停戦は救済
俺の名前は奇教 甫名。
そこまで大きくはないが、一応大企業の会社員。
大きなプロジェクトを終わらせ、来週は1週間まるごと有休を使って休む。
はずだったんだが。
「ここは?」
「ここは、勇者様にとっては異世界という場所ですね」
「異世界?」
目の前には知らない女性。
この辺りの景色も全く見覚えがない。
異世界だとかふざけたことを言っているが、それも嘘ではないかもしれないと思ってしまうような場所だ。
(誘拐でもされたのか?残念ながら、俺には身代金を払ってくれるような家族はいないんだよな)
「、、あなたは誰ですか?」
「私ですか?私はあなたを召喚させて頂いた聖女であり、この国の王女でもあります」
「へぇ。聖女で王女、ねぇ」
(本当に異世界みたいだなぁ)
俺は、ここが俺のいた場所とは大きく違うところであるということはなんとなく分かった。
まずは着ている物もかなり違う。
中世の西洋の貴族とかが着ていそうな服を目の前の女性は着ている。
「なんで、俺はここに?」
「それは先ほども申し上げましたとおり、私が召喚させて頂いたからです」
(もう、頭がこんがらがってきた)
俺は、目の前の女性の話がまだ完全には信じられなかった。
異世界というものも、召喚というものも、意味としては理解できる。
だけど、それを受け入れろというのは無理な話だった。
「それでは、もう1度聞かせて頂きます」
「勇者様、どうかこの世界をお救い下さいませんか?」
勇者。
その言葉に俺の少年の心が動かされた。
だが、頷きそうになる体を俺の大人としての心が、希望という言葉の重みを考え、必死に押さえ込んでいた。
「どうか、どうかお願い致します!!」
目の前の王女様は頭まで下げた。
それだけ切迫した状況なのだろう。
その姿から、思わず目をそらしたくなって目線を下げた。
「、、ん?あれ?」
そこで、俺は初めて手に何かを握っていることに気がついた。
握っているものを、目の前まで持ち上げる。
これは、、、
「王女様。ちょっとだけ待っててください」
「今すぐ決めます」
「え?」
不思議そうにする王女様の横で、俺は手に持っていたカードの束を切った。
占いのカードの束を。
俺は頭を下げる人を見捨てたくないし、自分の身を危険にさらすこともしたくない。
勇者になることを自分の意思で決定することは無理だった。
ならば、もうカードに決めてもらうしかない。
俺は1番上のカードをめくり、床に置く。
「、、、これは!」
手と手が握り合う絵が描かれている。
下に書かれている文字は、頼まれたことを受け入れても、もちろん拒否しても実現できないものだった。
それは、
「友好、かぁ」
「なっ!?勇者様!まさか、人間と魔族に手を取り合えとでも言うつもりですか!?」
王女様は、友好という言葉に反応する。
今まで敵対していたものたちに手を取り合えと言ったら、こうなるのは当然と言えば当然だろう。
俺だって、蹴落とし合っている同期と手を取り合えなんて言われたら嫌だしな。
一応、もう1枚引いてみるか。
ペラッ。
次のカードをめくる。
そこには、花のたくさん咲いた花畑が書かれていた。
俺、思ってたより花の絵うまいな。
と、そんなことはどうでも良い。
これの意味は、
「、、、ハハッ」
「平穏かぁ」




