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サイラスの帰りがやけに遅いのでローザリアは心配になっていた。一週間前から他領に通行料の話し合いの為に出かけているのだ。乳製品を特産としているダグラス領は出来るだけ新鮮な内に王都へ品物を運び入れたいと考えていた。
領内の道路は整備が整ったが他領の道はまだまだだった。中心部は平坦なのだが郊外は石がゴロゴロして荷馬車が揺れるのだ。山道しか無いところもあり頭を悩ませていたのだが、漸く道路が綺麗になった。
当然通行料が高くなったので、話し合いと契約の為ダグラス領主代理としてサイラスが行く事になったのだ。ローザリアも一緒に行くはずだったのだがダニエルが熱を出したので、残って看病をすることになった。
夕方には帰ると先に連絡があったのに、もう真夜中近くになった。事故でもあったのかとローザリアは心配で仕方がなかった。結局次の日になってもサイラスは帰って来なかった。
サイラスに付けた護衛がぼろぼろになって帰って来たのはその翌日の昼過ぎになってからだった。
「若奥様、若旦那様が崖の下に転落され行方が分からなくなりました。
キース殿も探しに行かれましたが、帰って来られないので急ぎ連絡をと思い帰って参りました。見つけられず申し訳ありません」
ローザリアは一瞬気を失いそうになったがどうにか耐えた。自分が指示を出さなくてはいけないのだ。
「騎士団長に来るように言って。お父様とお母様には直ぐに連絡を。で、どうして崖から転落することになったのかしら」
何人かに素早く指示を出しながら帰ってきてくれた護衛に聞いた。
「若旦那様は早く若奥様とお坊ちゃまの顔が見たいからと近道の山越えを選ばれました。獣や山賊が出るかもしれないとお止めしたのですが、腕には自信があるしキース殿やお前たちが付いているだろうと言われまして近道を選ばれました。
ところが短い時間だったのですが、突然山の天気が変わり嵐になったのです。雷が鳴り前が見えなくなるほどの雨が叩きつけるように降ってきました。馬が驚き暴れてしまい馬車のまま崖から落ちてしまわれました」
「わかったわ。ありがとう、疲れたでしょう、お湯につかって休んで頂戴。良く帰って来てくれたわ。怪我人はいるの?あなたの他にも助かった人はいるのかしら」
「数人が崖から落ち怪我をしておりますが、無事だった者はキース殿と共に若旦那様の行方を探しております」
「探してくれているのね、私も諦めないわ。騎士団を率いて捜索に行くわ」
「どうか、道案内をさせてください」
「ありがとう、それなら少しでも体を休めて。体力がないと危険だから」
「わかりました、では身体を綺麗にさせていただいて少し休憩を取ります」
騎士団長を呼んで相談をした後、お義兄様にも連絡をしなくてはと気が付いた。
弟の生死が不明なのだ。直ぐに報告をした。自分の父親が領地から帰ってくるのは急いだとしても二日後、お義兄様は馬なら半日で来られるだろう。
留守は父が帰ってくるまでの二日間だ。ダニエルに何と言えば良いのか、取り敢えず心を落ち着けようとミリーにお茶を頼んだ。
「若奥様、大丈夫ですか?心をしっかり持たれてください。ミリーも行きますから」
「ダニエルを頼みたいわ」
「ダニエル様には乳母も侍女もいます。私はローザリア様の侍女ですからお側は離れません。お守りします」
「サイラスに何かあったらどうしたら良いの、すぐにでも探しに行きたいの」
「怪我の手当の道具と当座の食べ物を持って行きましょう。皆様お腹を空かせておられますよ。サイラス様の好物の肉厚のサンドイッチを作って貰うように言っておきましたからね。水もいりますよ、飲水もですが傷や汚れを落とさなくてはいけませんから」
「話している内に少し落ち着いて来たわ。騎士団長が手配していると思うけど確認は要るわね。ダニエルは泣かないかしら」
「泣かれるのが嫌なら屋敷にいらっしゃるべきです。お母様が不安定だとお子様は影響されますよ」
「サイラスのことが心配で居ても立っても居られないし、ダニエルも心配なの」
「大切なご家族ですからね、当たり前ですよ」
「乗馬用の服を用意してくれる?」
「馬で行かれるのですか?では私も着替えます」
色々準備をしている内にオズモンドが来た。話を聞くと自分が行くからローザリアは留守番をするように言った。
「こういう事は男に任せておくものだよ。弟の行方が知れないんだ、探すのは任せて欲しい。キースの動きも予想が出来る」
「顔を見るまで不安でたまらないのです」
「焦って近道をしようとするから皆を巻き込むんだ。見つけたら叱ってやるから、待っておいで。ダニエルが泣くよ」
「ではお父様が帰って来たら捜索に行きます」
「昔から頑固だったね、仕方がない。許可を貰えたらおいで」
「どうかよろしくお願いします」
「戦略を立てて探すからきっと直ぐに見つかるよ」
そうしてオズモンドと伯爵家の騎士団の総力をあげての捜索が始まった。
ダニエルは母の不安と屋敷の中のざわざわとした空気を敏感に感じ取り夜泣きをするようになり、ローザリアは乳母と交代でダニエルをあやす事になった。
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