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宿に帰ってきたクロノは、アンリを起こさないように、音を消しながらそっと部屋のドアを開けた。

部屋が仄かに明るい。見ると机上のランタンに明かりが灯っており、アンリはまだ上体を起こしている。

「あれ、まだ寝てなかったんですか。もう夜も遅いですよ」

困ったような顔で、クロノはアンリに呼びかける。

「あ!やっぱり男と同じ部屋で寝るのはまずかったですか。それなら女将さんに相談して酒場の隅で朝まで寝てきますよ」

この宿の食事処は夕飯時が終わると酒場営業となる。部屋に戻る時、女将さんに顔を見せるために少し覗いたが、カウンターで呑んでる老紳士が一人いるくらいで、他の客人はもう部屋に帰って眠っているようだった。あのスペースなら椅子をいくつか借りられれば寝るには充分だ。いそいそと荷をまとめて女将さんに交渉しにいこうとしたところを、アンリが引き留めた。

「待って」

「喋った!?」

「喋れるわよ、そんなに驚かないで……いや、私が黙り込んでいたあたしが悪いわね」

クロノがベッドサイドの椅子に腰かけると、伏し目がちにぽつぽつと話し始めた。

「さっきは……ごめんなさい。あまりにも不甲斐なさすぎて……頭が真っ白になっていたの。クロノ君が悪いとかじゃないの。落ち着いたから、もう大丈夫」

「気にしていないので大丈夫ですよ」

気にする気が無かったので、部屋に一人放置して外に喋りに行っていたわけだが。

「戦闘、ましてや人間相手なんて、アンリさんみたいな若い人で慣れている方がおかしいですし」

「……君も私と同い年って聞いたのだけれど?」

「僕にもいろいろあるのですよ、気にしたら負けです」

ちょっと無理のあるはぐらかしかたをしながら、しーっ、と口に人差し指を当てた。

「正直、私より幼く見える君があんなに軽々と盗賊たちを倒してしまったのを、この目で直に見ているのに信じられなかったもの。凄かったわ」

「お褒めに預かり光栄です」

「剣術だけじゃなくて魔術も得意なんでしょ?見た目を変える魔法なんて初めて見たもの。ねぇ、剣術も魔術も、どうやって覚えたの?腕のいいお師匠さんでもいたの?」

「剣術は姉から習いました」

魔法は独学、というか前世の記憶のおかげだ。よく使っていた攻略サイトは魔法の項目がかなり充実していたなぁ、初心者の頃は世話になったな、と思いを馳せた。まぁ魔石無しがバレた時に面倒なので、魔法に関しては触れない方向でいこう。

「お姉さん、ってあの片腕が義手の方よね?剣を振るえる人には見えなかったわ」

「姉は元冒険者で、現役時代はそこそこ有名だったらしいんですよ。とある任務の最中に腕を失って冒険者を引退してしまいましたが」

何か二つ名とかあった気がするが、確かゲーム内じゃなくて設定資料集に書いてたくらいの扱いだった筈だ。

「任務中に腕を……冒険者って、危険と隣り合わせだものね……」

アンリは伏し目がちに小さくつぶやいた。

「怖く、なりましたか?」

顔を覗き込み、問いかける。

「まさか!と言いたいところだけれど、正直なところ盗賊の件で自分が未熟なことを思い知ったわ。村の周りにいる小さな魔獣を狩れたからって、調子に……乗って……いたのかも……」

だんだんと声の元気がなくなっている。

「そりゃ危険な任務もありますが、受ける任務は自分で選べます。無理のないものから少しずつこなしていけば、実績と一緒に自信もついてきますよ」

「あんた、本当に同い年?」

「今年ライセンスを受けられる歳になったんで、同い年ですよ」

たぶんね。と、微笑みかけながら椅子を立つ。

「さて、そろそろ寝ないと明日の試験に響きますよ。極力壁沿いに寝るので安心してください

……あ、そうだ」

言いたかったことを思い出した。

「大剣使うんだったら、闇雲に突っ込まずに相手の動きをよく見て受けて、踏み込める距離まで詰めてから攻撃するといいですよ」

色々と武器を触った時に大剣のチュートリアルはやったけど、性に合わないから担がなかったんだよな……。

「え!ちょっとそれ詳しく教えなさいよ……あら」

クロノは即入眠してすやすやと寝息を立てていた。

その一言のせいでアンリの入眠が遅くなったのは、言うまでもなかった。


---------------



宿屋で朝食を摂った二人は、冒険者ギルドを訪れていた。昨夜聞いたとおり、明らかに人が多い。

依頼のたびに死ぬほど見たギルドエンブレムの旗が掲げられ、種類別に分かれた受付カウンターがあり、壁沿いにはアイテムショップとスキンショップ……だった筈だが、スキンなんて概念は流石に無いのか、装備屋になっているようだ。フロア中央には期間限定イベントや闘技場のスコアボードとしてよく見ていた三面掲示板がある。2階はそれらを見下ろせる休憩スペース。あと、マルチプレイの時に腕相撲して遊べる樽。

「すげぇや、VR版とか出てたらこんな感じなんだろうな」

「ぶいあーる……?」

「あっ、気にしないで。大したことじゃないから」

アンリの前なので平静を装っているが、内から湧き出る興奮を抑え切れずにいた。

何度か建物の前を通ったことはあるが、中に入ったのはこの世界に来てから初めてだった。ゲーム内で一番通った施設でもあるギルド本部が、そっくりそのまま目の前にあるのだ。

今日は試験を受けに来たので、一番左端の受付に用がある。あるのだが、この空間のどこより人が多く、近づくのも一苦労といった様子だった。

「大変混雑しておりまーす!本日は受付を午前中いっぱいまで延長いたしますので、急がずにゆっくりお並びくださーい!なお、それに伴って試験終了時刻が遅くなる可能性がありまーす!ご了承くださーい!」

他の担当であろう受付のお姉さんが列整理をしている。

その時、列の先頭がカッと一瞬輝き、周囲にどよめきが起こった。

「凄く強い魔力をお持ちですね!しかも、両手それぞれに別属性の魔石があるのですか!?」

興奮気味の受付の女性が、先頭の金髪の少年に問いかけている。

「おう、そうだ。片方は無属性だけどな!」

「では風属性の方の右手を登録いたしますね、念のため左手も記録させていただきます」

彼女は手のひらくらいの大きさの金属を手に取ると、少年が両手を置いている台に置いた。

台にのせたそれは、彼女が手を放すとスッと溶け、角の取れた薄い板状に成型された。

「こちらは試験終了までの仮ライセンスとなります、合格したら本ライセンスにアップグレードしますので、試験中に紛失しないようにお願いしますね」


「ねぇクロノ君、あれって何をしているの?」

アンリが不思議そうな顔をして訪ねてくる。

「いや……僕も知らない、なんだろうねあれ」

フレンドと交換できるステータスカードはあったけども……嫌な予感しかしない。

「お嬢ちゃんたち、ここに来るのは初めてかい?」

突然、背後から落ち着いた男の声がした。振り返ると、背が高く筋骨隆々とした髭面の男が、人好きのする笑顔で立っている。

「あれは冒険者の情報を記録してるんだよ。特別な金属にその人の魔力の形を記録して、別の人が勝手にライセンスを使えないようにしたり、死んだときにどこのだれか、って照合するために使うんだ」

「身分証を作っているんですね、教えてくれてありがとうございます」

「君たちも試験を受けに来たんだろう?並んでおかないと受験できなくなっちゃうよ」

ほらいったいった、と男はクロノとアンリの背を押す。

「若者の挑戦をおじさんは応援しているからね!」

クロノとアンリは、見知らぬおじさんに押し出される形で列に並んだ。

「いざってなると緊張するわね、うまくいくといいのだけど」

アンリの声は不安そうではあるけれど、目は今受付中の受験生を見つめ、どことなく期待してわくわくしているようだった。

「……クロノ君、どうしたの?」

クロノは口元を抑えながら目線を下に向けていた。

「いや……ちょっとおなかが痛くなってきてね。先に受付に行っててもらえるかい?僕は後から並びなおすから」

付き添えなくてごめんね、と困り顔で謝ったクロノは、そそくさと列を離れた。

「あんなに強いクロノ君でも緊張するんだなぁ、あたしも緊張して当然か。落ち着いてやれることをやらなきゃね」

アンリは誰にも見えないように、小さく拳を握った。


列を離れるクロノを、髭面の男が壁にもたれながら見ていた。

「ギルド長!こんなところにいらしたんですね!」

眼鏡をかけた短髪の女性が、プリプリと怒りながら男に寄って行く。

「悪い悪い、ちょっと若者たちを見てみたくてね。あと今代の神子様も見たかった」

「その神子様との打合せも貴方のお仕事です!応接室にお通ししておりますので早く向かわれてください!」

自分の背丈より大きいギルド長の服を掴み、引きずるように連れて行った。

「服伸びちゃうから放して!歩くから!ねぇ!」

受付待機列の若者たちは、ギルド長と呼ばれていた本来この場で一番偉いはずの男をなんとも言えない目で見ていた。


----------------------


「どうしようジーク、魔石無しなのバレちゃう」

ギルド横の物資倉庫の影に入り、クロノはしゃがみ込んだ。

「どうもこうもねぇよ。騒ぎになるのを覚悟で登録するしかないんじゃないか?」

「ジークはこれがあるって知ってたの?なんで教えてくれなかったんだよ」

「教えたところでどうしようもないだろ、魔石付いてないんだからよ」

「あー、もうほんとどうしよう。目立ちたくない!騒がれたくない!ストーリーを大きく変えずに動きたいだけなのに!」

「まぁ魔石無しの奴が冒険者試験受けに来た、ってなれば間違いなく騒ぎになるだろうな。神子様が来ている関係で人も死ぬほど多いし、ギルド長も居たから奴も首を突っ込んでくるだろ」

「あ、やっぱりあの人がギルベルトなんだ」

ギルベルト・フォン・バルツァー。冒険者ギルド総責任者であり、先代神子の護衛騎士を務めた男。

はて、でもゲーム本編ではこんな序盤で出くわす人物ではないはずだ。

「なんだ名前を知っているのか。まぁ先代神子の騎士だし名は通っているな。腕は確かで頭も切れるが、時々無理難題を言ってくる上につかみどころのない男だ。何度面倒事に巻き込まれたことか……」

ジークは冒険者時代のあれやこれやを思い出したのか、吐けない息で溜息を吐いた。

「ギルド長のことは置いといて、魔石登録をどうするか考えたらどうだ。そろそろ戻らないと受付に間に合わなくなるかもしれんぞ。腹を括れ」

「お前ちょっと面白がってるだろ、こっちは真剣に悩んでるのに」

立ち上がり姿勢を変え、倉庫の陰をぐるぐると歩きながらクロノは唸っていた。

「見た感じ魔力を石に込めてその形を写しているぽかったから、魔石の形に魔力を集められれば誤魔化せそうではあるけど。かといって一般的なサイズくらいの魔石の大きさまで手の甲に血を付けるのも現実的じゃないし、グローブ外せって言われたら血まみれのおてて登場~ってなって結局騒ぎになるし……おわっ」

ぐるぐる歩いていたクロノは、足元にあった石を踏んで滑り、よろけた。

落ちていた石を拾い上げる。親指ほどの大きさの、楕円形の石だった。河原にありそうなすべすべとしたただの石。だが、そう、形大きさはちょうど魔石のような――


「なぁジーク、お前で切れない物ってある?」



—--------------


「遅かったじゃない!もうそろそろ受付終わっちゃうから、帰ってこなかったらどうしようかと思った」

建物内に戻るやいなや、こちらを見つけたアンリが駆け寄ってきた。

「ほら早く行った行った」

おじさ……ギルド長にやられたのと同じように、受付の列に押された。もうかなり受付は済んだようで、前に並んでいるのも5人程度となっている。

その最後尾に並び、自分の番を待つ。程なくしてクロノの番が回ってきた。


「それでは、名前をこちらに記入した後、魔石のついている方の手を乗せてください」

受付嬢の案内に沿って記名し、グローブをつけたままの右手を台に乗せようとした。

「装身具は外してください。魔力を遮るものがあるといけませんので」

「ああ、すみません。外しますね」

クロノが右手のグローブを外すと、甲の痛々しい痣が露になった。

その甲の真ん中にコイン大ほどの魔石が鎮座している。薄水色の魔石は頂点部は平らに均され、側面が細かく面を作るように削られていた。中央部から広がるように光が漏れ、石を通して拡散している。

「……はっ!これで大丈夫です、仮ライセンスを発行いたしますね」

グロテスクな痣と相反する光の美しさの差異に魅入って放心していた受付嬢が気を取り直すと、いままでの皆と同じように金属を台に乗せた。

「ええと……不思議な魔力の流れ方をしていますね。魔石は強い氷の属性を示していますが、手の形にうっすら無属性が流れているのですかね。長くここの受付してますけど、初めて見ます」

生成された金属片には、『クロノ・アークライト』の文字と、氷のような模様が刻まれている。

何か迂闊に言ってぼろをだすまい、とクロノは無言を決め込み笑顔を作っている。

仮ライセンスを受け取ると、流石に疲れを顔に滲ませている受付嬢が今後の流れを教えてくれた。

「こちらは試験終了までの仮ライセンスとなります、合格したら本ライセンスに更新しますので、試験中に紛失しないようにお願いします。この後、試験の組み分けと内容が発表されます。組み分け確認後、同一グループの人と協力して本日中に指定の条件を達成してください。」

ゲームのチュートリアル通り。そして、行の馬車でヴァンが話していた通りに、組み分けされたグループごとの試験となるらしい。シナリオ通りに進むのであれば、アンリは勇者君……両手に魔石が嵌っていて、片手が無属性だと言っていたあの金髪の少年と組むことになるだろう。確か3人組だったはずだが、チュートリアルなんてやったのが大分昔すぎて、残りの一人が思い出せない。

「それでは、がんばってくださいね!」

受付嬢に送り出され、クロノは受付を後にした。

出入口の横で、こっちこっち!とアンリが手を振っている。

「受付お疲れ!待ち時間にさっさと昼ごはん食べちゃいましょ。外に軽食の屋台が並んでいるわよ!」

肉の焼けるいい匂いがギルド入口まで漂ってきている。受験者や見物客目当てで、相当数の屋台がギルド前広場に集まっているとのことだった。

「王都の出店のごはん、一度食べてみたかったのよねー!」

クロノはうっきうきのアンリに手を引かれ、人でごった返す屋台群に消えていった。


-----


アンリが食べたがった焼いた薄切り肉を包んだ薄焼きのパン……まぁ言ってしまえばケバブサンドを買うために列に並ぼうとしたところ、前に並んでいた男が声をかけてきた。

「おや、アンリちゃんにクロノ君じゃないか」

「ヴァンさん!先日の件はありがとうございました」

馬車で一緒だった冒険者が、ひとつ前に並んでいた。

「こちらこそ。あいつらそこそこ懸賞金がかかってたから、美味しい思いをさせてもらったよ。ここの飯を買うんだろう?俺が驕るよ」

「わーい、ありがとうございます!じゃあヨーグルトソースと、スパイスのと、あとフルーツソーダもお願いします」

驕る。その言葉に、アンリが目をキラキラさせながら注文を伝えた。

「アンリちゃんよく食べるねぇ……」

「じゃあ僕はスパイスの小で。あと水を」

「クロノ君はもっと食べないと……。せっかくだから俺も一緒に食べてもいいかい?広場の噴水横のスペースを、俺の知り合いが場所取りしているんだよ」

苦笑いしながら、ヴァンは皆の食事の代金を支払った。皆の分の食事を抱え、彼の友人が待っているという噴水に向かう。



「おーい、こっちこっちぃ!」

噴水前に行くと、こちらを見つけるやいなや大きく手を振る人が居る。

赤い髪を高い位置で結わえた、見覚えのある女性。

「姉さん!?なんで居るの!?」

ジェシカだった。

「人前で剣術を披露する機会なんだから、って剣を渡したでしょ?そりゃー見に来るに決まってるでしょ!」

「ええ……どうせダンジョン行かされるんだから見えないよ……」

困惑するクロノの横で、ヴァンもきょとんとしている。

「さっきジェシカが言ってた弟、ってクロノ君のことだったの!?」

「いやぁさっきヴァンから話を聞いてびっくりしたよ、まさか乗り合わせているなんてね」

机の上に買ってきた食事を並べ、長椅子に腰かけた。

「俺もジェシカがルーノ村にいるなんて知らなかったよ、知っていたら馬車が止まった時に顔を見せに行ったってのに」

「あはは、悪いね!冒険者を辞めちゃってから会うことなかったもんね」

「突然見かけなくなったから、てっきり死んだものかと思っていたぞ」

「二人は、どういう関係なんですか?」

アンリがそわそわしながら質問しているが、ジェシカにはジークっていうクソイケメンの相手が居るぞー、っても設定資料集読んでないと知りようは無いか。

「ジェシカが冒険者をやってた頃に、何度も一緒に依頼をこなしたことがあるんだ」

「護衛依頼の時が多かったかな?ヴァンのパーティーとはよく一緒の依頼を受けていたのよ」

「いつも一緒にいた銀髪のイケメン君はどうしたんだ?別れたか?」

「妻帯者がおちょくるんじゃないよ。ジークとは今も一緒だよ。あとイケメン君なんて呼んだらジークはへそ曲げちゃうよ」

「ははっ、ちげぇねぇや。てことは今日は一人で弟君を見に来たってわけか」

「……まぁそういうとこだね!」

ここに居るけどね、とは流石に言えないのでジェシカは適当にはぐらかす。

「ところでジェシカさん、クロノ君に剣を教えたって本当ですか?」

アンリが2個目のサンドに手を伸ばしながら、ジェシカに話を振る。口の端にヨーグルトソースが付いているのであとでそっと教えてやろう。

「そうだよ!そこそこ強かったでしょ?」

「そこそこなんてもんじゃなかったぞ……賊をほとんど一人で倒したんだからな。いやぁ先輩冒険者としてカッコいいところ見せたかったんだけど、全部もっていかれちまったなぁ」

「変身?変装?みたいな魔法も見事だったわよね、本物の盗賊だと思ったもの」

「魔法……?」

ジェシカが目を丸くしてクロノを見る。クロノは口パクであとで、と伝えようと試みた。伝わったようで、小さく頷くと、あの時のクロノがいかに凄かったか熱く語る二人に目線を戻した。

「魔法といえば、ギルドタグはちゃんともらえたかい?失くしやすいから紐とか繋いで何かに繋いでおくといいよ」

ほら、とヴァンが首から革紐で下げているギルド証を見せてきた。仮ライセンスとして貰った金属片よりも加工が精密になっている。うっすらと雪の結晶のような模様が入っていた。

「仮のものは貰ったわ、正式のものになるとちょっと変わるのね」

アンリがテーブル上に自分のライセンスを出す。アンリ・ウォークラフトという彼女のフルネームと、岩のような紋様が刻まれている。

「そういえばアンリちゃんは土魔法だったね、土壁で助けてもらったし。クロノ君は結局何の属性なんだい?」

「えっと……僕のはこんな感じですね」

クロノも併せてテーブルにライセンスを置く。同じようにフルネームが刻まれ、氷片のような鋭い模様がはいっている。

「クロノ君氷属性だったのか、だったらあいつら運ぶとき手伝ってくれてもよかったのに」

「はは……まぁ、戦って疲れていたので勘弁してくださいよ」

ジェシカの視線が痛い。家に帰ったら話すから許してほしい。ついでにその時にジークと話していることも打ち明けてしまおう……


「昼飯も食べ終わったし、君たち二人は午後から試験だろう?頑張ってな!」

ヴァンとジェシカに見送られ、二人はギルド建物内へ戻っていく。

「ちょっと食べ過ぎたかも……お手洗いに行ってきていい……?」

戻る途中、アンリがおなかのあたりをさすっていた。

「これから動くのに食べ過ぎだよ、先に行ってるからいってらっしゃい。あ、口元にソースついてるからそれも拭ってきなよ」

「え?」

口元を触りソースを確認すると、顔を赤らめながら速足で消えていった。


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