表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/46

16.病院にて

  KK新日病院は、その日も外来患者で待ち合いロビーは慌ただしい様子を見せていた。

  ナースや外来患者が行きつ戻りつする人々を縫うように、三人は入院患者の案内カウンター前に佇んでいた。

  最初は美祢と陽子の二人だけで来るつもりで、京一もそのつもりであった。

  しかし美祢が、京一も一緒に来てほしいと言って譲らなかったのだ。

  京一としても、そんな美祢の願いを無碍(むげ)にするわけにも行かず、一緒に付いてきたというわけなのだった。

  「いい?美祢。この病院で聞いてみて判らなかったら諦めるのよ。」

  陽子に言われて、美祢はコクリと頷いた。

  案内カウンターには何人かが並んでおり、三人は順番が来るのを待っていた。

  そんな時である。

  「あの……美祢ちゃんのお母さん?」

  陽子が声がした方を振り向くと、そこには菜子の母親である岩下千穂が、驚いた表情で立っていた。

  「美祢ちゃん、今日は診察に来たんですか?」と、彼女は陽子に聞いてきた。

  「岩下さん!こちらこそ……娘さんの事で心配してたんですよ!」と、陽子の方も驚いた表情で千穂を見つめていた。

  その後、立ち話も何なのでと言うことで、待合からは少し離れて、少し空いている椅子に全員が座ると、四人は話を続けた。

  そこで陽子は、菜子が休んでいて美祢が大変心配していること、電話をかけたけど留守で様子が判らなかったこと、無駄を承知でこの病院に、入院してるかどうかの問い合わせに来たことを千穂に伝えた。

  それを聞いた千穂は、顔を覆って、声にならない声でひとしきり嗚咽のような声を上げた。

  「岩下さん……」

  千穂の突然の嗚咽に、陽子は何と言葉をかけて良いのか分からなくなってしまった。

  菜子に関して、何と聞いたら良いのか判らなかったからだ。

  娘さん、そんなに悪いんですか?とは聞けない。

  何かあったんですか?とも、他人のプライバシーに関わることになりそうなので聞けない。

  張りつめたものが崩壊したような感じなので、元気を出して、とも言いにくい。

  そんな時、美祢が千穂にギュッと抱きついて「おばちゃん、大丈夫。大丈夫だから……。」そう声をかけた。

  千穂は美祢を抱きしめながら「美祢ちゃん……ありがと。ありがとう。」

  そう言いながら、声を上げて泣いた。

  ひとしきり泣いた後に「ごめんなさい。みっともない所を見せてしまったわね。」

  そう言いながら、陽子から受け取ったハンカチで涙を拭いた。

  気分が落ち着いたタイミングを見計らって、陽子は千穂に、思い切って聞いてみた。

  「岩下さん。言いにくかったら別に無理には聞きませんが……菜子ちゃんの様子はどうなんですか?もし、私達で力になれることがあれば……。美祢もとても心配して。というより、美祢が心配で堪らない様子だったので、ここまで来てみたんですよ。」

  千穂は陽子のその言葉に励まされるように、ぽつりぽつりと話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ