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第2話

 だが、(沼田)小早川家の不幸は、完全には終わっていなかった。

 小早川繁平は、まだまだ幼いのに眼病を患ってしまったのだ。

 田坂全慶は、それこそ備後やその近隣国中までも眼の名医を探し求めて奔走し、更には呉に皇軍の軍医がいると聞きつけ、皇軍の医術をもってすれば、何とかなるのでは、と一縷の望みを抱いて、繁平と共に呉にまで赴いたのだが。

 皇軍の軍医の診断は、全慶にしてみれば冷酷にも繁平の失明は避けられない、とのことだったのだ。


 少なからず話は変わるが、皇軍の来訪による「天文維新」以降、日本中で小早川家のような国人層の解体、転職が徐々に始まりつつあった。

 そうした国人層の中で、もっとも上手く転職できたのが毛利元就らで、新たに設けられた国司代になって、かつての守護代並みの権限を朝廷、新政府から与えられて、その手腕を振るうようになっていた。

 そこまで上手く転職できなかったが、それなりに成功したといえるのが、郡司になったり、新たな国府や郡役所の官吏になった面々だった。


(そして、実はこの階層が一番、多かった。

 何しろ、これまで実際に日本の地方統治に当たっていたのは、国人層と言っても過言ではない。

 だから、国人層が地方官吏に転職するのは、半ば必然的な話だったのだ)


 田坂全慶もそれなりに転職に成功した身だった。

 この当時、三原の近くにあった沼田市場がある集落の長に、事実上は横滑りしていたのだ。

(勿論、これにはそれなりどころではない背景があり、皇軍来訪以前から、沼田市場を事実上の支配下に置いていたのは、田坂全慶だったのだ)


 この沼田市場は、(あくまでも号していただけで、実態は半分以下だったが)沼田千軒と号される程の商人や職人の家が立ち並び、山陽道と三原港が連接している市場としてにぎわっていた。

 そのために、田坂家は富裕をもって、備後南部やその周辺に名を轟かせており、こうした背景があることから、(沼田)小早川家の当主、小早川正平としても田坂全慶を息子の繁平の後見人に指名したのだ。

(後、庶流の庶流ではあったが、小早川家の一門の端くれという立場に田坂家があったのもあった)


 そして、田坂全慶としては、ゆくゆくは小早川繁平の成長を待って、(沼田)小早川家の当主に繁平を押し立てて、できうれば御調郡の郡司に繁平を就任させよう、と将来を楽しみにしていたのだが。

 肝心の繁平が失明するという不幸に見舞われたのだ。


 勿論、失明したからと言って、繁平の命はあるのだから問題はない、という見方もある。

 だが、この当時、視覚障がい者への教育は、皇軍来訪により大いなる発展がもたらされていたとはいえ、将来の職業として、庶民ならば鍼か按摩、もう少し上流階級出身なら筝や琵琶の演奏家になれれば御の字、というのが現実だった。

 更に言えば、繁平のような国人階級以上の場合は、僧侶になって、仏道修行に励むのが通例だった。

 しかし、繁平が僧侶になっては、小早川家の後継ぎをどうすればいいのか。

 田坂全慶は、繁平の将来をどうすべきか、苦悩することになった。

 そして。


「田坂、盲学校とやらに自分は入ってみたいが、ダメなのか」

「ダメとは申しませぬが」

 田坂全慶と繁平は、そんなやり取りまですることになった。


 皇軍の軍医は、田坂全慶にしてみれば、少し要らぬ事まで更に話していた。

 京都には盲学校ができつつある。

 そこで、繁平が勉学に励んではどうか、と言ったのだ。


 備後の三原から、山城の京の都までの距離を考えると、更にそこに繁平を預けるに足る頼れる知人がいるか、ということまで考えていくと。

 田坂全慶の苦悩は深まる一方だった。

 とはいえ悩むだけには行かず、田坂全慶は動かざるを得なかった。

 最近の研究では、小早川繁平は失明していない、という説もあるようですが、この小説世界では、小早川繁平は失明したことにしています。


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