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オズモンド達は五人で捜索に向かうことになった。キースとビルに優秀なダグラス家の騎士の中から選ばれた二人が一緒に行ってくれることになった。期間は一ヶ月。オズモンドの仕事の都合だ。サイラスが行方不明になってから王宮文官は辞めていた。
以前は川の下流に重点を置いて探したので、今度は崖の上の山を探すことにした。
現地は未だ木がなぎ倒され道は塞がれたままだった。手前の空き地で二人の騎士に馬を見てもらうことにした。
山の案内人に同行を頼んでいた。素人がやみくもに探しても却って大変なことになる。二重事故は避けたかった。
そうして獣道を見つけた。山に上がれるようだ。キースとビルを連れて上がった。
途中の平らな所に木でできた簡単な掘立小屋を見つけた。人がいたらしく焚き火の跡もあった。
三人は希望を見いだした気がした。
「もしかしたらサイラス様かもしれませんね。下流にばかり気を取られて上に気が回りませんでした。生きていらっしゃるなら何故帰って来られないのでしょうか」
「ローザがもしかしたら記憶を無くしているのかもと心配していたが当たっていたのかもしれない」
「記憶喪失ですか、厄介ですね」
「此処を降りて行くとしたら麓の村か。聞き込みはしたんだよな」
「もちろんしましたが、行方不明になられて直ぐだったので貴族の風貌と髪の色と洋服の特徴、瞳の色で探し回っておりました」
「予想だが木の劣化から気がついてから半年以上はここで過ごしたようだ。焚き火の跡には小動物の骨が埋めてある。食器も木で作ってある。きちんと片づけてある所を見ると獣に襲われる様な怪我は負っていないはずだ。
月日が経てば髭も伸びるし服装も貴族とは違っていたかもしれない。
馬車にマントは置いてあっただろうからそれを羽織った男を探してみよう。まだ麓に居るかもしれない」
「「了解です」」
希望が見えて来た一同は案内人にたっぷりと礼をし、麓の村の宿で聞き込みをした。サイラスとおぼしき男が身なりを整え買い物をして村を出て行ったことが分かった。
宿帳にはジェームスと書かれていた。ありふれた名前だった。
村を出て行くとしたら次は街だ。街で働いているかもしれない。ギルドに聞き込みに行く事にした。
ギルドは何箇所かあり手分けをして探した。街中のジェームスは多く五十人は超えていた。サイラスが仕事をするなら事務仕事だろうと見当を付けたが、多すぎた。
それぞれのギルドにハウエル伯爵家から手紙を出し二十代のジェームスをピックアップして貰うことにした。
あまり休めないオズモンドは仕事の合間を縫って事務仕事のジェームスに会うために通うことにした。
残りの四人には宿を取ってもらい滞在して会いに行って貰った。
最近雇った若い事務官がいる所は貴族家、商家、役所合わせて三十数件。街は広かった。
貴族の家には手紙を出し尋ね、これはと思う屋敷に先触れを出し訪ねて行った。
商家は手紙を出しこれも事前に会わせて貰うように頼んで店に行った。
役所は直接訪ねて行けば良かったが本人が出かけていたりして中々会えなかったりと手間どった。
諦めかけた時サイラスらしき人物がいると情報が入った。子爵家だった。新しい事務官が優秀で助かっていると返事が来たのだ。
五人は会いに行くことにした。
子爵はジェームスとの面会時間を取ってくれていた。優秀さをとても気に入っており親戚の養子にして娘の婿にと考えていたらしい。令嬢も見目の良いジェームスにまんざらでもなかったそうだ。
☆☆☆☆☆
子爵家の応接室に入って来た人物はサイラスだった。
「サイラス、心配したぞ。ローザとダニエルが待っている。漸く見つかって良かった。私は君の兄だ。屋敷にも大勢お前が生きていると信じている者がいる」
「私はサイラスというのですか?貴方が兄上で皆は友人?私には家族がいるんでしょうか?」
「ああ、お前は伯爵家に婿に入り妻と息子がいる。彼らは部下だ。さあ帰ろう」
「探してくれてたんですね、有難うございます。嬉しいです。自分が何処の誰なのか分からず、困り果てておりました」
「子爵、サイラスはダグラス伯爵家の者です。雇っていただきありがとうございました。連れて帰ってよろしいですね」
「はい、優秀な事務官が来てくれたと喜んでおりました。優秀なはずです。
まさか伯爵様だとは思わず失礼しました」
「お世話になったのです。とんでもないです。ではサイラス準備をしなさい。キースを連れて行け」
「たかが事務員に荷物なんかないよ、直ぐに帰ってくるから待っていて」
「キースはお前の小さな頃からの専属護衛だったんだ。行方不明になってからどれだけ憔悴していたか、連れて行ってやれ」
「分かった、付いてきて」
キースは嬉しそうに主の後を付いて行った。屋敷の外れにある従業員用の部屋だった。行方不明になった時の洋服が大切に取ってありキースは込み上げて来るものがあった。
「気が付いたら誰もいなくて記憶もなかったんだ、余程離れた所にいたんだね」
「崖の下辺り一帯を騎士団をあげてくまなく探したんですが、見つけられず申し訳ありませんでした」
「大怪我をしていなくて動けたのが良かったよ。自分が何処にいるのか何者なのか分からなくて不安だった。取り敢えず足場のしっかりした所に移ろうと上に行ってみたんだ。
頭がぼんやりとして中々行動が出来なかったが、食べないと生きられないから野営をしたんだ。
着ていた物で貴族らしいと思った。かなり破れていたし汚れていたが身元の証明の為に洗って大切にしていたんだ。宝飾類は身に着けていなかった。売れば誰かが行方を掴んでくれるかと思ったので残念だった。
幸いお金が服の中に入っていたから宿に泊まれて街に出て来れたし、こうして見つけて貰えてありがたいよ」
「良くご無事でいてくださいました。水が凄かったですからかなり流されたのでしょう。川に飛び込もうとしたのですが、止められてしまいました。悔しかったです。奥様の所へ帰りましょう。諦めずに待っておられますよ」
「荒れた川に飛び込んではいけないよ。死んでしまう。奥さんがいたんだ。生きていて良かった」
「奥様と坊っちゃまに早く会いたいと近道を行かれて事故に遭われたのです」
「そうか、皆に迷惑と心配をかけたんだね。これから記憶が戻ると良いんだけど。今夜は兄上にうんと叱られそうだ」
「叱られてください。あれからの事も知りたいです」
「ああ、全部話したいよ。色々聞きたいしね」
知らせは直ぐにローザリアに届けられ、ダグラス家から馬車が迎えに来た。
早く会いたいローザリアはダニエルと一緒に馬車に乗ってやって来た。
誤字報告ありがとうございました。 訂正しました。