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さあ楽しいイベントの始まりだ

 楽しい人生だった。

 子供にも、孫にも囲まれて…。


 私は80歳でこの人生に終わりを告げた。

 可愛かった妻も少し前に旅立ち、その後の終活も問題なく終えた。


 何も思い残すことはない


 大往生だった…。




「……でした?」


 ? 何やら綺麗な声がする


「どうでした?今回の人生は」


 目を開けて俺は驚いた。

 いや…思い出した。

 ここは俺の元の部屋だ。

 前の人生でいうメタバース世界の自分の部屋


「ああ…最高の人生だったよ。楽しかった」


 現実を思い出した俺はアバターの髪をかき上げる

 ミラーに移っている自分をこの姿を見て全てが現実であり、地球で過ごした全てがメタバースな世界であったことを思い出した

「80年…長かったな…。記憶を消して望んで正解だった。」

「いかがでしたか?通常の特殊な条件のないワールドでしたが、解像度や5感は最高度だったかと」

「うん…よかったよ。それ故に完全に現実だった…」

 妻や子供を思い出し、切なくなり、こみ上げてくる涙を抑えるために手を当てる。

 大げさに流れる涙。

(これを見る度に、頭が混乱する。どれがどう現実なのか…)

 この現実は自由に姿を変えられるし、時間の経過もない。

 決められた自分の部屋の中で好きに過ごせる。

 登録したフレンドの部屋にも行けるし、フリーの世界であればポイントを使用しなくても色々楽しめる。

「地球での人生の後を見ることもできますがいかがされます?」

「今はいいや。」

 実際に地球で過ごした相手は存在している。

 ゲームでいう所のNPCは意識のない虫や動物のみである。

 たまに好き好んで入り込むやつもいるようだ。

「先立たれた奥様もフレンド登録されますか?申請が来ておりますが…」

「……」

 そう…前回の地球での人生で70年も一緒に過ごした妻からの申請だ。

 もちろん承認…という気持ちにもなれず

「少し気持ちを落ち着かせてくれ。相手は私が戻ったことを把握しているのか?」

「申請を既読にしない限り気づくことはありません」

「じゃあ……未読で」

「承知しました」


 ベッドに転がる俺。

 一息ついたのを見計らって、部屋の女執事が言葉を発した

「今回の地球での、日本での人生であなたの行動は123P獲得されました」

「ああ……苦労したもんな。自分で設定したとはいえ」

「次回の世界へ行かれますか?」

「いや……まだいいや。少し一人にしてくれ。また声をかける」

「承知しました。ではごゆっくりお過ごしください。」

(時間は死なないほどあるしな)


 俺は自分の部屋を見渡す。

 地球での人生の前は確か俺は、ファンタジー世界で勇者として世界を救った。

 そこで得たポイントを全て使用して、最高ランクの解像度である地球で幸せな人生を送れる設定に費やした。


(頭が混乱するな…。頭なんてどこにあるかわからないが…)


 歩き回り、部屋の中のものを触りながら色々と思い出してはため息をつく。


 リアルすぎるとショックが大きいな…。あの地球での人生がすべて仮想空間だったなんて。

 でも、あそこで知り合った人間は皆本当に意識があって、肉の体だけがあの世界での自分たちのアバターだけであって…。

 考えれば考えるほどわけがわからなくなり部屋をのたうち回る。


 何度も何度もそれを繰り返したのち、ようやく落ち着いた俺は変な体制でハンモックの上で横たわっていた。


「え…と。」

 右手を挙げて手首をタップしてメニュー画面を広げる

(そういや痛覚消してたっけ、感覚がマヒしている)

(前の前の人生でのあの姫は…)

 フレンドリストをスクロールしながら確認する

「してるな…。」

 地球での妻はあの姫の転生者ではなかったらしい。

(どうしたもんだか…)

 考えるのに少し疲れた俺は再び手首をタップしてエリアを選択する画面を開き、お気に入りのエリアへと入り込んだ。


「相変わらずここは綺麗だな」

 煌びやかな満点の星空と永遠に続く草原。不思議なオーロラとそれを映し出す湖。そこに置かれたチェアーに座りぼーっと眺める。


 そこで突然空間が開かれてにょんっとウサギのようなアバターが現れる


「帰ってたのか、レッドG久しぶりだね」

 俺を見てウサギのようなアバターはそう言った。


「ライザンか、何十年ぶりだ?」

「何その年っての?地球時間?」

「そうだった。まだ戻ってないな。」

 この現実では時間なんて感覚はない。代わりにあるのは数値のみ。1単位をいくら繰り返したか。それだけだ。

「えっと……24億6千秒位ぶりか」

「どうでもいいよ、秒なんて数えるだけ無駄さ」

 隣のチェアーに座りながら、ワインを飲むライザン。

「待ってたんだ。一緒に臨んで欲しい世界があってね」

 グラスを置くと同時にライザンが楽しそうな声と顔で俺にそういった。

「ちょっと待ってくれ。戻ったばっかりで頭がまだ追いついてないんだ」

「なんだ、データ消して行ってたのか。そうか…地球はそうだったな。よしわかった。じゃあいったん今から行こう!なに、記憶は消さなくていい。ちょうどイベントをしているんだ。キミの頭が必要なのだ」

 強引にその世界の窓を開くライザン

「え…ちょっ待てよ!俺はまだOKしてない」

「ふふ、その言い方は地球の口癖なのかい?キミはそんなやつではなかっただろ」

 楽しそうにライザンは俺の手を取ってその世界へと飛び込んだ。


 ドサっと変な体制で落ちた俺と、華麗にポーズを決めるライザン。キメ顔のライザンを白い目で見る。

「思い出してきたよ。お前はそういう奴だ」

「調子戻ってきた?おっと、雑談してる暇ないな。アバターチェンジしなよ。あと数秒で始まるから」

 あたりを見渡す間もなく、その場のメンバーの姿を確認してすぐにファンタジーバトル物だと把握した俺は、いつものアバターに切り替えた

「やっぱ観察眼と判断力が違うね!頼りにしてるよ」

 肩をポンっと叩かれたのと同時にブザーが鳴り響きゲームがスタートされ、また別の空間へと転移される。

(ちょっ、まだ頭も心も落ち着いてないっての!)

「前世の俺は80歳のおじいちゃんだったんだぞ〜!!」


 という弁明を聞くはずもなく、そこでのイベントが開始された

「くそっどういうイベントだ、趣旨が全くわからねー」

 辺りを見渡し、マップを表示される。

(ライザンがチームにいるな……恐らくはチーム戦で勝ち抜くイベントか……他の仲間は……)

マップをよく見ると、レイレイと表示されたキャラがっこっちに向かって来ていた。驚いて後ろを振り向くと、恐ろしい形相で襲い掛からんとばかりに双剣を構えた女性キャラがこちらへと走って来ていた

「! レイレイ!!」

「レッドG! よくも」

 飛びかかって来て仰向けにこけた俺の上にまたがるレイレイ

「よくも私を捨てて、他の子を選んだわね!」

 と、床ドンされながら怒られた。

 この子は本名レイレイこと、前々世では双剣のニーナ姫と呼ばれていた、俺の元々嫁である。

「絵梨花がキミでは……なかったんだね?」

 そう、私は次の地球での人生も一緒に結ばれようと共に転生をしたことを今はっきりと思い出した。元嫁をフレンド登録できなかったモヤモヤもやっと理解でした。

「私は玲奈よ! この浮気もの〜!!」

 味方なので攻撃は効かないが、爆風等の影響は受けるらしく、癇癪を起こしたレイレイの爆発魔法により俺は天高く吹き飛ばされ、地球に転生する前の事を思い出していた。


「必ずキミと結婚して子供を作って今度こそ幸せな人生を歩もう」

 という約束を。


 そうだ……おれはニーナ姫を幸せにできなくて、でも次の地球での人生で幸せにしてあげようと全てのポイントを捧げたのに。絵梨花へ愛を誓ってしまったのか。


 玲奈……玲奈?


 きちんと着地をした俺はレイレイに向かって叫ぶ

「玲奈って! お前妹だったじゃねーかよ!できるか!結婚とか」

「仕方ないじゃない! 1番近くに生まれたいって条件にしたら、まさか妹だったなんて!」

「互いに記憶消えてたんだし!仕方ないだろ?」

「あたしはちゃんと一生独り身で過ごしたわ! あなたの影を追いながらね」

 チュドーン! と何度も爆発に巻き込まれる。

「な? ちょうどいいイベントしてたろ?」

 と倒れている俺の頭の上からライザンの声がする。

 そしてその横には見知らぬエリミーナという妖精のようなアバター姿をした女の子が立っている。

「どうして、フレンド登録申請…既読スルーなの?」

 恐ろしい形相でこちらを見下ろしながら震える声で呟く。

「ま…さか、絵梨花なのか?」

 あわあわする俺の肩を組み、楽しそうな顔でライザンはこう言った

「なっ!? 楽しそうなイベントだろ? 切り抜けるにはキミの頭が必要なんだ」

 と。

「お前はそういう奴だ。ライザン」

 俺は人が苦しむ姿を見て楽しむ『ライザン』という奴を思い出して歯を食いしばりながらそう言った。

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