42.老人との邂逅
慎一は振り返らずに背後からの声に答えた。
もし相手が銃でも構えていた場合…いきなり振り向いて刺激するのは危険だ。
その拍子に引き金を引いてしまうかもしれない。
「お参りだよ。ここは霊験あらたかな神社だって聞いたんでね。」
「見え透いたことを言うな。」
一瞬緊張感に満ちた間があった。
「どうせお前もダム工事推進派の奴だろう。」
その声には怒りと猜疑と警戒心が込められていた。
「そんな事無いってぇ。俺はひょんな事からここの神社の写真を手に入れてな。ぜひお参りをしてみたいと思って、はるばるやってきたんだぜ。」
慎一は相手の緊張を解そうと、努めて明るく飄々とした口調で相手に言った。
「それよりも…振り返っても良いかな?
出来ればお互いの顔を見ながら話をしたいもんだ。」
慎一は出来るだけ相手を刺激しないように、警戒心を抱かせないようにと、気楽な口調で返した。
「よーし、では手を上げてゆっくり振り返れ。ゆっくりとだ。分かったな!」
相手の緊張はまだ途切れなかった。
「へいへい、わかりましたよっと。」
慎一は、そう言いながら手を上げて、ゆっくりと真後ろに振り向いた。
振返った慎一は驚いた。
案の定、自分に向けて猟銃が構えられてるのは想定していたが、問題は構えていた男の年齢だった。
もうかなりの年寄りに見える。
「どうだい、爺さん。
俺の風貌を見ても、まだ工事推進派に見えるかな?」
慎一は両手を上げたまま、猟銃を構えている老人に、声をかけた。
「そんなのわからんわい!
お前がそうじゃないという証拠がある訳でもあるまいし。」
老人は警戒心を解かないままで、猟銃を慎一に向けたまま言った。
「まあ…そうだろうな。
証拠になるかどうか分からないけど、一枚の写真があるんだ。ちょっとそれを見てもらえないかな。」
慎一は努めて軽い口調で、老人へそう言った。
「分かった。なら、その写真をゆっくりとした動作で出すんだ。いいな、ゆっくりとだぞ。いきなり武器とか出されちゃ敵わんからな。
そして、出したらワシの足元1メートルの所に置け。そうしたら、またゆっくり戻るんじゃ。その間、おまえの事はずっと狙ってるからな。反撃しようなんて気は起こすんじゃないぞ!」
老人は猟銃を構えながらそう言った。
引き金を引かれれば、心臓に命中しなかったとしても、身体の何処かには当たるだろう。
慎一は相手を刺激しないように、ゆっくりと内ポケットから写真を出し、老人の足元に置いた。
「よし、ゆっくり戻れ。」
慎一が元の位置に戻った後に、老人は写真を拾い上げ、それを見た。
「こ…これは……」
写真を見た刹那、老人は絶句した。
「お…おまえ…この写真を何処から持ってきた!?」
老人の取り乱しようは、慎一の想像以上だった。
「記憶喪失になった青年の荷物に入ってたのさ。身元を調べてくれって依頼が来てね。」
老人はガシャンと猟銃を取り落として、写真を両手で持ち、おしいただくようにして、涙を流した。
「奥様…坊っちゃん…奥様…坊っちゃん…」
老人はそう繰り返し、慎一はまずどう言葉をかけていいか分からなかった。




