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エピローグ

(沼田)小早川家が、インド株式会社の代表取締役の上里松一の息子、上里正道を婿養子として迎える、との話は速やかに備後や安芸に広まった。


「いかんなあ」

 その話を聞いた毛利元就は苦笑いをして、小早川隆景にぼやいた。

「儂にしては欲をかき過ぎた。まさか、こんな結末が待っておったとは」


「この縁談、父上でもどうにもなりませんか」

 隆景の問いに、元就は両手を挙げておどけて言った。

「インド株式会社に本願寺だぞ。幾ら儂でも勝てぬ喧嘩はできぬわ。どちらか一つでも勝てぬのに、二つを相手取っての喧嘩になってしまうからな。それにそんなことをすれば、安芸や備後の住民の一部が激発しかねん。安芸や備後には本願寺門徒が多いからな。そうなっては、安芸の国司代の地位も失いかねん」

「はは、そうですな」

 隆景も苦笑いして、そう言うしかなかった。


「最も田坂全慶はこの後で苦労するぞ」

 だが、次の瞬間に元就は真顔になって隆景に言った。

「それは何故に」

「上里松一としては、息子や娘婿を世界で活躍させたい筈だ。当然、正道も世界に赴くことになるが、その場に田坂全慶もついて行くことになるだろうからな」

「ああ、確かに60歳近い身で世界を飛び回るのは辛そうだ」

 元就と隆景親子は、全慶が世界を飛び回る姿を想像して、笑いをかわした。


 そして、元就と隆景の想像は間違ってはいなかった。


「道平殿、永子様、どちらに赴かれるので」

「うむ、新婚生活も充分に楽しんだだろうから、ちょっと北米に行ってこい、と社命でな」

「ちょっと北米ですか」

 1561年春、上里正道、あらため小早川道平夫婦と全慶は、そんなやり取りを大坂でしていた。


 尚、全慶は1559年に執り行われた道平夫妻の結婚式に出席した後、息子の田坂頼賀に家督を譲り、完全に隠居していて、今では小早川家の三太夫を自称している身だった。

 更に言えば、道平は1560年春に中学校を卒業したすぐ後、インド株式会社に入社していた。

 全慶としては、道平夫妻に三原に住んで欲しかったが、道平夫妻は大坂に住むようになった。

 しかし、上里松一の息子である以上、インド株式会社に道平が入るのはどうにもならない、と割り切らざるを得なかったが、更に全慶に追い打ちをかけるような事態が起きてしまったのだ。


「何、用事が済めば、すぐに日本に帰れる」

「用事ですか」

「うむ、ミシシッピ川の河口に軍民兼用の港を作るそうで、賑わう市場を作るという用事だ。全慶、力を貸してくれ」

「全慶、私からも頼みましたよ」

「ははっ」

 全慶のその答えに満足した道平は、一通の書面を全慶に渡した。


「インド株式会社の嘱託従業員に、田坂全慶を無期で採用する」

 その書面にはそう書いてあり、それに目を通した全慶は腰を抜かした。

 儂はもうすぐ満でも60歳だぞ。

(註、田坂全慶は1502年生まれ)

 この老爺に北米で働けというのか。


「という次第だから、爺にもきちんと給料が出る。安心してくれ」

「全慶が傍にいてくれるのなら安心ですね。貴方」

「うむ」

「ははっ」

 全慶は白目をむきながら、半ばうわ言で答える羽目になっていた。

 そして、半年余り後。


「儂は何故にこの土地にいるのだろう」

 全慶は、冬が近づく中で、哲学めいた自問自答をしていた。

 今、自分の目の前に広がっているのは、カリブ海だ。

 儂は瀬戸内海以外の海を見るとしても、精々が太平洋になると思っていたのだが。

 太平洋どころか、カリブ海のほとりに儂がいることになるとは。

 そして、その傍では。


「貴方、やや子が動きました」

「どちらが産まれるかな」

「男の子だといいですね」

「リョコウバトの群れのように子どもを作りたいな」

「私の身が持ちませぬ」

 道平夫妻がいちゃついていた。

 これで完結します。


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