んであるストーリーと、キャラクターの立ち方が本当に最高で……。サイン会も行った。でも、新作出さなくなって……。なんか、あの頃と全然、違う。それにこの薬……病気?」
夢売り 「……それじゃ、行ってみようか。」
ーーー
中原 「……また落選、ですか。」
編集者 「ええ……。先生、気を落とさないでください。先生の堅実で重みのある作品に、ファンは必ずついてきますから。」
中原 「ええ、ありがとう。……ちょっと散歩がてら、外の空気を吸ってきます。」
編集者 「お気をつけて……。」
夏目 「中原先生、だいぶショックそうだな……。」
夢売り 「そうだね……。あ、本屋さん入っていくよ。」
中原 「……いつもより、少し暗く見えるな……。」
客A 「お、これ、今年の受賞作じゃんか。結構面白いらしいよ。」
客B 「ほー?俺あんまりこういうちゃんとした本読んだことなくてさ……。動画見てる方が面白いじゃん?」
客A 「それはそうだけどさ、コレ、小難しくなくてサクッと読めるんだって。」
客B 「へー……ラノベみたいな?俺ラノベも読んだことないけど。」
客A 「あぁ、そんな風に言ってる人もいた。……俺も昔は中身凝ってる本が好きだったんだけど……それこそ、中原康太みたいな。」
中原 「!」
客A 「最近はもう全然読まなくなったな……。本読んで疲れるのもなんか、面倒くさくて。」
客B 「時代はお手軽な楽しみって感じ!俺漫画くらいサクサク読めるって言われても、だいぶ面倒かなって思う。」
客A 「お前はもう少しちゃんと本読んだ方がいいぞ……。」
中原 「……時代、か。」
ーーー
中原 「……ちがう、これも……これじゃ、読んでもらえない……。」
編集者 「中原先生、これは……どうしたんですか先生、今までの先生の作風とは、全く……!」
中原 「ちょっと黙っててくれ!」
編集者 「!先生……。」
中原 「時代に置いて行かれては、ダメなんだ……読んでくれる人が、認めてくれる人がいないと……。」
編集者 「落ち着いてください、先生!先生の作品の良さは、ずっと読んでるファンの人たちがちゃんとわかってますから!」
中原 「そのファンだって、最近はどんどんいなくなってるじゃないか!ファンレターの数も、売り上げも、どんどん減っていくばかりだ!賞も落選続きどころか、ノミネートすらされず、私は……このままでは……」
編集者 「……しばらく、お休みしましょう、先生。」
中原 「っ!なんだ、君まで……君まで、もう私の作品は必要ないと……そういうのか!」
編集者 「違います!焦っても、いい作品はできないと……」
中原 「うるさい!……もう、出て行ってくれ……。」
編集者 「……失礼します。」
中原 「……私は、もう……。」
ーーー
中原 「……鬱病……。」
医者 「睡眠不調、拒食、倦怠感……症状としては、かなり。環境を整えて、ゆっくり休養していくことが必要になりますね。」
中原 「……そう、ですか。」
医者 「ご趣味などは、なにかありますか?」
中原 「……すぐに、思い浮かばなくなってしまいました。」
医者 「これから新しく見つけていくこともできますから、のんびり行きましょう。」
中原 「結局……私には、書くこと以外、何も……ないのだな……。ただ、書くのが好きだったあの頃は……。悪くなかった、はず、だったのにな……。」
ーーー
夏目 「中原先生……。」
夢売り 「いろんな夢があるけど、クリエイティブな仕事に関わる『夢』は、どんな人のものでも、必ず負の面を見ることになる。けど、その量は様々だ。」
夏目 「でも、先生の『夢』は、ずっと……悲しくて、苦しいままだ。」
夢売り 「中原康太の『夢』は、完全に呪い、だったね。」
夏目 「……おっさん……出して、くれ。」
夢売り 「夏目君……。」
夏目 「悪い、もう、限界だ。もう……ここには、いたくない。」
夢売り 「……いいのかい、君が尊敬して、君が、目指した人だろう?その人の『夢』の形を最後まで見ておかなくて。」
夏目 「っ!なんで、あんたがそれを……。」
夢売り 「最後まで見るのか、あきらめるのか……どちらにしても、いったん出ようか。話はそれからにしよう。」
〈Ⅴ〉
夢売り 「……戻れるかい?中原先生の『夢』の続きに。」
夏目 「いや……もう、無理だ。今の俺には……もう。」
夢売り 「そっか。……中原康太は今は別の仕事についている。この通り……生きてはいるよ。治療の甲斐あって、鬱の症状も少しずつ軽くなってきている。」
夏目 「……なら、よかった。」
夢売り 「ただ、作家としては……。」
夏目 「おっさん、あんたさ。」
夢売り 「うん?」
夏目 「知ってて見せたのか。」
夢売り 「……どういうことだい。」
夏目 「っ……!とぼけんなよ!わざわざ最後に、中原先生の『夢』まで見せて!他の二人だって、他人事とは思えねえような『夢』を……!」
夢売り 「その通りだ。確かに今回の三人は、君に合わせて選んだ三人だよ。認める。」
夏目 「っ!この、あんた、わざわざこんなこと見せて!なにが」
夢売り 「何がしたいんだ!なんて、言わないでよ。」
夏目 「……なん、だよ。」
夢売り 「最初からずっと言ってるだろ。僕の仕事は、君に『夢』を見てもらい、『夢』について考えてもらい、『夢』を持ってもらうことだ。だから君が考えるべきことを、考えられるような『夢』を見てもらった。それだけのことだ。」
夏目 「あんたは……あんたは、そうやって!」
夢売り 「ねぇ夏目君。君、いつまで逃げるんだい?」
夏目 「!」
夢売り 「ずっとそうだ。君の中に、引っかかることがあるのに、それを頑として認めようとしない。自分に同じ部分があると思うと、辛いから、苦しいから、逃げようとするばかりだ。だから、自分の思いをずっと隠して、ずっと言わない。」
夏目 「そんなことは……ない……。」
夢売り 「はぁー……。君、口は悪い癖に憶病だな。しかたがない、ちょっと強硬手段だけど……こうするしかないな。」
夏目 「な、なんで俺にカギを……!」
夢売り 「だって君、ずっと自分の夢から逃げてるんだもん。だったらもう、直視させた方が早いよ。……ほら、扉は開いた。」
夏目 「お、おい、よせ!やめろ、つかむな!引っ張るな!」
夢売り 「はーい、いってらっ……しゃい!!」
夏目 「やめ、あ、うわぁああああああああ!!!」
ーーー
夏目 「……ここは……中学校……?俺は……。」
小泉 「あー、ナッツやっぱりいた!」
夏目 「!小泉……。お前、なんでここに。」
小泉 「なんでって何さ。図書室にいなかったから、探しに来たんでしょ。」
夏目 「あ、いや、そういうことじゃなくて……。お前、だって。」
小泉 「なーにをごちゃごちゃ言ってんの。ほら、早く出してって。」
夏目 「出してって……何を?」
小泉 「はぁ?私が今出せって言ったら決まってんでしょ。つーづーき!」
夏目 「……続き……って?」
小泉 「あーーーーーーもう!ほら、せっかく最終局面まで来たんでしょ!あんたの、しょ・う・せ・つ!」
夏目 「あ……。」
小泉 「いーから早く出せ!!」
夏目 「あ、おい、人のカバンとってくなよ!」
小泉 「ナッツがとろくさいのが悪いんですぅー、ばーかばーか」
夏目 「おっまえコノヤロウ……!」
小泉 「残念でしたー、女子なので野郎じゃないですー、っと。んじゃ読みますか!」
夏目 「あーもう、好きにしろよ!」
夏目 「(そう……中学時代は、こうやって、小泉にチェックしてもらって……そんで……)」
小泉 「うーむなるほど……これはやられた!中原康太式だね。クライマックスの部分で、最初のほうに埋もれがちだった設定を生かして立ち回るようにしてる……。なかなか腕を上げたようですな、夏目氏」
夏目 「誰の真似だよ……。んで、どうだった。」
小泉 「ん?」
夏目 「だから、感想。」
小泉 「そうだねぇ……うん。」
夏目 「な、なんだよ」
小泉 「あんたの作る話ってさ」
夏目 「おう?」
小泉 「細かいわりに設定が中二病くさかったり女の子に夢見たりしすぎだったり『これ明らかにナッツじゃね?』みたいな描写があるような気がしないでもないけどさ」
夏目 「おい!!」
小泉 「でも、なんてのかな。」
小泉 「笑顔で、楽しく読み終われる。そんな作品で、私はとても好き!」
夏目 「そ……っかぁ!」
小泉 「うーわ分かりやすく喜んじゃって。」
夏目 「うるせぇ……。」
小泉 「素直なのも美徳だよ、きっと。……ねぇ、ナッツさ。」
夏目 「なんだよ、まだからかう気かよ。」
小泉 「違うよ、そうじゃない。……私さ。」
夏目 「お、おう。……なんだ改まって。」
小泉 「……中学卒業したら、ちょっと、遠くに行くことになった。」
夏目 「……え、高校、地元って。」
小泉 「いやー、あたしもそのつもりだったんだけど……家族全員で、海外に越すことになってさ。あっちこっち海外移住するかもって。」
夏目 「……そっか……。」
小泉 「……おい、私より先に泣きそうな顔すんなよ!」
夏目 「別に……別に、そんな顔してないし!第一、海外だろうがどこだろうが、別にスマホありゃどこだって連絡できるし!?」
小泉 「まぁね!これからあんたのその小説も、紙じゃなくてスマホで読むことになるだろうしね!」
夏目 「え、高校生以降もずっと読むつもりでいんの……?」
小泉 「え、読ませないつもりだったの?」
夏目 「いや、なんとなく中学限りかなぁって……。」
小泉 「そんなわけないじゃん。」
夏目 「そんな当たり前みたいに……。」
小泉 「私からしたら終わろうとしてた方が驚きだよ。ね、だからさ、ナッツ。」
夏目 「なんだよ。」
小泉 「書き続けてよ。私、あんたの話、好きだからさ。」
夏目 「……わかったよ、やってやる。俺がわざわざ送らなくても、海外で翻訳されて、出版されて、読めるくらいまで、ずっと……ずっと、書き続けてやる。約束してやるよ。」
小泉 「うん……。楽しみに、待ってる。」
ーーー
高瀬先生「では、高一の進路面談を始めます。つっても、夏目はもう、夢に向かって一直線、って感じだな。……少しは迷わねえの?」
夏目 「なんでちょっと迷って欲しそうなんですか。」
高瀬先生「いやぁ、なんか……俺の立場というか。」
夏目 「別に迷ってないに越したことないでしょ。」
高瀬先生「それもそうだけどよ……。まぁ小説の専門学校。いいと思うぜ。」
夏目 「言われなくても。俺、約束したんで。」
高瀬先生「約束って、誰と?」
夏目 「大事な友達と、っす。」
ーーー
夏目父 「あきれたものだな……。」
夏目 「ちょっと待ってくれ父さん、どういうことだよ、専門学校はダメだって……。」
夏目父 「専門学校がダメだって言ってるんじゃない。お前のその短慮がダメだと言っているんだ。」
夏目 「どういうことだよ……どこが短慮だって」
夏目父 「お前の短慮は二つ。一つ目は、小説家を含めたクリエイティブ系の職業の安定性だ。今の時代では特に響きよく感じるかもしれないが、実際その道は険しく、遠く、活躍できるのは一握りだ。」
夏目 「そんなことわかってる、それに時代がどうこうなんて関係ない。だからこうしてちゃんと勉強しようと……。」
夏目父 「二つ目は、我が家のことを何も考えていないことだ。昔から言っていただろう、お前は夏目家の跡取りだと。わが社を継がせるために、ここまで育ててきたんだ。」
夏目 「……それは、感謝してる。けど……。」
夏目父 「……お前の作品、読ませてもらった。」
夏目 「な……勝手に!」
夏目父 「はっきり言うが、お前には無理だ。」
夏目 「なっ……。」
夏目父 「表現の稚拙さ、構成の甘さ、登場人物のメリハリのなさ。はっきり言うが、お前に才能はない。お前と同年代でも、書けるものはもっと書けている。」
夏目 「っ……。それでも、俺は約束したんだ、絶対、たくさんの作品を出すって。」
夏目父 「……誰に、何を吹き込まれたのかは知らないが、その約束した相手が、本当に読んでくれるのかも、わからないんじゃないか?」
夏目 「そ……それは……」
夏目父 「才能、動機、計画。すべてが甘い。……お前のそれは夢ではなく、ただの絵空事に過ぎない。こうしている間にも、お前と同じ年代の者たちは勉学に励んでいる。……忘れるな。」
夏目 「……はい。」
夏目父 「……小泉……お前は、約束を……。」
夏目 「(そう願って送ったメッセージと、書いた物語には、一日、一週間、一か月……いつまでたっても、返事がなかった。それで。)」
〈Ⅵ〉
夢売り 「それで、心が折れちゃったんだよね、君は。」
夏目 「……。」
夢売り 「んで、どうするの。夏目君。」
夏目 「……どうって、言われても。もう、どうしようもないだろ。ていうか、誰だよあんた。」
夢売り 「記憶と認識の混濁……。やっぱ強引な手段だったよなぁ。まぁいっか。なんとかなるでしょ。」
夏目 「さっきからいったい何を言って……。」
夢売り 「いやぁこっちの話だから大丈夫。それよりさ、夏目君にこれ、書いてほしいんだよ。」
夏目 「これ……進路希望調査書?」
夢売り 「そ。君、何も書いてなかったんだよ。」
夏目 「いや、大学進学ってちゃんと……」
夢売り 「そうじゃなくてさ、一番下。」
夏目 「一番下って……進学後の進路……?」
夢売り 「そそ、任意だから本来書かなくてもいいんだけどさ……。君は書いたほうがいいんじゃないかなって。」
夏目 「……書かなくてもいいだろ。」
夢売り 「いいから、はい、ボールペン。ほら書きなよ。もう決まってるだろ。」
夏目 「だから、書かなくても……。」
夢売り 「書けよ。」
夏目 「っ……。」
夢売り 「どうした、書けるだろ。早く書きなよ。シンプルだ。家業を継ぐ。それだけでいい。何も難しいことはない。」
夏目 「お……俺は……」
夢売り 「どうした。君が言ったんだろ。どうしようもないって。」
夏目 「……そうだよ、どうしようも……どうしようもないんだよ!!もう、やめてくれよ!!」
夏目 「俺だって、俺の『夢』を叶えたかった!約束を果たしたかった!ずっと、ずっとそうやって思い続けてた!でも、俺の『夢』は、先行きが不安で、どうなるかもわからなくて、相手にされない、認められない、忘れられる、そんな『夢』なんだよ!
だったら、成功したやつが近くにいるんだ!あやかればいいんだよ、俺もそうすればいいんだろう!できないことはできないんだよ!必死に考えて考えて考え抜いて!悩んで悩んで悩みぬいて!苦しみぬいて!!その決着がこうなんだよ!
……だから、もう、……いいだろ。疲れたんだよ!!!」
夢売り 「……なら、なんで手が動かない。」
夏目 「……それは……。」
夢売り 「君が本当に心の底から諦めたんなら、書けるだろ。でも、書けないんだろ?なんで書けないのかを考えてみなよ。」
夏目 「あ……あんたに偉そうに言われる筋合いなんかねえよ!!俺の何がわかんだよ!!」
夢売り 「わかってんのはお前が憶病者だってことだけだ、文句あるかクソガキが!!」
夏目 「…………」
夢売り 「お前が諦めてる理由はなんだ!?全部他人じゃねえか!!お前は他人に言われた言葉に、縛られて、ずっと怯えてるだけだ!逃げてるだけだ!思い出せ!なんでその『夢』にかじりついてる、なにがお前の手を止める!!
……お前はいったい、なんで、その『夢』を、守りたい?」
夏目 「俺は……。」
夢売り 「……しっかり、言葉にしてみなよ、夏目君。ゆっくりでいいからさ。」
夏目 「……俺は、好きなんだ。」
夏目 「物語を通じて、人の生き様を知ることも。」
夏目 「ばらばらの一つ一つが、結び付いていると感じることも。」
夏目 「世界がどこまでも広がっていくように感じることも。」
夏目 「そして、何より、俺が作ったものが、誰かを笑顔に、できること。」
夏目 「これだけは……これだけは、捨てたく、ないんだ。」
夢売り 「言えるじゃない。その『好き』をさ、『夢』をさ……忘れちゃだめだよ。現実はつらいかもしれないけど……それだけは、忘れちゃダメなんだ。」
夏目 「……あぁ。そうだな……。はー……。あのさ」
夢売り 「ん?」
夏目 「……怖いんだよ。敷かれたレールじゃないところを走っていくっつーか……。先行きが不安なところを進むのはさ。」
夢売り 「まぁ、それはそういうもんでしょ。」
夏目 「え、そこに対するフォローはねえのかよ!?」
夢売り 「だって事実だし……。」
夏目 「肝心なところであんた……。」
夢売り 「まぁ僕から言えるのは、少なくとも君は独りぼっちじゃない。独りぼっちじゃない人は、生きていけるよ。だから、大事なこと忘れなきゃいいんじゃない?」
夏目 「なーんでそんなことわかるんだよ……。」
夢売り 「だって、今回は君のこと心配してた、も……とある人から、君のことお願いします、って依頼されてるし。」
夏目 「……ん?」
夢売り 「いやさ、細かいことは伏せるけど……今回結構大変だったのよ。情勢荒れてる国に行って、話聞いてこなきゃいけなかったし。通信もかなり制限されてたから、居場所も連絡先もなかなかわからなくて……。やっと見つけてあれこれ話したら、『ナッツのことお願いします!』って泣きながら縋り付かれるし……。」
夏目 「……んん?」
夢売り 「ま、要はさ。君のことを心配してる人はたくさんいるってことだよ。そして、君の作品を待ってる人もいる。それは間違いない。だからさ、怖がらないで、一歩、踏み出していいよ。きっと。」
夏目 「……おう。」
夢売り 「さーてそれではせっかくですので、ほれ、ここ。」
夏目 「あ、進路希望調査書……書くのか?」
夢売り 「さっきも言ったじゃん。君は、書いて、決意固めて、前に進みな。それで僕も、『夢』を持ってもらってお仕事完了!って感じだし。」
夏目 「……ああ、そうするよ!……ありがとな、おっさん。」
夢売り 「……ほんと最後まで、君は失礼なやつだな。」
夏目 「(そうして俺は、ペンを手に取って、そして―)」
〈Ⅶ〉
夏目 「(――はっと気づいたとき、俺はとあるカフェにいた。まるで夢でも見ていたかのように、頭の中はぼんやりとしていた。
差し出されたケーキと紅茶のセットをぼさっと飲み食いして、その日はそのまま、帰路についた。
ただ、二人分のセットを持っていた店員さんの不思議そうな顔と、手元になぜかあった進路希望調査書の、一番下に、太く、はっきり書き足された文字に、温かい気持ちになったことだけは、覚えている。)」
ーーー
森先生 「それで、夏目君。お話とは?」
夏目 「あの……進路のことについて、ちょっと相談したいことがあって。どうしても、捨てちゃいけない気持ちがあることに気づいたっつーか、何て言ったらいいか……。」
森先生 「……大丈夫ですよ、夏目君。ゆっくりでいいですから。しっかり、言葉にしてみましょう。」
夏目 「……はい。実は中学の時……。」
夏目 「(話しながら手に持った進路希望調査書に目を落とす。
もともと空欄だったはずの進学後の進路の欄には、
『小説家になる!』という文字が躍っていた。)」
~完・1~
〈未来〉
夏目 「そろそろかぁ……。」
小泉 「なーに、ナッツ緊張してんの?」
夏目 「違う……とはいえない……。」
小泉 「大丈夫だよ、別にダメでも死ぬわけじゃないんだし。」
夏目 「メンタルは死ぬんだよ……もう何回目の応募だと思ってんだ……。」
小泉 「まーだ10回もいってないんでしょ。これからこれから。」
夏目 「それはそう……だけど……ていうか、よかったのか?せっかく日本に帰ってきたってのに。一日俺とで。」
小泉 「まー、読者一号としては奇跡の入賞が報告される瞬間に立ち会いたいわけよ。」
夏目 「奇跡とかいうな!!」
小泉 「だって倍率めっちゃ高いじゃん。落ちてもしゃーないよそんなん。」
夏目 「事実陳列罪だ……。」
小泉 「大丈夫だよ、律義にここまで約束守ってくれたんでしょ。何があっても私は読むよ。」
夏目 「一回諦めかけたときあったけど。」
小泉 「ノーカンにしといてあげる。」
夏目 「アリガトウゴザイマス……。」
小泉 「でも、ほんとに、今回は今までで一番面白かったと思うよ。」
夏目 「俺もかなり……自信はある……けどなぁ。なんか、思いの丈というか。乗った感じ。」
小泉 「良くも悪くもナッツっぽい作品だと思う。」
夏目 「そういってくれてありがたい……のか?」
小泉 「私に言うなよ。」
夏目 「それもそうだ……あのさ」
小泉 「うん?」
夏目 「ありがとう。ずっと、応援してくれて、読んでくれて。」
小泉 「……うん!」
夏目 「!メールきた……!結果は……。!ちょっと、これ!!」
~完・2~
……なげえな……。これ全部やれた人いたらむしろ話聞きたいです。
演じるなり、読むなりして、どんな気持ちになったかなって。
ご都合主義すぎねえ??みたいに思った人もいるかと思うんですけど、僕はハッピーエンドが好きなんですよ。この作品がハッピーエンドなのかどうかはちょっと微妙ですけど。
だって、苦しんだ先にはなんかあるって信じたいじゃないですか。
悩んだ末につかめるものがあるって、思えた方がいいじゃないですか。
この作品の原典版を書いた大学1年生のとき、高校までの自分のことを思い出して書いていました。苦しかったんす。いろいろ。うまくいかないこと、失敗したことが多くて。
そっからさらに、学校の先生やったりなんなりで、いろいろ苦しかったことも積み重なってて。
でも、今は割と幸せです。
そう思えたのは、周りにいてくれたみんなのおかげだと思ってます。
皆が僕のハッピーエンドを迎えさせてくれつつある気がします。
だから、夏目君にも諦めないでほしかった。見ていてくれる人がいるよ、って、わかってほしかったんだと思います。
今回はそんな作品でした。
死にてえええって思うときもあるけど、頑張って生きていきましょう。
目指せ人生はっぴーえんど!




