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沢山の作品から目に留めていただき有難うございます。よろしくお願いします。
ローザリア・ダグラスは伯爵令嬢で一人娘だった。隣の領地の伯爵家の兄弟でオズモンドとサイラスは幼い頃から一緒に遊ぶ仲だった。ダグラス家は広大な領地に酪農や小麦の栽培で安定した収入を得ていた。それだけでは心配だと牛乳からチーズなどの様々な加工品を生み出していた。
豊かな恵みは安定した領地運営を齎していた。
オズモンドとサイラスの領地は林檎などの果樹園が多く、品種改良に力を入れ、生は勿論ジュースやシードル、ビネガーやスイーツまで売り出すなどかなり力を入れていた。こちらも経営には問題なく領民は安定した生活を送っていた。
二つの領地は長閑なところにあったので、そんなところで育った三人はのびのびと育てられていた。男の子二人と一緒に遊んでいたローザリアはとてもお転婆になり夫人を心配させていた。
オズモンドは十歳でリーダーシップのある落ち着いた少年に育った。サイラスは活発な男の子になり、ローザリアはしっかりした跡継ぎに育ち、同じく七歳になった。広い野原を走り回ったり、小川に入って魚を掬って遊んだ。観察も好きになり小魚や水の中の生き物を見て生命の短さを知った。
屋敷の木に登った時は気持ちが良かったが、降りる時に怖くなって護衛に助けを求めてしまった。勿論ローザリアだけだが。
兄弟は得意そうな顔をして笑っていた。
悔しくなったローザリアは次からはちゃんと考えて降りようと決心した。
仲の良い様子を見て八歳の時ローザリアと次男のサイラスとの婚約が整うことになった。オズモンドは領主の勉強に加え剣の練習や基礎の勉強を家庭教師を付けて学ぶことになった。
サイラスも少しずつ勉強をすることになった。剣を訓練するのは貴族の嗜みだが小さな剣を持つ兄弟は将来大事な人を守るため頑張ろうとしていた。
ローザリアも二人に負けまいと領主としての勉強は勿論、私設騎士団に行き剣を握ったがその重さに最初は音を上げた。
母は
「ローザちゃんは女の子なんだから剣なんて使わなくていいのよ。守ってもらうほうなの。守るのは旦那様や護衛の仕事なのよ」
「でもお母様、たまたま一人になった時に襲われたら自分の身は自分で守らないといけないでしょう。そのために強くなりたいの」
「それもそうね、あなたは伯爵家の跡取りですものね、何かあっては遅いわね。じゃあ応援するから頑張ってみる?先生は引退したうちの元騎士団長にお願いしようかしら。穏やかな良い人よ。お孫さんがおられたはずだわ。お父様にお願いしておくわね」
「よろしくお願いします。お母様」
ダグラス家は父が母にめっぽう弱い。女の子が剣なんてと言いそうな父も母のお願いには弱かった。
師匠は優しいおじい様だったが練習はきついものだった。まず腕立て伏せとランニングからさせられた。お嬢様のローザリアにはきつかったが回数を少しずつ増やしていき、子供用の剣を握らせて貰うところまでになった。
腕を掴まれた時のすり抜け方や、不意を突いて攻撃してからの股間の蹴り上げ方を教わった。躊躇わずに蹴るのが重要だそうだ。
「嬢様はまだお小さい。蹴るのはもう少し大きくなってからだな。肝心なのはとにかく逃げることだ」
と真剣な顔で言われ思わず頷いた。
万が一縛られた時の縄の抜け方やナイフの隠し方も教わった。子供なのでスカートの中に仕込むのはまだ難しそうだが、その内やってみる価値はありそうだとローザリアは楽しみになった。
剣で攻撃されては、なす術も無いが、知っておくことは大事だと感心した。
体力がつき運動が得意になって体幹がしっかりしたのかダンスが好きになった。
練習にはサイラスに付き合って貰った。ダンス教師に見てもらいながら子供同士で踊るのは気恥ずかしい経験だったが楽しかった。
幸い、ローザリアが剣を持つ様なことはこの後起きなかった。
サイラスとのお茶会は一週間に一回に決った。
「ようこそおいでくださいました」
「お招きありがとうございます。これはプレゼントです」
とすましたサイラスが手渡して来たのはピンクのガーベラの小さな花束と焼き菓子だった。
「まあ私の好きなお花とお菓子だわ、ありがとう。これからよろしくお願いします、婚約者様」
二人は顔を見合わせて吹き出した。
「婚約者って大きくなったらローザリアと結婚するんだよね。ずっと友達だったからぴんと来ないっていうか、よくわからない。でもこのまま仲良くしたいと思ってる」
恥ずかしくなったサイラスは少しだけ嘘をついた。ローザリアは大好きな女の子だった。お茶会という場所で兄弟に媚を売ってくる女の子はうんざりとするほどいたのだから。兄様は跡取りだから分かるけど、どうして自分を狙うのか分からなかった。
ローザリアはそんな目で僕達を見たことがない貴重な女の子だった。負けず嫌いでしっかりしていて可愛い。あれっ、僕ってローザリアが好きなの?そりゃあ好きだけど、お嫁さんにしたいくらい?
サイラスは顔が赤くなっているのを何とか誤魔化そうと紅茶を飲んだ。
蜂蜜が入っているらしく甘い香りと味がした。
「知らない人よりずっと良いわ、中には結婚式の日まで顔も知らないというカップルもいるそうよ。貴族ではそういう事も多いそうだから」
「よく知っているんだね、さすが女の子だ」
「メイドが話しているのを聞いたのよ、彼女たちの横の繋がりを侮ってはいけないの」
「なるほど、参考にしよう。剣の訓練の進み具合はどう?」
「今度手合わせしましょうよ。大人相手だからどれくらいのレベルか分からないの。サイラスはオズモンド様がいるから良いわね」
「兄上は強くなったよ。体格も大きくなった」
「そうなのね、後二年で貴族学院ですものね。今度屋敷に伺ったら久しぶりに会いたいわ。手合わせをお願いしたいの」
「兄上は忙しそうだよ。僕がしてあげるから、それで我慢して」
「三人でお茶も飲みたいのに無理なのかな・・・」
ローザリアは暫く会っていないもう一人の幼馴染に思いを馳せた。
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