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54.再び森へ

 京一は、村内で普段皆が集まるいつもの場所に向かった。

 もう皆集まっているだろうか?

 行ってみると…美香ちゃんと三太は居た。しかし、他の子供達はまだ誰も来ていなかった。

「意外に早かったな。」

 三太は言った。

「もう、みんな来てるかと思ったよ。」

 京一は、こちらこそ意外だという表情で言った。

「美香ちゃん、大丈夫?身体はもう痛くない?」

 京一は心配して訊いた。

「うん。大丈夫だよ。ご飯食べて少し休んだら痛み取れた。」

「コイツには、今日はもう休んでろって言ったんだけどな。ちっとも言う事聞きやがらねえ。」

 三太は苦笑いを浮かべながら、仕方ないという口調で言った。

「今日はこれからどうするの?」

 京一は、三太に午後からの予定を訊いた。

「まだ何も決めてねえよ。それよか、今日あったことを大人に相談したいんだけど、まだみんな仕事中だしな。」

「それなら、今日あったことをお母さんに話しておいたから、お父さんが帰ってきたら話してくれるはずだよ。」

「そうか。それなら大丈夫だな。お前のところのおじさんに話聞いてもらえるなら。でも、どこまで話したんだよ。」

「み…美香ちゃんがいつの間にか橋の方に行って落ちかけたところまでだよ。」

 全部話したなんて、とても言えない。かと言って隠したところで、母親に心に侵入されたら、その試みも無駄に等しい。

「嘘つけ!その様子だと、全部喋っちまったんだろうが。」

 三太は苦笑いしながら言った。

「まあ、どうせお前の母さん相手じゃ隠し事なんて出来ないもんな。しょうがねえか。」

 三太は頭を掻きながら言った。

「うん…そうなんだ。ごめん。」

 京一は、バツの悪そうな顔を三太に向けながら地面を蹴った。

「まあ、気にすんなよ。お前んちがどういう家かは、村の人間なら皆知ってるからよ。」

「それよりも、みんな遅いね。」

 美香ちゃんは、二人のそんなやり取りを気にする風もなく、そんなことをいった。

 言われてみれば、確かにそうだ。

 いつもの時間にいつもの場所に、いつもの様に集まってるのに、他の子どもたちは来る気配がない。

 皆で省吾の家にでも行ってみようかと話してた折に、近所の源さんが通りかかって声をかけてきた。

 源さんは、自分の庭で野菜などを作っている、一人暮らしの70代の男性だ。

「おい、三太!」

「あっ!源さん。今日は。」

 源さんは子供好きで、時折お菓子などを分けてくれる優しい人だ。

「お前たち、森に行かなかったのか?」

「うん。午前中は行ってたんだけど、一人ちょっと危ない目に遭ったんで、午後からはやめようってことになったんだ。」

 そこで源さんは、意外だというような表情を見せた。

「そうだったのか。知ってたら止めりゃあ良かったな。

 さっきここを通る前に、省吾達が森に入ってくのを見たぞ。」

 三太はそれを聞いて、思わず源さんの腕を掴んだ。

「げ…源さん!それ、ホント?」

「ああ、間違いねえよ。三太たちはどうした?って聞いたら、後から来るって言ってたよ。」

「あいつらぁ!」

 三太は小声で呟き、歯をギリギリと噛み締めた。

「源さん。今森は少し危ないんだ。」

 三太はそう言って、源さんに切羽詰まったような表情をした。

「俺たちこれから省吾達を連れ戻してくるけど、大人の人に話して森に来てくれない?」

「お…おう。分った。」

 源さんは、三太のあまりに真剣な様子に気圧されて、思わず引き受けてしまった。

「美香、京一、お前たちは帰れ。俺は省吾達を連れ戻しに行く。」

「僕も行くよ。一人より二人の方が何かと役立つでしょ?」

「お前また…」

 三太は忌々しそうな目で京一をしばらく見つめていたが、やがて諦めたように肩をすくめた。

「どうせ置いてったって、付いてくるんだろ?」

「うん。」

 テコでも動かないという決意を目に滲ませて、京一は三太を見つめた。

「足手まといになるなよ。

 美香、お前は帰れ。今日はせいぜい家の近くで遊んでろ。」

「えー?!私仲間外れ?」

「バカ!そういうことじゃないよ。省吾たちを森から連れ帰るだけだ。お前、午前中にどんな目に遭ったのか忘れたのか?」

「う…分かったよ。」

 美香ちゃんはそれでもまだ不満そうだったが、そう言われては返す言葉も無かった。

 京一と三太は森へ向かって駆け出した。

「省吾たち、どこに居るかわかるの?」

 京一は走りながら三太に尋ねた。

「どうせ午前中に過ごした森の広場に居るだろ?」

 三太は楽観的に答えた。

「なら良いけど、もしもそうじゃなかったら、どうするんだよ。」

「嫌なこと聞くんじゃねえ!もしそうなら、まずあそこに行ってみるしか無いだろ!」

 走ってるうちに、段々息が切れてきた。

 走るのをやめてゆっくり歩きたかった。

 けれど、もしゆっくり歩いていったせいで、なにか起こってるかもしれないのに、間に合わなかったら…そう思うと走る足が止まらなかった。

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