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 オズモンドに縁談が来た。サンダース侯爵家からだった。

余程恩を感じているのだろうと思ったが、八歳も年下の令嬢だ。どう扱って良いかわからないのでせっかくのお話ですがと断りを入れた。



それにも関わらず一度顔合わせをしてくれないかと言われてしまった。

貴族令嬢らしく綺麗な子だったが十七歳と話が合う気がしなかった。自分に男色の噂がある事は知っていたので逃げるのに利用しようと思った。



顔合わせの日侯爵家には有名菓子店のケーキをお土産に持って行った。花は誤解されると思ったからだ。

アン嬢は綺麗な薄桃色の絹のプリンセスラインのドレスを着ていた。


そのせいで昔、ローザリアが着ていたドレスを思い出してしまった。

「妖精のように可愛らしいですね」


「ありがとうございます。ハウエル伯爵令息様には父が無理を言ったようで申し訳ありません。大変なご恩がありますのに」


「当たり前の事をしただけですよ。気にしないでください。もう怖くなくなりましたか?男性恐怖症になっておられないかと心配していました。今日もまだ怖いのではありませんか?」


「怖いなどと滅相もありません。おかげさまで持ち直しました。父も兄も優しいというか甘いので、男性が怖いとは思いませんわ。しかもハウエル伯爵令息様が助けてくださって嬉しかったですわ。格好いいなと憧れてしまいました」


「私が?」


「はい、子供っぽいと笑わないでくださいね。素敵でした」


「私が素敵ですか?」

困った事になったとうんざりした。迫られるのは好きではなかった。助けたのは偶然で当たり前だった。


「颯爽と助けに来てくださって素敵でした」


メイドがさっとお茶を換えた。お嬢様の暴走を止めるためだろう。


オズモンドは形勢が危なくなりそうなので早く退散したほうが良いと判断した。



「私は結婚願望がありません。このまま独身を貫くつもりです。貴女はもっと若くて素晴らしい方がお似合いです。そちらから断っていただけませんか?」


「そう言われるのは分かっていました。わたくしなど伯爵令息様から見れば子どもですもの」

泣き落としに来たか。


「私の様なおじさんより若い方がお似合いだと思いますが」


「おじさんなんて思いませんわ。頼りになる年上の方が好みなのです」


「ぐいぐい来られますね。私のどこが良いのですか?」


「氷の伯爵様と言われているのにお優しいところと頼りになるところですわ」


「その二つ名は止めてください。誰が付けたんでしょうか、恥ずかしい限りです」


アンはどうしてこんなに素敵な人が今まで結婚しなかったのだろうと思ったが、考えないことにした。結婚していたら私と結婚できないではないか。男色という噂は事実なのだろうか。



「私から言うなんて恥ずかしいのですが、何回か会っていただけないでしょうか?

今日だけではハウエル伯爵令息様もわたくしもお互いを知る事が難しいと思いますの」


「何回もお会いすれば貴女にとって良くない噂が立ちますよ」


「お兄様のお友達という触れ込みでいかがでしょう。勿論ハウエル伯爵令息様がお嫌になれば止めますわ」



「じゃあ、あと一回にしてくださいませんか」


「そんなにお嫌なのでしょうか?」


「貴方が嫌というわけではないのです。貴族学院に入ってから女性からそれは色々と迫られました。十三歳なのにです。伯爵の妻という立場が欲しいのは分かりますが、うんざりしました。それで嫌いというか苦手になったのです」


「大変でしたわね。兄は幼い頃から婚約者がおりましたのでそこまで酷くはなかったようですが、色々な誘惑から逃げてはいましたわ。では最後に一つだけお願いを聞いていただけませんでしょうか」


「私に出来ることであれば」


「卒業式のエスコートをお願いしたいのです。この間の事が悪い噂になって漏れているようですの。兄の婚約者も一緒に卒業しますので父と行くつもりでしたが、ハウエル伯爵令息様なら噂を吹き飛ばすのに最適なパートナーかと思いますの」

そう来たか、悪くない作戦だと好意的に思った。


「ではドレスを贈らせてください。どんな色がお好きですか。今度ドレスショップに行きましょう」


「紺色ですわ、でも贈っていただくなんて申し訳ないです」


紺色はオズモンドの瞳の色だ。抜け目がなくて嫌いではないが婚約者でもないのに行き過ぎだ。水色くらいが落としどころだろうとショップに手配をする事にした。



「大人の矜持です。お祝いさせてください。侯爵家の行きつけのお店に行きましょう。来店日を予約しておいてください、お迎えにあがりますよ」





 卒業式の日水色のシルクのドレスを着たアンは妖精のように美しかった。

「とても良くお似合いです。水の妖精のようですよ」

「ハウエル伯爵令息様こそ黒いスーツがとても素敵です」



二人が会場に入っていくと噂さえ無かった侯爵令嬢と氷の伯爵令息の組み合わせが注目を集めた。


自分は保護者枠かなと思っていたオズモンドは、女性たちのうっとりとした視線を完全に無視した。


儚げな印象のアンは三年間一位だったらしく表彰を受けた。


「卒業おめでとうございます。三年間一位とはすごいですね。早く教えてくださればお祝いを持ってきたものを」


「ありがとうございます。素敵なドレスをいただきましたし、エスコートもしていただいて皆を驚かせましたわ。もう充分ですわ」

と微笑みを返された。




☆☆☆☆☆



サイラスの屋敷に遊びに行った時に弟から

「兄上、侯爵令嬢とお付き合いをされているのですか。私のところまで噂が伝わって来ていますよ」


「夜会で困っていた所を助けただけだ、妹みたいな人だよ。もう会わないつもりだ。結婚も考えてはいない」


「僕達は恋愛に不器用ですからね。その令嬢が他の男の隣に立ちキスやそれ以上のことをされても良いのですか」


オズモンドはアンの側に他の男が立っている所を想像した。


「嫌かもしれない。サイラス、お土産はローザリアと子供たちに渡してくれ。また来るよ」

オズモンドは慌てて帰って行った。


「兄上、頑張って」

サイラスは優しい兄の幸せを祈った。




侯爵家に先触れを出し赤い薔薇の花束を抱えたオズモンドは応接室に通された。

淡いクリーム色のドレスのアンが待っていた。


「今日も綺麗だね、ドレスがよく似合っている」


「ハウエル伯爵令息様こそ凛々しくて素敵ですわ」


薔薇の花束を差し出しながら跪いた。


「アン嬢、私と結婚してください」


「私で良いのですか?結婚する気になられたのですか」


「どうやら貴女に恋をしたようなのです。笑いますか」


「笑うなんて、出会った時から好きになっていました」

赤くなった顔のアンが小さな声で精一杯言葉を紡ぎ出した。


「良かった。どきどきしました。抱きしめても?」

オズモンドの胸は早鐘が打ったようになっていた。アンも同じだった。

「可愛い人、一生側にいてください」




この後オズモンドは父から爵位を譲り受け伯爵になりアンと共に領地を更に盛り上げた。

二年後に男の子がその三年後には双子の女の子と男の子ができハウエル家は賑やかな家庭になった。

弟家族とも相変わらずいい関係を結んでいた。



自分にこんな未来があると思っていなかったオズモンドは、笑い合うアンと子供達を見つめ幸せを噛み締めた。

やっとオズモンドが幸せになりました。書いている途中でアンが暴走しそうになったりしたのですが、

どうにかハッピーエンドに持ち込めました。最後まで読んでくださりありがとうございました!

よろしかったら下にある☆をポチッとしていただけると、とても嬉しいです。

誤字報告ありがとうございます。訂正しました。助かります。

またお会いできますように。

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