ひまわり手裏剣がデカすぎる
俺は忍者軍団の一員だ。いい歳をして上忍にはいつまで経ってもなれずにいる。
「おひま、行って来るぞ」
妻の『おひま』が鎖帷子の上に着せてくれた忍者装束の襟を正し、俺が家を出ようとすると、慌てて奥から何かを抱えておひまが出てきた。
「あんた、これを持って行って」
「そ……、それは?」
おひまが抱えてきたものは、でっかいひまわりの花ようなものだった。いや、ひまわりの花そのものにしか見えんのだが……。
「ひまわり手裏剣よ」
おひまは俺を心配する表情を、誇らしげに胸を張って誤魔化しているようだった。
「夜なべをしてあたいが作ったの。切れ味絶対抜群だから、持ってって」
そうか……。
おひまの名は正しくは『おひまわり』。自分がいつも側にいて守ってあげたいという心の表れなのだな、これは。
俺は有り難くその巨大なひまわり手裏剣を受け取ると、紐で背中にくっつけた。
今日の任務は敵の要人を守る用心棒の始末だ。
屋根から屋根へと飛び、わざと俺たちは気配を窺わせ、用心棒をおびき出す。しかし背中のひまわり手裏剣が重すぎて飛びにくいな……。
俺たち七人の忍者軍団はヤツを人里離れた林に誘い出すと、早速その命を頂戴しにかかった。
「フン。忍ごときにこの拙者がやられるとでも思うか」
用心棒は凄腕の剣士だと聞いている。
確かに眼光鋭く、自信に満ち溢れている。
名のありそうな刀を抜くと、俺たちを余裕の笑みを浮かべて眺め回した。
仲間たちが一斉に手裏剣を投げる。
ヤツは一太刀でそれらをすべて弾き返した。
「ぐっ……!」
「ウオッ……!?」
跳ね返された手裏剣が、放った者の元へ返り、額に次々と突き刺さる。
「見たか、これぞ秘奥義『手裏剣返し』!」
ニヤリとヤツが笑う。
「いかなる手裏剣も拙者には効かぬ。拙者に手裏剣を投げた時、死ぬのは貴様らのほうだと知れ」
俺は『ふーん』と思った。
背中からひまわり手裏剣を外すと、狙いを定めた。
超重かったので、両手で投げた。
弾き返そうとした用心棒の刀をそれは易易と押しのけた。
ヤツは、死んだ。
おひま、ありがとう。
おまえのおかげで俺は功績を上げた。これでやっと上忍になれるかもしれない。
「うまくいったわ」
あたいは屋根の上からその一部始終を見ていた。
「これぞ、内助の功の術!」
赤い忍者装束を翻し、屋根から屋根へと飛び移り、早く家に帰って主婦のフリしなきゃ。
今までいくら自分が裏工作してもなかなか出世しなかった夫だったけど、愛し続けてよかった。