●01
……あれっ!! ここどこ??
上には白い天井、僕はねっころがっているようだ……。
仰向けに倒れたのか?
ふと手を見て見ると。
あれっ! ……手が……小さいぞ。
あれっ! これっ! 赤ん坊じゃん!!!
「あうあう!!!」
こ、これは何だ?!! 体がうごかん!! しかも凄い汗だぞ!!
なんだ! なんだ! なんだ! 落ち着け! 落ち着け!
さっきまでパソコンを打ち、休憩室に行き、自動販売機でジュースを飲み、椅子に座ったところで記憶が飛んでいるぞ!
過労か? これは幻覚か?
ーーーーーーそれはありえる。
◇
僕は36歳の雇われSEで、ブラック企業に出向し、多忙を極めていたのだ。
周りのみんなが辞めて行き、人員も増えず仕事が僕に回され、納期に間に合わなくなれば「臨機応変に仕事をしろ」と怒鳴られ。
残業が増えれば、「効率良く働け」と言われ、当初、30人のプロジェクトが10人になり、限界が来ていたのだ。
それでも僕はもくもくと作業を続けた……、体力はあると過信していた……、精神が追い付かなかったみたいだ……、駄目だったか……。
いや、それよりも今のこの現状を整理しないと……。
……、手が小さい、寝返りが打てない、言葉がままならないところを見る限り、赤ん坊は確かなようだ。
それも、頭を持ち上げようとしても首が座らないので、生まれたばかりだと思われる。
周りに格子が見え、布団の上にいてる事から寝ている場所はベビーベッドらしい。
ん、誰か来たぞ。
「ソルト様、お目覚めですか?」
目の前に知らない女性が覗き込んでいる。
そして、哺乳瓶らしき物を袖から取出し、ちくびを口に無理矢理押し付けてきた。
くっ苦しいっ!!!
だらだらと口からミルクが溢れ、それをこの見知らない女性は布で拭き取る。
それから頼みもしないのに、この世界の事を話し出した。
そして、一通り話し終えたのか、出ていった。
あれは、何だったんだ?
容姿は前世で言えば、メイドの服装だ。
◇
そんな事が繰り返され、1月が経った。
しかし、僕が会うのはこのメイドだけで、他の人とは誰も会っていない。
もしかして、僕の両親はいないのか?
メイドの話しはこの世界の話しだけで、身近な事は一切話さない。
そもそもこのメイドは、赤ん坊の僕が理解しているのを、知っているかのように話すのだ。
不思議なメイドだが、知識を与えてくれるのはありがたい。
この世界は異世界のようだ。
魔法絶対主義の世界であり、魔法は生活にかなりな部分、根づいている。
人族、魔族、魔物等、多種族がそれぞれ国を持ち政治、経済を行っている。
戦争が頻繁に起き、武力は魔法がメインだ。
高名な魔法士が国にいれば、それだけで抑止力になる。
各国は魔法士を育てるのに力を注ぎ、地位、権力、高給を与え他国に引き抜かれないようにしている。
僕の前世で言えば、この世界は中世時代あたりなようだ。
メイドによれば、僕にも魔法が使えると。
そして、「ステータスオープン」と心の中で唱えると発動すると言った。
「ステータスオープン」と心で唱える。
名前:ソルト・デストロイ
性別:男
年齢:0
種族:人族
状態:正常
LV:1
HP:3
MP:5
筋力:1
耐久:2
敏捷:1
器用:4
魔法:なし
スキル:蒸発Lv1
称号:?????
この世界では「ソルト・デストロイ」が僕の名前か……。
?????とは何だ? そして、この<スキル:蒸発>とは何だ?
前世では蒸発って<水が蒸発>するとかになるんだけど……。
まさか<女房が蒸発>とかだと、どんなスキルなんだ? 僕は未婚だから関係ないけど……。
前世で読んだ事のあるラノベのように、このスキルを唱えれば発動するのか?
この赤ん坊のままでは試す事は出来るのか?
試したい! 試したい! 試したい!
なんせ、赤ん坊は暇過ぎて狂いそうになるのだ。
暇つぶしになるなら、なんでもいいのだ。
だが、寝がえりも打てなくて、どうしようもない状況だ。
部屋を目でキョロキョロと見渡せば、部屋の隅のテーブルの上に花瓶があり一輪挿しになっており、壁には絵が飾られており、タンスが1つあるだけだ。
よし! あの、花瓶の中の水を蒸発させてみよう。
「<<<蒸発!>>>」