調査
事務所に戻った慎一は、早速調査を開始することにした。
彼が手始めにしたことといえば、まず事務所内でも出来ること。そう、京一の所持していた写真を参照しつつ、パソコンで神社を画像検索する事だった。
と言っても、全国の神社を一つ一つ検索していったのでは膨大な時間がかかってしまう。
まずはコピーする時に残っていたスキャン・データをパソコンに転送する。 こうする事で、きめ細かな画像がパソコン内に格納される。
次に神社を画像検索する。
次に特殊な画像比較ソフトを立ち上げて、自動的に次々と、京一の写真と比較して、少しでも一致する画像を、候補としてディスプレイに表示させようという試みだ。
このソフトを使えば、膨大な検索画像と写真を、人の手で比較するよりも、何百倍もの速さで候補を抽出する事ができる。
それにしたところで、かなりの時間はかかるだろうが、それでも一晩くらいのものだろうというのが慎一の見立てだった。
候補の写真を指定したフォルダーに保存するように指定して、スタート・ボタンをクリックする。
写真を元に調査する時に、何度もお世話になっている手だった。
「とりあえずはこれで良しと!」
ソフトが作業を開始するのを見届けると、慎一はデスクから立ち上がり、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、窓際に立ちながら、缶蓋を開けてゴクゴクと飲んだ。
考えてみれば、今日はこれでコーヒーは三杯目だ。
それを考えると、慎一はおかしな気分になって、クスクスと一人笑いした。
そうして、ここ2日程に起こった出来事を振り返って、妙な気分になった。
チコとの出合い。
記憶を失った青年と、その青年が所持する不思議なアイテム。
とりあえず画像検索が終わって、一通りの候補が出揃ったら、候補を絞って、実際に現地に赴いてみよう。そんな事を考えながら、缶に残ったコーヒーを、一息で一気に飲んだ。
パソコンのディスプレイを覗くと、候補画像は未だ出てこない。
随分遅いなと思いながら、後の作業はパソコンに任せることにして、慎一は外に出ることにした。
まずは振り込まれた金を下ろすために。
そして、調査用の車を借りに、祖父の下を訪ねるために。
車を調達出来たら、マスターの店を訪ねるいい頃合いにもなっている事だろう。
まさか帰った矢先にチコから連絡が来ることもあるまい。
候補画像が抽出されたら、候補地を実際に訪ねてみて、そこが京一の出生地だと確定できれば、そこで調査は終了する。
簡単な仕事だと楽観視しながら、慎一は事務所のドアを閉めて鍵をかけた。