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20.菜子からのメッセージ

 千穂の話を聞いて、一同は顔を見合わせた。

 それはあまりにも現実離れしたように感じられ、何とリアクションしたものか判らなかったからだ。

 どう考えても荒唐無稽な話にしか聞こえない。しかし千穂の様子を見ていると、自分達を担ごうとしてるとは、とても思えない。

 どうしようかと一同が考えてる時に、美祢が真っ先に口火を切った。

「ねえ、おばちゃん。私たち菜子ちゃんのお見舞いに来たの。少しだけでもいいから会うこと出来ませんか?」

 美祢にそう言われて、千穂は逡巡する様子を見せていたが、やがて決心したような表情を見せるとこう言った。

「分かったわ。せっかくここ迄来てくれたんですもの。美祢ちゃんは菜子ととっても仲が良かったんですものね。ずっと眠ったままだけど、それでもいい?」

「いいよ。菜子ちゃんの事が心配でここ迄来たんだもの。少しだけでも様子を見る事が出来れば安心できるよ。」

 そう言った美祢の目には迷いは無く、菜子に対する心配で溢れていた。

 そんな目でこう言われては、千穂も抗うことは出来なかった。

 千穂は一同を伴って菜子の病室へ案内した。

 ドアを開ける時に、千穂は一同に言った。

「何も起らないとは思うけど…何か起っても驚かないでね。」

 そう言われては、少したじろいでしまいそうな気分になってしまうが、基本的にはずっと意識なくベッドに横たわってるだけだと思われる。

 そう言い聞かせながら、一同は病室に入っていった。

 個室のベッドに、菜子は相変わらずフッフッフッと浅い息をしながら目を閉じていた。

 この部屋に入る少し前に、京一はズボンのポケットに異物感を感じていた。

 京一は、まただ…と思った。

 家に置いてきたはずなのに。そう思いながらポケットに手を入れる。

 手触りですぐ分かった。懐中時計型のアイテムが、自分を追いかけて自分のポケットに入り込んでいる。

 膳場さんはアポーツ現象と言っていたっけ。そんな言葉が脳裏を(よぎ)る。

「どうぞ、菜子を見てあげてください。」

 そう促されて、三人はベッドの側まで近付いていった。

 三人は菜子の寝顔を見下ろしながら、なんとも言えない気分になっていた。

 そんな空気に耐えかねたように、美祢は菜子に語りかけた。

「菜子ちゃん。一体いつまで寝ているの?早く目を覚まして一緒に遊ぼうよ。」

 そう言いながら、目からポロポロと涙を流し始めた。

 陽子は何と声をかけて良いか分からず、そんな美祢を抱きしめてやる事しか出来なかった。

「千穂さん。」と、京一は語りかけた。

「はい、何でしょうか?」という返事に「腕に浮かんだメッセージはまだ残ってるのですか?」と問いかけた。

「いえ、あれ以来見ていないので分かりません。何だか一人で見るのが怖い気もして、あれ以来見ていないのです。あの時はたまたまかけ布団から腕が出てたので、それを仕舞おうとして、たまたま気付いたんですが、わざわざ腕を出してまで確認しようという気にはなれなくて…。」

 千穂の心情を思えば、それも無理からぬ事ではあった。しかし、京一がそれを聞いたのは興味本位からでは無かったのだ。

「お気持ちはお察しします。でももしかしたら、同じ場所に新しいメッセージが出ているかもしれませんよ。そんな気がするんです。」

 そう言われた千穂は、逡巡するような表情を見せた。

「大丈夫です。今は僕たちが一緒に居ますから。もしかしたら菜子ちゃんを救うヒントが示されているかもしれませんから、勇気を出して、もう一度確認してみませんか?」

 千穂はしばらくの間考え込んでいたが、「分かりました」と言って、菜子にかかってる布団を少しだけめくって、右腕を出した。

 袖を捲くりあげると、三人も近付いて見てみる。

 外側には何も書かれていない。

 少し腕を広げて内側を見てみる。

 それを見て四人は顔色を変えた。

 

 モウダメ


 右腕にはそう書いてあった。

「菜子!ああっ、そんな。」

 千穂はそう絶句して崩折れてしまった。

「千穂さん、しっかりして。ここであなたが心折れたら誰が菜子ちゃんを助けるの?」

 陽子は千穂をパイプ椅子に座らせて、そう言って励ました。

「陽子さん。菜子ちゃんの左腕を見てみて貰えませんか?今千穂さんにそれを頼むのは酷でしょうから。もしかしたら左腕には別のメッセージも出ているかもしれない。」

 そう言われた陽子は「分かったわ」と言って、菜子の左腕を確認してみた。

 それを確認した後に、陽子は京一へ視線を移した。

「何か書いてありましたか?」

 京一の問いかけに、陽子は「ハヤクって……書いてあったわ。」

 モウダメ。

 ハヤク。

 これは一体何を意味するのだろう。

 京一は、何となく想像は付いた。

 しかし、その想像が実際そうであったとしても、どうやったら菜子を救うことが出来るだろう。多分タイム・リミットは迫っている。このまま手をこまねいたままで、なんの対策も打たずにいると、次に菜子ちゃんが意識を戻したときには、もう全てが終わっているかもしれない。

 そんな事を想像した京一は、あまりの(おぞ)ましさに身が震えるような思いがした。

 そんな事を考えていると、美祢は京一にしがみついて、泣きそうな声で言った。

「ねえ、お兄ちゃん。何とかならないの?菜子ちゃんを助けてあげられないの?このまま目を覚まさないの?菜子ちゃんいい子なんだよ?なんにも悪いことしてないんだよ?なのに何でこんな目に遭わなきゃならないの?」

 そう言って、ウワーンと泣き出してしまった。

 京一は、思い余ってポケットから例のアイテムを取り出した。

 何の根拠も無いが、もし何か出来るとしたら、これを使うしかないんじゃないか。そう思いながら見つめていると、何処からか声が聞こえるような気がした。

 それは徐々に大きくなり、何度目かにハッキリと頭の中に響いてきた。

『それを高く掲げなさい。』

 その言葉が何度も繰り返され、声は増々大きくなっていった。

 京一はその声に抗えなくなり、アイテムを持った手を、上へと高く掲げた。

 その瞬間、その懐中時計に似たアイテムの文字盤に相当する、深い青色をしたレンズのような部分から、強烈な光が放たれた。

 アイテムから発せられた強烈な光は、まるで繭のように京一の身体を包み込んだ。

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