41.村の中へ
慎一は、山間の砂利道を走り続けた。
細い山間の砂利道を走り続けているうちに、それもどうやら抜けたようだ。
急に広い道路に出た。
道はゆっくりとした下り勾配に入ってきた。
「どうやら近いかな?」
そんな独り言を呟き、ハンドルを取られそうになるのに気をつけながら、運転を続けた。
やがて慎一はジープのブレーキを踏んだ。
ある事情で、それ以上は進めなかったのだ。
ゲートが道を塞いでいた。
慎一は車から降りて、そのゲートをつぶさに観察してみた。
そこには、ダム建設予定地と書かれた薄ベニヤ板が括りつけられてあり、真ん中には大きく赤字で立ち入り禁止と書いてあった。
「参ったなあ…。」
慎一は頭を掻きながら、独りごちた。
念の為にスマホの地図アプリと、プリントアウトした地図を照らし合わせてみると、加賀美村迄のルートとしては間違いない。
ここを越えていかないことには加賀美村には辿り着けないことになる。
ゲートは丁度真ん中から観音開きに開くような仕組みになっていて、穴にバーを通して閉じる仕組みになっていた。
そうして、もう一つの小さい穴に南京錠を通して鍵をかける仕組みになっているのだが、よく見ると鍵が外れた状態になっている。
南京錠のロック部分が外れたままになっているだけで、南京錠自体は付いたままだ。
「あれ?これ、最初から外れていたかなあ。」
慎一は多少訝しげにそれを眺めていたが、いちいちそれを詮索してる余裕は無かった。
「まあ、俺はもう別に警察の人間じゃないしな。」
そう言って、鍵を外し、ゲートを開いて、ゲートの向こう側に車を乗り入れた。
「後で異変を察知されてトラブルになっても面倒くさいしな。」
そう言って、鍵以外は現状復帰することも忘れなかった。
誰かに見咎められたらヤバいことは内心分かっていたが、加賀美村が現状どうなっているかを確認しないことには帰れない。
依頼を遂行しなければという使命感はあったが、段々と自分の好奇心も大きくなってきた。それにはさっきの少年との不思議な邂逅の件もあった。
時々車を止めては地図アプリで現在地を確認する。そうして、そこが加賀美村までの道で合ってるかどうか、プリントアウトした地図とも照らし合わせる。
「どうやら間違いないみたいだな。」
そうして再びエンジンをかけてまた走り出す。
そうして走ってるうちに、何だか霧が降ってきた。
「おいおい、ついさっきまでは晴れてたのにどういうことだ!」
慎一は愚痴を呟きながら、ジープをぶつけないように、慎重にハンドルを握った。
「車を凹ませたら爺さんがうるさいからなぁ。」
慎一はブツクサと言いながらも、進むのだけはやめなかった。
やがて…。
そこには加賀美ダム建設予定地、と書かれた看板の前に突き当たった。
「ホントかよ。」
慎一は車から降りて、呆然とした気分で看板を眺めていた。
ダム建設の予定になっているのはこの村だったのだ。
この分では村内に誰もいないかもしれない。
だからと言って、このまま引き返す気は、慎一にはさらさら無かった。
とりあえず、村の中に入ろう。
そう決心して、慎一はジープをソロソロと村内へ乗り入れた。
案の定、村内には人の気配が感じられなかった。
車を村内のあちらこちらに進めてみたが、やはり人の気配は無い。
そうしてるうちに、神社の鳥居のようなものを見つけた。
慎一は、京一の写真からスキャンしてスマホへ格納してある画像と見比べてみた。
間違いない!同じ色、同じ形だ!
慎一は逸る心を抑えてジープのハンドルを鳥居の見えた方面へ向けた。
バタン!と音を立てて、ジープのドアを閉める。
そこはもう加賀美神社の正面だ。
再びスマホを取り出し、鳥居を画像と照らし合わせる。
間違いない。
この写真はこの鳥居の前で撮られたものだ。
慎一はある種の感慨を持って、鳥居をくぐり、境内に入ろうとした。
その時だった。
「おい!お前!そこで何をしている!」
鋭い声で背後から慎一へ声をかけてくる者がいた。




