16.病院にて
KK新日病院は、その日も外来患者で待ち合いロビーは慌ただしい様子を見せていた。
ナースや外来患者が行きつ戻りつする人々を縫うように、三人は入院患者の案内カウンター前に佇んでいた。
最初は美祢と陽子の二人だけで来るつもりで、京一もそのつもりであった。
しかし美祢が、京一も一緒に来てほしいと言って譲らなかったのだ。
京一としても、そんな美祢の願いを無碍にするわけにも行かず、一緒に付いてきたというわけなのだった。
「いい?美祢。この病院で聞いてみて判らなかったら諦めるのよ。」
陽子に言われて、美祢はコクリと頷いた。
案内カウンターには何人かが並んでおり、三人は順番が来るのを待っていた。
そんな時である。
「あの……美祢ちゃんのお母さん?」
陽子が声がした方を振り向くと、そこには菜子の母親である岩下千穂が、驚いた表情で立っていた。
「美祢ちゃん、今日は診察に来たんですか?」と、彼女は陽子に聞いてきた。
「岩下さん!こちらこそ……娘さんの事で心配してたんですよ!」と、陽子の方も驚いた表情で千穂を見つめていた。
その後、立ち話も何なのでと言うことで、待合からは少し離れて、少し空いている椅子に全員が座ると、四人は話を続けた。
そこで陽子は、菜子が休んでいて美祢が大変心配していること、電話をかけたけど留守で様子が判らなかったこと、無駄を承知でこの病院に、入院してるかどうかの問い合わせに来たことを千穂に伝えた。
それを聞いた千穂は、顔を覆って、声にならない声でひとしきり嗚咽のような声を上げた。
「岩下さん……」
千穂の突然の嗚咽に、陽子は何と言葉をかけて良いのか分からなくなってしまった。
菜子に関して、何と聞いたら良いのか判らなかったからだ。
娘さん、そんなに悪いんですか?とは聞けない。
何かあったんですか?とも、他人のプライバシーに関わることになりそうなので聞けない。
張りつめたものが崩壊したような感じなので、元気を出して、とも言いにくい。
そんな時、美祢が千穂にギュッと抱きついて「おばちゃん、大丈夫。大丈夫だから……。」そう声をかけた。
千穂は美祢を抱きしめながら「美祢ちゃん……ありがと。ありがとう。」
そう言いながら、声を上げて泣いた。
ひとしきり泣いた後に「ごめんなさい。みっともない所を見せてしまったわね。」
そう言いながら、陽子から受け取ったハンカチで涙を拭いた。
気分が落ち着いたタイミングを見計らって、陽子は千穂に、思い切って聞いてみた。
「岩下さん。言いにくかったら別に無理には聞きませんが……菜子ちゃんの様子はどうなんですか?もし、私達で力になれることがあれば……。美祢もとても心配して。というより、美祢が心配で堪らない様子だったので、ここまで来てみたんですよ。」
千穂は陽子のその言葉に励まされるように、ぽつりぽつりと話し始めた。