愛と哀
続編です。楽しんで行ってください。
あの後、彩葉の家に帰り、また一緒に寝ることになった。「次は……離さないでよ」目尻に涙を溜めて言う彩葉が目に焼きついている。
「本当に……ごめん」俺はそう小さく呟いた。
目が覚めて壁に立て掛けられている時計に目をやる。……8時半、か。昨日は寝付けなかったのか彩葉も寝ている。
……今日は、学校を休もう。スマホに手を伸ばし、休みの連絡を入れる。スマホを閉じ、彩葉を見る。寝息を立てて居る姿がとても可愛いらしい。朝食でも作ろうかと思ったが、今この時彩葉の近くにいるのが大事だと思った。
彩葉をまた、ゆっくりと抱きしめる。
恥ずかしさなんて忘れる程、罪悪感が勝ってしまう。……どう、言い訳すりゃいいかな。
そんなことを考えながらただ、彩葉を抱きしめ、もう離れないことを誓うのだった。
もそっと何かが動くのを感じて、俺は目を覚ます。彩葉の顔を見て「……おはよう」そう一言。気まずくて仕方がないが、このままウジウジするのは自分に腹が立つ。決意を固めて、彩葉に声を掛ける。「朝食、作ろうか?」話題は全然あのことでは無い、だがこれで精一杯だった。
無言で頷く彩葉の頬に触れ、髪を撫でる。
彩葉にじっと見つめられ、何かを察した。
「別に……機嫌を取ろうとした訳じゃないんだ。
ただ、俺がしたかっただけ……ごめんな」
そう言い、ベッドから立ち上がる。
ぐっと何かに服を引っ張られ、そちらに目を向けると。「わ、私も手伝う」そんなことを言ってくれる彩葉……いつもなら遠慮するところだが、もう俺に何かを決める勇気はなかった。
彩葉の手を取り起き上がらせる。
「……行こうか」重い空気でも、絆というモノは感じられた。
朝食を作り、食べようとする。
いつも弁当を食う時なら向かいに座るが、俺は隣に座る。……どうにかを仲を治したい。
そんな一心だった。
しばし、沈黙が続き彩葉が口を開く。
「……うん、美味しいね」相変わらず元気はないようだ。
そして、なんと言うか、察してしまった。
俺が辛気臭い雰囲気を作っているんだと、気付いてしまった。
「なぁ、彩葉」俺は口を開く。
「……なに?」彩葉は疑問を浮かべる。
「……なんと言うか、俺に……聞きたいことある?」そんな質問を投げかけた。
自分からは話せない……だが、聞かれれば話そうと俺は決意した。
「……え?」困惑したような声を上げた後、状況を飲み込み、しばらく考える素振りをして、
そう問う。
「……昨日は何してたの?」
……こう聞かれては正直に話そうか。
俺は言うことをしっかりとまとめて、簡潔に話す。…分かってくれるかは分からないけどな。
「まず、俺はとある組織に加入しているんだ」
「そし、き……?」
「困惑するのは分かるが続けるぞ?
俺は言わば政府側組織……まぁ平たく言えば犯罪なんかを抑える組織の頂点に立ってる」
「…………う、うん」
「……大丈夫か?俺の地位は『組織最大戦力』と呼ばれる」
「一番……強いってこと?」
「そうだな、俺は昨日その組織からとある一件の犯罪を抑えるように命令が入った」
「地位が高いのに?」
「最高司令官ってのがいるからな」
……そいつもお同じ学校に居るのは、言う必要は無いか。
「続けるが、俺はその任務に駆り出され、彩葉の目を盗んで家を出た」
「そして、私が居ないことに気付いて、探しに行っちゃった……と、」
「……そんな感じだな」
しばし、沈黙が訪れて、
「……もう一ついいかな?」
「何だ?」
「なんで……その組織に入ったの?」
「……そうか、そうだな。脳力も話さないとな」
「能力?」「いや脳力だ」「???」
「まず、人間は脳を普段10%も使っていないことを知ってるか?」
「う、うん。聞いたことはあるけど……?」
「俺はその脳を100%使うことが出来る」
「……え?」
「困惑しているな……そうだな……」
スマホを手に取り、調べてみる。
……『隻眼の男』。オンラインの公開チャットで呟かれているのを確認した。
「……これだな」
「何これ……?仁くんじゃん……左目が紅く光り、裏路地に居た人達をナイフで……?」
「……安心しろよ?殺してないからな?」
「あ……良かった。……左目が紅く……」
「俺は脳を100%使用しているんだ。最早人間としての体の働きが変わる……」
「……でも、それで何で目が光るの?」
「虹彩が全開するからな」「……???」
「言わば猫みたいな感じだ。虹彩が全開しているから目に溜まった光が外に出されて見える」
「それって、写真を撮った時だけなんじゃ?」
「俺が特殊なコンタクトをつけているからだろ。俺は猫と違って明るくなっても虹彩は閉じない……脳力を使っている限りな。だから急に明るくなった時、目が潰れないよう光を制限してくれる特殊なコンタクトを付けている訳だ」
「……む、難しいかな」
「まぁ、だろうな。少し生物の知識が必要かもな。あと、そう簡単に信じれるものじゃない」
一通りの話を終えて彩葉は壁に背を預ける。
「ところでさ……」彩葉は口ごもって言う。
「それって危険な仕事なんだよね?」
俺はとある事を察した「まぁ、そうだな……だが、彩葉が思ってる事を先読みして言ってやる」彩葉は真剣に俺を見る。
俺は顔を右手で覆って、その間から目を通す。
「俺は死なねぇよ?……最強だからな」
その豪語が事実である事を俺の右目が証明していることだろう。
彩葉は少し驚いた表情をして、少し微笑み。
「……そうだよね。うん、そうだよ!」
彩葉は大きく声を張って言う。
……やっと元気が戻ってくれた。
酷く安堵して、彩葉へと顔を近付ける。
「……?」彩葉は少し驚いた後、何故か瞳を閉じた。
……?……あ、そんなつもり無かったんだが……
……いや、今度は離さないって誓う意味でな。
俺は何時ぞやの夜のように彩葉と唇を重ねた。
俺たちの問題が解決したところで1日はまだまだ続いて行く。
彩葉はテレビでニュースを見ていた。
『次のニュースです』
俺は食器をカチャカチャと洗い、ニュース……
…ではなく、彩葉を見ていた。
……無意識に視線が行ってしまう。本当に困ったものだ。俺は苦笑いを浮かべ、視線を頑張って逸らす。
『昨日、怪しげな仮面を付けた男が確認されました。 目撃地は上部地図の丸付近でその後、ここの自動車道へ向けて消えていったとのことです』
「……!?」思わず声が出そうになった。
……彩葉と監視カメラだけに注意してた。まさかあそこに人がいたとは……全く気づかなかった。
そう、俺は仮面を付けて行動することがある。俺は言わば化け物だ。独りでに動いて、ものを破壊したり、生物を殺したりする可能性がある為動くには許可が必要になる。だが、何か事件があるところで、そんなものをのうのうと待っていられない。だから、俺は自分の力をどこでも使えるよう、仮面の男として動いている時があるのだ。
「わぁ〜こわ」思ってなさそうな声を上げる彩葉。「昨日通ったところだ……時間も丁度じゃん」そこで彩葉は気づく。
「仁くん昨日、ここで帰ったよね?大丈夫だったの?」そう問いを投げてきた。
「あぁ俺は何も無かった。そんなヤツ居たかな?」演技力は高い。こうなることもあるだろうと高めているのだ。まぁ、プロの俳優だのなんだのを一度見れば覚えるもんだが。
「……ま、そもそもそんなヤツ直ぐに返り討ちにできるけどな」俺がそう言葉を発せば、確かにと彩葉は笑みを浮かべるのだった。
……実際どうなるのだろう。そんな疑問が浮かぶ。自分と同じ実力……そんなヤツと戦ったら。一体どうなるのだろうか。
洗い物が終わり彩葉の隣に座る。ふと時計を見れば9時半だった。
「長いな1日ってのは」そんな言葉を零す。
「私は仁くんと一緒にいれて嬉しいけどね」この子はマジでこういうことをすぐ言う。
俺は顔が熱くなり、目を逸らしてしまった。
スマホを開き、今日の任務は俺以外解決不可で無い限り断る連絡を入れた。
……一応、あの子にも連絡しとくか。
「何スマホポチポチしてるの〜?誰かにはメッセージでも送ってるの?」彩葉は俺を見て問う。「うん……まぁな」結構大事な用なのでそちらに集中し適当な返事をしてしまった。
「……ふぅ」……組織への報告は堅苦しくなって疲れる。俺はスマホをテレビラックに置き、トイレに向かった。
「ふわぁぁ〜」あくびを一つついて洗面台から離れれば
「仁くん女の子と話してた?」怖すぎた。
ものすごい笑顔を浮かべている。
……え?女と?いや、先程連絡してたのは組織の全軍司令官、最高司令官とは少し違うな。
「この雪って言う人、誰?」その瞬間俺は理解し、俺は思わず吹き出した。
「な!?」驚く彩葉にその事実を口にする。
「……ソイツは男だ」「え?」素っ頓狂な声を上げてる。「……可愛い」「ん!?」……声に出てた。
「い、いやそれより……人のメッセージ勝手に見るなよ」俺がそう言うと。
「いや〜……あの、なんと言うか……」言葉を濁す彩葉。「もしかして、昨日夜に出ていったのは別の女の子に会いに行ったのかなーと……」
その言葉を聞いて思った。
……もしかして、彩葉って俺のこと好きなのでは?(気付くのクソ遅い)
そんな有り得ない事柄は頭から振り払い言葉を並べる。「そもそも、彩葉以外、俺が一緒に居たいと思うほど大切な女の子は居ないよ」
「ふぇあ!?」可愛い声を上げる彩葉。
「……ホント急にそういうこと言うよね」赤面する彩葉。「……つ!?」心の中で悶えておく、声に出てた気もするが。
「ま、まぁいいもん……わかったもん」続けて、
「朝風呂入るね」そう言う彩葉にこくりと頷いた。その瞬間、俺のスマホが光る。
「…………」今、顔に出ていないかだけが心配になった。「彩葉」声を掛ける。だが、声が出ない。話さないと行けないのに……分かっているのに。首を傾げる彩葉に「どれくらい風呂に入ってるんだ?」そう聞くと「え〜?女の子にそれ聞く?」ニヤニヤしながらこちらを見ていた。「まぁ3、40分くらいかな〜」そう言われて決めた。「分かった、後食べたいものある?」俺の問いに「プリン!」そう言い放って風呂へ向かう彩葉……あの元気に勇気を貰えた。
……決意した。スマホに、目を向ける。
……俺にしか解決できないこの任務。30分以内に終わらせてやる……!
一応、書き置きは置いておく。前のようにはなりたくないしな。『必ず帰る』……ここを強調して置いておこう。
玄関へ向かい靴を履く、戸を開けて首をポキポキと鳴らし、次の瞬間……俺の久しく出さない本気を出すのだった。
ご視聴ありがとうございました。
今後の投稿もよろしくお願いします。