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53.優しさと軋轢の狭間で

 村へと戻る道中で、三太は皆へ言った。

「皆に言っておくことがある。

 今日は森へ行くのはこれでお終いだ。

 昼からは何か別のことをしよう。」

 三太のその言葉を聞いて、他の子供たちからは不平不満の声が湧き上がった。

「三太、理由を聞かせてくれよ。」

 そう言葉をかけてきたのは、三年生の省吾だ。

「理由?理由なら、美香が戻ってきたときに言っただろう?トイレに行った帰りに道に迷って戻れなくなったんで、他の子もそうなったら危ないからって。」

 三太は歩きながら省吾に説明した。

「そんなの納得できねえよ。それなら午後から美香だけ置いていったら良いじゃねえか!」

 三太は立ち止まって省吾の胸ぐらを掴んだ。

「もう一回そんな事を言ってみろ。ぶん殴られたいのか?」

 三太は省吾を睨みつけながらそう言った。

「三ちゃん、やめて!乱暴しないで。あたしが悪いんだから。」

 美香ちゃんは、三太の腕に取り縋った。

 その顔は泣きそうだった。

「ちぇっ!わかったよ。」

 三太はそう言って、省吾の胸ぐらから手を離した。

 みんなは再び歩き出した。

「美香、気にするなよ。省吾があんなこと言ったからって。誰かに何か言われたら俺のせいにすりゃあいい。分かったな?お前が抱え込むことは無いんだ。」

 その声には、有無を言わせぬものがあった。

「うん…ありがとう。」

 京一は一番後に居たので、前のそんなやり取りはよく分からなかった。

 しかし、前の方で何か揉めてるなという気配は感じ取った。

 普通ならここで前に行って確認したくなる所だろうが、京一はやめておいた。

 三太に、後ろでしんがりを務めるよう頼まれたのだ。ならばその信頼に応えなければならない。

 それからしばらくの間、皆は歩き続けた。

 少し湿った、細い土の道を黙々と歩き続けた。

 静寂の中、時々鳥のチチチという声が響き渡る。

 虫の音も聞こえる。

 けれど誰も何も喋ろうとはしなかった。

 さっきの三太の対応が、みんなの空気を微妙なものにしていたのだ。

 やがて皆は村に着いた。

「じゃあ皆。飯食い終わったら、またここに集まろう。」

 三太はそう言った。

 だが、それに返事をする者も居れば、しない者も居た。

 三太と省吾がやりあってる間も、美香以外止めようとする者は誰も居なかった。

 一つ言えるのは、皆の気持ちが一枚岩のように一つに固まってなかったことだけは確かだった。

 じゃあまたね、と声をかけあって別れるのが通常であるのに、この日はそんな声も少なかった。

 けれど三太はそんな事は気にしなかった。

 その表情からは、三太の内心を窺い知ることは出来なかった。

「京一、お前も早く飯食いに行けよ。俺は美香を送ってから帰るから。」

 三太はぶっきらぼうにそう言うと、美香に寄り添うように歩いていった。

 京一は、なんとも言えない気持ちで二人の後ろ姿を見送った。

「ただいま。」

 憂鬱な気分で家に帰ると、鈴音が出迎えてくれた。

「おかえり。

 一体どうしたんだい?随分遅かったじゃないか。ご飯冷めてしまったよ?」

 そんな母親の声も、今の京一には、右の耳から左の耳へと通り抜けていった。

 返事もせずに食卓に就く。

「こら!」

 そう言いながら、鈴音は背後から京一の耳を軽く引っ張った。

「ちゃんと聞こえてる?聞こえてたら返事をなさいな。」

 京一は、煩わしそうに鈴音を睨んだ。

「なんて顔してんのよ。森で何かあったの?」

 そう言いながら、鈴音は京一の額に触れようとした。

 京一はその手を軽く振り払った。

「お母さん、やめてよ。勝手に僕の心を覗かないで。」

 京一は、少し怒りを滲ませた目で鈴音を見た。

「ごめんごめん。でもいちいち口で説明するより早いでしょ?」

 鈴音は京一に一応謝ったが、それが心からのものかどうかは分からない。

「だとしても…覗く前に僕にちゃんと訊いてよ。いきなり覗かれるなんて嫌だよ。」

「悪かったわ。ホントに。じゃあ勝手に覗いたりしないから教えてくれない?」

 そう言って京一を椅子越しに背後から抱きしめた。

 鬱陶しいなあ。

 そう思ったけど言葉には出さない。

 子供に邪険にされると、母は結構落ち込むタイプなのだ。

 落ち込むと、フォローするのが大変だ。

 後の面倒臭さを考えると、好きにさせておいたほうがまだマシなのだった。

 京一は、渋々ながら、森での一部始終を鈴音に説明した。

「それは三太君も気の毒ねえ。良かれと思ってやった事なのに。」

 興味深げに聞いていた鈴音は、心配そうに言った。

「お父さんはいつ頃帰ってくるの?ちょっと相談したくて。」

「そんなに遠くないから、夕方までには帰ってくるわよ。村田さんがドライブがてら送り迎えしてくれることになってるからね。

 お父さんが会議の間は、村田さんは本屋に寄ったり買い物したりするって。

 おかわり食べる?」

「いや、要らないよ。」

 唐突に聞かれて面食らったが、コップの水を一杯飲んでから、玄関に向かった。

「もう行くの?食べたばかりなのに。」

「皆もう待ってるかもしれないからね。待たせちゃ悪いし。」

 京一は靴を履きながら答えた。

「森に行かないで村の広場かうちの境内で遊ぶ予定だから、お父さん帰ってきたら知らせてよ。お祓い頼みたいんだ。さっき言った橋の所の。」

「分かったわよ。その時は使っていいわね?」

「うん…いいよ。でも帰ってきたことだけ知らせてくれれば家に帰ってくるから。」

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