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45.核心へ

「気に入られたって…そりゃあ一体どういうことだい?」

 慎一は腑に落ちない様子で、清吉に尋ねた。

「言った通りの意味じゃよ。お前さんが途中で昼飯を食ってるときに、村に入れるべき価値のある人間かどうか、試されたという意味じゃ。ファッハッハ。」

 清吉は愉快そうに笑った。

  そして一口呷ると、コトリと湯飲み茶碗をテーブルに置いた。

 慎一はその声を聞き、胃のあたりが重くなるのを感じた。青ざめるような気分が背筋を這った。

「なあ、爺さんよ。もし俺がその“お試し”に落ちたら、俺は一体どうなってたと思うんだ?」

 今更知ったところでどうしようもないことだとわかっている。しかし、それでも訊かずにはいられなかった。

「多分、お前さんは今頃この村に、生きて辿り着いてはいなかっただろうよ。」

 清吉は淡々と、ただそれだけを言った。

 慎一は具体的にどう辿り着けなかったのかを問おうとしたが、逆に聞く気力が湧かない。恐怖と重圧が心を押さえつけていた。

 その代わりに、慎一にはまだ、聞かねばならないことがあった。

「なあ、爺さん」

 背筋にざわつく感覚を抑えながら慎一は尋ねる。

「この村のダム工事は、どれくらい進んでるんだ?途中でゲートがあったから、調査だけでも多少進んでるのかと思って。」

 慎一がこう尋ねたのは、重機やプレハブなどの工事の痕跡が全く見当たらなかったからだ。

「さぁのう。まだ全然進んでないと思うぞい。」

 清吉は肉を一切れ口に運び、酒を一口呷った。

「どいつもこいつも、この村に来る途中で事故にあったり、死んだりするからの。」

 清吉はニタリと笑った。

 その笑みを見た慎一は、どこかで見覚えがあることに気づいた。

 警官時代、取調室で、怨みを溜め込んだ相手を遂に殺した犯人――本懐を遂げた笑顔だった。

 後悔の色すら見せぬ、清々しいほどの笑み。

 清吉の笑みも、まさにそれと同じだった。

「清吉さん…あんた……」

 慎一は問いかけようとしたが、空しいだけだと悟った。

 口をつぐむと、清吉も何か言いかけたが、慎一は「いや、何でもない」とだけ返した。

 鍋の湯気の向こう、酒の匂いが鼻をかすめる。

 しかし、背後に漂う不吉な気配が、どこか現実離れした緊張感を生んでいた。

  「なあ、清吉さんよ。」

  とにかく訊かねばならない。

  慎一は、内心の恐れを気取られないように、努めて平静に尋ねた。

  「なあ、清吉さん。写真に写ってる赤ん坊と、今の俺の依頼人が同じだとは限らないだろ?……これを見てくれ。」

  慎一はそう言って、スマホからプリントした写真を清吉に見せた。

  「うーん、これだけじゃ何とも言えないのう。

  二人の面影があるようでもあるし、無いようでもあるし。」

  清吉は首を傾け、曖昧に笑った。

  そう言われて慎一も困ってしまった。

  当時を知ってるのはこの爺さんだけなのだ。

  「そんな頼りないこと言わないで、もっとちゃんと見てくれよ。な?」

  慎一は必死で清吉に食い下がった。

  「うーん、そう言われてもなあ。」

  清吉は、相変わらず頼りなげである。

  「それよりもな…あれを確認したほうが早いわい。」

  清吉は記憶を絞り出すように慎一へ言った。

  「あれって?な…何だい?」

  慎一は、清吉の思わぬ反応に食らいついた。

  「ちょっと変わったものなんじゃが…お前さんに説明して分かるかのう。」

  慎一は、清吉にそう言われてピンときた。

  以前京一が依頼しに事務所に来たときに、何枚か写真を撮らせてもらった、懐中時計のような、不思議なアイテムのことだ。

  ポケットから慌てて写真を出して、清吉に見せる。

  「じ…爺さん、これの事かい?」

  「そう!これじゃ。これのことじゃよ。お前さんなんで早く見せなかったんじゃ!」

  そう言った清吉の声色は、先程とは比べ物にならないほど興奮していた。

 


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